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目が覚めて辺りを見回すと自室のベットの上でした。
夢でよかった、と、一息をして窓の方を見るとカーテンの隙間から射し込む弱い朝日が部屋をぼんやりと照らしています。
嫌な汗をかいて心も体も重い。
---嫌な夢を見てしまったわ。
このまま部屋にいると夢の内容をなぞってしまいそうだから、少し散歩にいこうと、隣で寝ているシルフィを起こさないようにそっとベットから降ります。汗でぬれた上着を着替えて部屋をでました。
早番の使用人たちが起きて朝の支度をしている音が聞こえてくる中、そっとテラスの大きな窓を開けて庭へ出てそのままふらふらとあてもなく歩きます。
う~ん、と力いっぱい伸びをして朝の冷たい空気を吸い込むと、もやもやしたものが体から出て行く気がして気持ちがいいです。散歩に出て正解でしたね。
ふらふらと歩いているつもりが、いつの間にか裏庭の木立の方に来てしまったようで、お気に入りの大きな木の根元に立っていました。
木を背にしてしゃがんで、目の前の池をぼうっと見ていると昨日のことを思い出してしまいました。
お仕事の仲間と楽しそうに笑っているジーク様。
手をつないだり、優しい顔で笑ってエスコートしてくれたジーク様。
意地悪な顔でいたずらを仕掛けてくるジーク様。
きれいな女性の横で楽しそうなジーク様。
溺愛している相手がいるジーク様
今まで私の見ていたジーク様は何だったのでしょうか。
膝を抱えて座り込んで目をつむってうずくまっていると、池を走る風の音や、鳴いている小鳥の声が聞こえてきます。
朝日が体に当たってきたのかぽかぽかしてきました。
---?
なんだか視線を感じて顔を上げると池の対面にジーク様がいました。
---そんなことあるわけないな、また夢見てるのかな?また私に背を向けて行ってしまうのかな?
夢の中でたくさん泣いたのにまた涙が出てきて体の中が干上がってしまいそう。対岸のジーク様は驚いたような様子だったけども、それもすぐににじんで見えなくなった。そのまま膝と胸の間に顔をうずめると視界が暗くなって何も見えなくなる。
---このまま『溺愛する人』がいるジーク様にまとわりついていくのか、それとも婚約を破棄してフリューゲルス家に益のある政略結婚をするのか。
私の気持ちはジーク様にあるけどジーク様には最愛の方がいて、私が身を引けばジーク様は幸せになるのかしら?
「リリアン!こんなところにいたのか!」
名前を呼ばれて顔を上げるとリンゼイ兄様が心配げにのぞき込んでいました。
「ここは例の場所だろ?危ないじゃないか。」
「大丈夫ですよ。もう池に入ったりしません。」
泣いているのを見られてしまいました。ちょっと気まずいです。
「・・・。つらいのか?」
「どうしたらいいのか、わからなくなってしまって。」
「リリアンのやりたいようにすればいいんだよ。」
「・・・。ジーク様には溺愛している方がいらっしゃるんですって。」
「ふーん。それを聞いてリリアンはどう思ったの?」
「私から婚約破棄をしたらジーク様はその方と幸せになれるのではないかと思って。」
「じゃあ、それを本人に言ってごらんよ。」
「ジーク様に?」
「ああ。ちょうどそこにいるみたいだし。」
「そこに?」
リンゼイ兄様にそんなことを言われてきょろきょろと辺りを見回しますが、どこにもジーク様は見当たりません。
もう!リンゼイ兄様はまた私のことをからかったのですね!
「リンゼイ兄様、ありがとう。ちょっとびっくりして涙は引っ込んでしまったわ。」
「え~?そう?・・・まあいいか。じゃあ、お礼にいつものしてくれよ。」
片手で私のことを抱き上げたリンゼイ兄様はいたずらっぽく優しい顔でおねだりしてきました。
「またそんなことを言って!」
リンゼイ兄様が片頬を突き出してきます。仕草がおかしくて思わずくすりと笑うと、
「やっと笑ったな。俺の子猫は笑顔が一番だからな。」
ありがとうの気持ちを込めて頬にキスをしました。




