第5話:爆速のダンジョン攻略と、狭い通路の密着ハプニング
「シュンッ……ジャキンッ!」
Fランクダンジョンの薄暗い洞窟内に、鮮烈な青い軌跡が奔る。
「ギ、ギャアアアッ!?」
襲いかかってきたホブゴブリン(中型種)の太い腕ごと、巨大な木棒が真っ二つに両断された。
攻撃を繰り出したのは葵だ。
「すごい……凄いです島崎さん! 刀の重さを感じないから、相手の懐に一瞬で飛び込めます!」
軽やかなステップを踏み、楽しそうに笑う葵。
その背後を守る島崎は、自慢の三万円サバイバルナイフを構えながら、周囲の暗闇に視線を走らせていた。
「油断するなよ、葵。奥に行くほど数が増えてくる。……よし、コード解析」
島崎の視界に、押し寄せてくるゴブリンたちの構造データ(ソースコード)が緑色の文字列でズラリと浮かび上がる。
Plaintext
Target: Goblin_Group (Count: 12)
Weakness: Neck, Joint
Pattern: Flank_Attack
「葵、三時の方向の壁裏に三匹隠れてる。俺が路地を遮断するから、正面の九匹を一気に叩け!」
「了解です!」
島崎がサバイバルナイフを空間に向けてひと振りする。
『空間固定(Block_Path)』の概念が付与された一閃が、三時の方向の横穴を不可視の壁で完全に塞いだ。ゴブリンたちが壁に激突して「ブギャ!?」と間抜けな声を上げる。
「ハッ――!」
退路を断たれ混乱する正面の群れへ、葵が疾風の如く躍り出た。
一閃、二閃、三閃――。
重さゼロのチート模造刀が残像を描き、わずか五秒で九体のゴブリンが光の粒子となって消滅した。
「ふう……っ」
息を整えようとした葵だったが、足元の湿った濡れコケに足をとられ、「きゃっ!?」と体制を崩してしまう。
「っと、危ない!」
島崎が咄嗟に手を伸ばし、倒れそうになった葵の腰を抱き止めた。
「んっ……あ……っ」
洞窟の狭い通路で、二人の身体が密着する。
チートウェアが葵のしなやかなボディラインに完璧にフィットしているため、島崎の腕には彼女のキュッと引き締まったウエストと、豊満な胸の柔らかい感触がダイレクトに伝わってきた。
至近距離で重なる吐息。薄暗い洞窟の光の中で、葵の潤んだ瞳が揺れる。
「……大、大丈夫か、葵」
「は、はい……すみません、島崎さん。支えていただいて……」
抱きしめられたままの姿勢で、葵が上目遣いに島崎を見つめてくる。
ダンジョン探索の興奮と、急接近した距離感。葵のほてった体温と甘い汗の香りが、島崎の理性を揺さぶる。
「……その、島崎さんの腕、すごく力強いですね……」
「コ、コホン……! 怪我がないならいい。……よし、次が最深部だ。ボスの気配がするぞ」
島崎は慌てて咳払いをして葵の身体を離した。
葵もポッと頬を朱に染めながら、名残惜しそうに衣服の乱れを整える。
狭い洞窟を抜けると、広いドーム状の空間に出た。
そこに鎮座していたのは、身長三メートルを超えるFランクダンジョンのボス――『ゴブリンキング』だった。
「グオオオオオオオオンッ!!」
巨大な鉄塊のクラブを振り回し、地響きを立てて咆哮するボス。
「島崎さん、あれがボスです……!」
「落ち着け。ボスと言っても、コードを解析すればただのバグの塊だ」
島崎はボスの巨体に意識を集中し、脳内でコードを書き換える。
「『Overclock(限界突破)』を葵の刀に付与。――葵、一気に行くぞ!」
「はいっ!」
島崎のコマンドが実行された瞬間、葵の持つ刀が爆発的な青い閃光を放った。
疾走する葵。その速度は、音速の壁すら超えるかのようだった。
「ガ……!?」
ゴブリンキングがクラブを振り下ろすより早く、葵の身体がボスとすれ違う。
沈黙。
一秒後、巨体が斜めにズレ落ち、轟音とともに地表へと崩れ落ちた。
ボスの胸元から、輝く巨大な『ゴブリンキングの魔核』が転がり出る。
「……勝った……! ボスクリアです、島崎さん!」
「ああ、お疲れ様。見事な腕前だったぞ、葵」
ボス討伐タイム、ダンジョン進入からわずか二十分。
二人は無傷のまま、ドロップアイテムの魔核を拾い上げ、爽やかにダンジョンの出口へと向かうのだった。




