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第6話:三十分でクリアした後のビールはうまい。そして居候(確定)へ

河川敷の『Fランク:多摩川ダンジョン』の出口。

二人が光を潜り抜けて地上へ戻ってきた時、受付の巨大なデジタル時計が示していた時間は、潜入からわずか二十七分後だった。


「ふう、いい運動だったな。葵、怪我はないか?」

「はいっ! 島崎さんの服のおかげで、汗一つかいてないくらいです!」


無傷のまま爽やかに談笑する二人を、周囲で待機していた若手探索者たちが、目を丸くして注視していた。


「おい……あの二人、入っていってから三十分も経ってないよな?」

「絶対途中で怖くなって逃げ帰ってきたんだろ。おっさんと綺麗なお姉さんの組み合わせだしさ……」

「いや待て! あの姉ちゃんが手にしてる透明な袋、最深部ボスの『ゴブリンキングの魔核』じゃないか!?」

「ハァ!? 三十分で最深部まで行ってボス倒してきたってことかよ!?」


ざわめきと驚愕の視線が集中する中、島崎と葵は「よし、帰って一杯やるか」「ですね!」と呑気に軽トラへ乗り込んだ。

取り残された若手探索者たちの呆然とした顔をバックミラーで確認しながら、島崎は小さく口角を上げた。


◆


その日の夜。島崎の自宅リビング。


「くぅぅ~っ! やっぱりダンジョン帰りの冷えたビールは最高ですね!」


風呂上がりの葵が、プハッと息を吐きながら缶ビールを喉に流し込む。


濡れた黒髪から甘いシャンプーの香りが漂い、ゆったりとした部屋着の胸元からは、風呂上がり特有のほてった肌が覗いていた。

会社での隙のないスーツ姿を知っている島崎からすれば、あまりにも毒性が強い光景だ。


「葵、お前……一応言っておくが、俺は55歳のおじさんだぞ。もう少し警戒心というものを持った方がいい」


島崎が苦笑しながら枝豆をつまむと、頬をほんのり赤く染めた葵が、ニシシと悪戯っぽく微笑んだ。


「ふふ、島崎さんだから安心してるんですよ。他の男性だったらこんな無防備な格好しません」

「それは光栄だがな……」


葵は缶ビールをテーブルに置くと、ソファの上でスーッと身体を寄せてきた。

ふわりと重なる体温。膝と膝が触れ合う距離感に、島崎の心臓が不意にドクンと跳ねる。


「私……本気ですから」


上目遣いで島崎を見つめる葵の瞳は、少し潤んでいて、それでいてまっすぐだ。


「会社の寮は今日引き払ってきました。スーツケースの荷物、全部島崎さんの二階の空き部屋に運び込んじゃいましたからね。もう後戻りはできませんよ?」


「おいおい……事後報告かよ」


「嫌ですか……? 私と暮らすの」


少し不安そうに首をかしげる葵。

大人の色気と無邪気さが同居したその表情に、55歳の元ベテランSEは完全に降参の息を吐いた。


「……嫌なわけないだろう。ただ、お前みたいな若い優秀な女性を引き留めていいのかと思っただけだ」


「私が居たいから居るんです! 島崎さんの『システム錬金術』を一番近くで見守って、一番近くで支えるバディは……私じゃなきゃ嫌です」


葵は満足そうに笑うと、島崎の肩にそっと頭を預けてきた。

柔らかい髪の触感と、ビールの甘い吐息。大人同士の、どこか甘く心地よい沈黙がリビングを包み込む。


「よしっ! 決まりですね! 明日からは本格的に素材集めと、島崎さんの『拠点(ガレージ)の魔改造』をはじめましょう!」


「ああ。まずは……愛車の軽トラから手をつけるとするか」


「軽トラですか!?」


「フッ……最高の『移動要塞』に作り変えてやるさ」


こうして、二人の甘い同居生活と、本格的な「魔改造クラフト」の日々がスタートしたのだった。

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