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第17話:雲上の露天風呂『スカイスイート』展開と、富士ダンジョン深層への超絶加速

富士地下大樹海ダンジョン第30階層――【天空の大雲海】。

先ほどまで上空で威張っていたSランクギルド【黄金の獅子】の巨大飛空船が、自業自得の自滅によって遥か雲海の彼方へと惨めに落ちていった後、この神秘的な浮遊島には再び穏やかで澄み切った静寂が戻っていた。


黄金色に煌めく雲の海を見下ろしながら、島崎成己と桐生葵の二人は、軽トラのシステムキッチンで作った特製バゲットサンドを美味しそうに完食したところだった。


「ふぅ……美味しかったですね、島崎さん! 外はパリパリで、生ハムの塩気とトマトのみずみずしさが最高でした!」


葵が満足そうにお腹をさすりながら、心からの笑顔を弾けさせる。


「ああ、外の素晴らしいロケーションも相まって、格別の味だったな」


島崎は麦茶の入ったグラスを傾けながら、ふと自分のスマートフォンを取り出した。

画面には、ダンジョン探索者管理システムの公式アプリから、ものすごい数の通知ポップアップが連打されるように届いていた。


『――緊急システム通知:第30階層到達を自動検知しました』

『――探索者ID:島崎成己、桐生葵の両名に対し、ギルド公認ランクの自動特例昇格(Aランク飛び級)が適用されました』

『――警報:【黄金の獅子】所属・大型飛空船の救助シグナルを受信中。最寄りの探索者は至急確認を――』


画面には、かつて見たこともないような赤色と金色の強調表示で、個人探索者としては異例中の異例である「Aランク昇格」と「救助要請」の文字が踊っていた。通常の探索者であれば、飛び上がって歓喜し、すぐさま地上へ戻ってギルド本部で表彰を受けるレベルの大偉業である。


しかし、島崎はその画面を一瞥すると、何の未練もなく画面をスワイプしてアプリを閉じ、静かにスマホをポケットへとしまってしまった。


「島崎さん、何か連絡でしたか?」


「いや……ギルドの手続き通知と、何か騒がしい救助要請だな。まあ、わざわざ戻って面倒な受付手続きや報告書を書かされるのも時間の無駄だ。今はスルーして先を進めよう」


「ふふ、そうですね! 島崎さんと軽トラで行くこのドライブの方が、100倍大切ですから!」


ギルドの常識やランク制度すらあっさりと無視し、二人は次の階層への出発準備へと取りかかった。


「さて……葵。ここから先はさらに過酷な深層エリアに入る。31階層以降は強力な飛行型の魔獣や、環境そのものが苛酷な特殊階層が続くはずだ。だからここで、軽トラにさらなる魔改造――『機能拡張プログラム』を適用しようと思う」


「さらなる魔改造……! 一体どんな機能なんですか、島崎さん!?」


葵が目を丸くして、期待に満ちた眼差しで身を乗り出してくる。

島崎は静かに頷くと、軽トラの車体側面に手をかざし、頭の中で『システム錬金術』のコンソールを呼び出した。


『――システム錬金術・第二段階開放:Sky_Suite_Transformation 実行』

『――荷台構造拡張:高密度エアロ・フレーム展開』

『――特装ギミック:移動式ヒノキ露天風呂&テラスウッドデッキ生成』


ガションッ! ウィィィィン……!!


純白の軽トラの荷台が、変形ロボットのごとく滑らかにスライドし、左右と後方へ向かって大きく拡張されていく!

アオリ(荷台の囲い)が倒れて重厚で温かみのある天然檜(ひのき)のウッドデッキへと変貌し、荷台の中央には湯気が立ち上る高級感溢れる『檜づくりの露天風呂』が突如として出現した。


風呂の横には、ボタン一つでいつでも冷たいジュースや地ビールが湧き出るミニバーカウンターと、ゆったりと腰掛けられる防水のリクライニングチェアまで完備されている。


「な……なんですかコレはぁぁぁっ!?」


葵が驚きのあまり、口をポカンと開けて荷台を見上げる。


「雲上の絶景を眺めながら入れる、『移動式・露天風呂スイート仕様』だ。ダンジョン内での長旅の疲労を完全に癒やすために作ってみた。温泉機能には、ダンジョンの魔素を極上の高濃度温泉成分へ自動変換するフィルターを組み込んである」


「露天風呂……! 雲の上で露天風呂に入れるなんて、そんなの最高すぎます……!」


「よし、ちょうど食後の腹ごなしだ。次の階層へダイブしながら、一風呂浴びるとしよう」


「はいっ!!」


二人は早速、車内ストレージに用意されていたバスローブに着替えると、雲上に浮かぶ軽トラの荷台露天風呂へと足を踏み入れた。


チャプン……っ。


「はぁぁぁぁぁっ……気持ちいいぃぃぃ……っ!」


お湯に肩まで浸かった葵が、うっとりとした表情で体を脱力させる。

ほんのりと芳醇な檜の香りと、身体の芯までじわじわと温まる高濃度温泉の効能が、これまでの連戦(といってもダイブしていただけだが)の微かな緊張感を瞬時に溶かしていく。


軽トラは自動操縦モードで浮遊島を静かに離陸し、車体周囲に強力な防風バリアを展開しながら、次なる深淵――第31階層【竜の巣・雲上天空圏】の竪穴へと再びゆったりとダイブを開始した。


シューーーーッ……!


絶景の雲海と流れる景色を眺めながら、檜風呂の湯船に浸かる二人。


「ふぅ……これは効くな。肩のコリが一気にほぐれていくよ」


「島崎さん、本当に極楽ですね……。会社員だった頃は、シャワーだけで済ませて終電に飛び乗る毎日でしたから……こんなに贅沢なお風呂に入れるなんて、夢みたいです」


葵が湯船に浮かべた小さな桶から冷えた果汁100%のオレンジジュースを一口飲み、幸せそうに頬を緩める。

時速数百キロで深層へ向かって垂直降下している最中だとは、誰も思うまい。


――しかし、そんな極上の癒やしタイムを破るように、第31階層の暗雲の中から凄まじい咆哮が轟いた。


グォォォォォォォォンッ!!


雲を切り裂いて姿を現したのは、体長十メートルを超える巨大な巨大飛竜――【ワイバーン】の群れだった!

その数、およそ五十頭。強靭な翼を羽ばたかせ、鋭い鉤爪と鋭利な牙を剥き出しにしながら、露天風呂を満喫している軽トラへ向かって狂ったように突進してくる!


「あ、島崎さん! ワイバーンの群れです!」


「やれやれ、お風呂の時間を邪魔されるのは感心しないな」


島崎は湯船から手を伸ばし、ダッシュボードから連動している防水リモコンのボタンを操作した。


『――自動防衛モード:指向性超音波バリア&対空プラズマキャノン起動』


ズガガガガガガガッ!!


軽トラの車体各部から放たれた目に見えない衝撃波とプラズマ光線が、襲いかかるワイバーン群を寸分違わず撃ち抜いていく。

ワイバーンたちは叫び声を上げる隙すら与えられず、次々と青い光の粒子となって消滅していった。


『――ターゲット全滅。最上級ワイバーンの魔核および【古代飛竜の超高純度魔鉱石】の回収完了』


「お、いい素材が手に入ったな」


島崎は湯船の脇の操作パネルをタップし、回収したばかりのワイバーンの超高純度魔鉱石と、車載ストレージ内にあった高性能パーツを『システム錬金術』で合成・錬金を開始した。


『――システム錬金術:特殊ドローンクラフト起動』

『――自律型サポート・AIアシスタント試作機の生成を開始します』


ピカーーーッ!!


湯船の脇の錬金ポートが眩い光を放ち、そこから一機の可愛らしいメカが浮き上がってきた。

手のひらに乗るほどの大きさの、ピカピカに磨き上げられた純白とゴールドの球体型アシスタントドローンである。

前面には愛くるしいつぶらな青いLEDの瞳が点灯し、可愛らしい小さな翼がパタパタと動いていた。


『――起動完了。ハジメマシテ、マスター! アタシハ自律型探査アシスタントドローンノ【ポーカー】デス!』


球体ドローンが、コミカルな電子音で元気よく挨拶をした。


「わぁぁぁっ! 可愛いっ!! 島崎さん、この子、浮いてますよ! 可愛いドローンちゃんです!」


葵がお風呂から身を乗り出し、目を輝かせてポーカーの手のひらサイズの丸い身体をなでなでする。


『ピピッ! アオイ様、撫で撫でアリガトウゴザイマス! コレヨリ本車『天空スイート号』ノ索敵・ナビゲーション・素材回収アシストヲ全力デ担当シマス!』


「よし、ポーカー。これから一気に第70階層の深淵手前までダイブする。最適な降下ルートの解析とナビを頼むぞ」


『ラジャーデス、マスター! 超高密度魔力スキャナー起動! 最短降下ルート、解析完了シマシタ! 32階層カラ69階層マデ、一気ニ突破シマス!』


ポーカーが愛らしい小さな羽をパタパタと羽ばたかせながら、軽トラのフロントガラス前へと移動し、立体ホログラムの最短ナビゲーションマップを展開する。


「よし、葵。お風呂を上がったら、いよいよ富士ダンジョンの最深部――第70階層へ向けて全速力で駆け抜けるぞ!」


「はいっ、島崎さん! ポーカーちゃんもよろしくね!」


『任せてクダサイ! 爆速ドライブ、スタートデス!』


お湯から上がり、快適な車内着に着替えた二人は、運転席と助手席へと戻った。

島崎がアクセルペダルを床まで踏み込むと、軽トラ『天空スイート号』は荷台の露天風呂を格納・VTOL高速飛行モードへと変形完了し、反重力スラスターの爆発的な推進力で加速した。


ドゴォォォォォンッ!!


ポーカーが弾き出した最適ルートを辿り、軽トラは音速を越えるスピードでダンジョンの深層を突き進む。


灼熱のマグマが渦巻く50階層の【紅蓮の溶岩洞窟】エリア。

極寒の氷河が視界を埋め尽くす60階層の【絶対零度の氷河地帯】。

重力が複雑に歪み、巨大な岩塊が乱舞する68階層の【重力崩壊エリア】。


通常の探索者であれば、一歩足を踏み入れるだけで命を落とす地獄のような過酷な階層群を、軽トラの完璧な各種環境バリアとポーカーの精密なナビゲーションによって、二人は何のリスクもなく、まるで高速道路のドライブのごとく次々とスキップしていった。


そして――ダイブ開始からわずか十数分後。


キィィィィィン……!


軽トラのスピードが静かに減速し、二人の前にこれまでとは明らかに質の異なる『異次元の気配』を纏った巨大な漆黒のゲートが現れた。


そこは、富士地下大樹海ダンジョン第70階層。

人類が誰一人として足を踏み入れたことのない、前人未到の最深部エリアであった。


「島崎さん……ここが、第70階層……ですか?」


葵が息をのむ。

フロントガラスの向こう側に広がっていたのは、地球上のダンジョンの常識を遥かに逸脱した、漆黒の宇宙空間のような無重力世界と、怪しく輝く未知の星々であった。


『マスター、前方ニ未知ノ高次元ポータルヲ感知! コレハ地球のダンジョン構造ノ終点デあり、異星・異世界へと繋がる【外宇宙空間ゲート】デス!』


ポーカーが真剣な電子音で告げる。


島崎は口元に不敵で楽しげな笑みを浮かべ、ステアリングを強く握りしめた。


「ふっ……なるほどな。富士ダンジョンの最深部は、地球の外……宇宙と異世界に繋がっていたというわけか。面白くなってきたじゃないか」


「はいっ! 島崎さんと軽トラと一緒なら、宇宙でもどこへでも行きます!」


葵も力強く頷き、二人の絆と信頼は揺るぎないものとなっていた。


地球の常識を遥かに置き去りにした軽トラの冒険は、いよいよ富士ダンジョン70階層の宇宙空間、そして未知なる異世界へと突入していくのだった――!

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