第14話:舞い上がる白銀の車体。空を飛ぶ軽トラ爆誕!
『氷狼の霊峰』の麓に設置された、政府調査団の特命キャンプ地。
「おい……あれを見ろ! 雪山の上から、何か下りてくるぞ!?」
氷点下三十度の猛ふぶきの中、寒さに震えながら見張りをしていたAランク探索者が、驚愕の声を上げた。
吹雪の白壁を押し破るようにして姿を現したのは、一台の【白い軽トラック】だった。
タイヤには泥も雪も付着しておらず、まるで洗車した直後のようにピカピカと輝いている。
軽トラは積雪一メートルの悪路を滑らかに走り抜けると、凍え死に寸前だった調査団たちの前で静かに停車した。
ウィーン……。
パワーウィンドウが開き、ほかほかの暖気とともに、ホットココアのマグカップを持った島崎が顔を出した。
「やあ、皆さん。無事だったか?」
「あ……あ……お前たち、生きてたのか!? Sランクボスの『氷霜の竜王』はどうなった!?」
隊長が血の気を失わせながら叫ぶ。
島崎は荷台のシートをチラリと指差した。そこには、山のように積まれた超高純度の氷結晶と、氷龍の巨大な逆鱗が鎮座していた。
「ボスなら討伐しておいたよ。道も開けたから、あとは好きに調査するといい」
「「「な……なんだってぇぇぇぇーーーっ!!??」」」
絶叫する精鋭調査団を置き去りにして、軽トラは軽快なエンジン音とともに、そのまま都心の自宅ガレージへと走り去っていった。
◆
その日の夜。島崎の自宅併設ガレージ。
作業台の上には、Sランクダンジョンの古代宝箱から回収した『古代魔導永久機関エンジン核』が置かれていた。
握りこぶし大の蒼い結晶が、ガレージの壁に美しい幻想的な光の紋様を映し出している。
「さて……いよいよ本命のシステム更新にかかるか」
島崎が腕まくりをし、両手を結晶と軽トラへとかざす。
視界が色彩を反転させ、宙に膨大な青いソースコードが浮き上がった。
Plaintext
Class: Ancient_Mana_Core {
Energy_Output: Infinite;
Anti_Gravity_Potential: Max;
}
Class: Kei_Truck_Custom {
Engine: Mana_Engine_v2;
Drive: All_Terrain_Hover;
}
「ふむ……古代文明のエンジン核と、現在の軽トラの制御プログラムを結合させる。……よし、新クラス『Sky_Drive_Module』を定義しよう」
指先を滑らせるたび、空中を流れるコードが激しく書き換わっていく。
「『Anti_Gravity(反重力)』の定数を上限まで開放。さらに『Flight_Control(飛行制御)』と『Supersonic_Cruise(超音速巡航)』の関数をクラス内にインポート……。気圧変化と慣性(G)を相殺する『Inertia_Canceller』もループ処理に仕込んでおくか」
トントンッ、と空中のエンターキーを強く叩く。
『――コンパイル完了。新モジュール【天空飛行(Flight_Mode)】が実装されました』
シュン……!
蒼い結晶が光の粒子となって解け、軽トラの車体へと吸い込まれていった。
外見は相変わらずの白くて丸っこい軽トラだが、纏う空気の密度が明らかに異次元のそれへと昇華している。
「島崎さん、できたんですか……!?」
ガレージのドアから顔を出したのは、お風呂上がりの葵だった。
しっとりと濡れた黒髪をタオルで拭いながら、部屋着のショートパンツ姿で島崎の隣へ駆け寄ってくる。ほてった肌から甘いアロマの香りがふわりと漂い、豊かな胸元が歩くたびに柔らかく揺れていた。
「ああ、ばっちりビルドが通ったぞ。……葵、試運転に行ってみないか?」
「はいっ! 喜んで!」
二人は早速、軽トラへと乗り込んだ。
室温25度に保たれた車内で、島崎がダッシュボードに追加された青いスイッチ――【Flight_Mode】を押し込む。
ガシャコン……。
静かな金属音が響き、軽トラの四つのタイヤが水平方向に90度折れ曲がった。タイヤホイールから美しいプラチナ色の反重力光が放射される。
フワリ……。
「わ……っ!? 浮いてる……! 軽トラが浮いてます、島崎さん!」
ガレージの天井シャッターが滑らかに開くと、軽トラは音もなく真上へと垂直離陸を開始した。
高度100メートル、500メートル、1000メートル――。
車内には揺れも、騒音も、不快なGも一切ない。
まるで高級ホテルのスカイラウンジのソファーに座っているかのような静寂の中、眼下には都心の夜景が宝石箱をひっくり返したように美しく広がっていた。
「すごい……! 綺麗……っ!」
葵は助手席の窓に身を乗り出し、目を輝かせて夜景に見入っていた。
やがて彼女は感動に頬を染めながら、ソファーの上でスーッと島崎のすぐ隣へ滑り寄ってきた。
「島崎さん……」
「ん?」
葵は両腕で島崎の右腕をぎゅっと抱きしめ、自分の豊満な胸の柔らかさを惜しげもなく押し当ててきた。
上目遣いで見つめてくる瞳には、熱い尊敬と甘い愛情が満ち溢れている。
「私、島崎さんと出会えて……本当に幸せです。社畜だった頃は、毎日終電でこんな綺麗なお星様を見る余裕なんてありませんでした。……どこへでも、島崎さんと一緒に行きたいです」
「……ああ。俺も、お前が隣にいてくれて良かったよ。一人じゃ、こんな景色を眺めてもつまらんからな」
「島崎さん……っ」
嬉しさを隠しきれない葵が、胸元にすり寄ってくる。
夜空を優雅に飛翔する【天空軽トラ】の中で、二人だけの甘く温かい時間が静かに流れていった。
◆翌朝。
『天空軽トラ』の爆誕により、二人の冒険は新たなステージへと進もうとしていた。
ギルド本部から届いた次なる指令。
それは、日本国内最大級にして最難関と言われる100階層の超巨大ダンジョン――『富士地下大樹海ダンジョン』の攻略調査依頼だった。
「空も飛べて、どんな悪路も快適に走れる軽トラ……。島崎さん、私たちの最強の相棒の出番ですね!」
「ああ。冷え冷えのジュースと美味しいお弁当を積み込んで、前人未到の100階層ダンジョンへ『快適ドライブ』と行こうか!」
陸を制し、雪山を越え、大空の翼まで手に入れた55歳元SEと可憐な美女部下。
最強の相棒(軽トラ)とともに、二人の伝説は新たな大ダンジョン『富士地下大樹海』へと突入するのだった――!




