第11話:完勝の帰還と、ギルドを揺るがす荷台の戦利品
『奥多摩大洞窟ダンジョン』の地上ゲート前。
そこは、命がけの探索を終えた冒険者たちがひっきりなしに行き交う、活気に満ちた拠点集落だった。
ボロボロの鎧を着たパーティーが傷口にポーションを塗りたくり、泥まみれの装備でため息をつきながら歩く――それが、このギルド前広場の日常風景だ。
そんな惨憺たる空気の中を、一台の車両が音もなく滑り込んできた。
ピカピカに洗車された【白い軽トラック】である。
「おいおい、なんだあの車……泥ひとつ付いてねえぞ?」
「ダンジョン帰りの車じゃねえな。新車の納車か?」
ざわつく冒険者たちの視線を集めながら、軽トラは冒険者ギルドの巨大な買取窓口前でスムーズに停車した。
カチャリ、と開く運転席のドア。
降り立った島崎は、冷たいアイスコーヒーの缶をプシュッと開けると、残暑の残る空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「ふう……やっぱり地上は風が気持ちいいな。エアコンもいいが、外の風も悪くない」
「ですね! でも車内が快適すぎて、洞窟の中にいた実感が全然湧きません」
助手席から降りてきた葵が、眩しい笑顔で爽やかに髪をかき上げる。
二人の姿は、これから過酷なダンジョンに挑む直前かのように清潔で、汗一つかいていない。
「おーい、買取窓口の受付さん。討伐証明素材の納品をお願いしたいんだが」
島崎が窓口の女性スタッフに声をかけると、受付嬢は呆れ顔で応じた。
「あ、はい……お疲れ様です。……あの、おじさん、ここはダンジョン探索の買取窓口ですよ? ドライブのついでに寄る場所じゃありませんよ?」
「分かっているよ。荷台に積んであるから確認してくれ」
「荷台……? 軽トラの荷台に積める程度の小物ですか?」
受付嬢が半信半疑で軽トラの荷台に近寄り、荷台を覆っていたシートを軽くめくった――その瞬間。
「ヒッ……!?!?!?」
受付嬢が、悲鳴にならない悲鳴を上げて尻もちをついた。
広場にいた周囲の冒険者たちも、何事かと一斉に荷台へと視線を注ぎ――全員が言葉を失って凍りついた。
軽トラの荷台に鎮座していたのは、深みのある漆黒と青の光を放つ、巨大な魔導結晶。
重さ百キロを超え、通常のCランクパーティーが大人数で数日がかりで運び出す、超高純度のボスドロップ――
「これ……っ! 『アーマーシェル・オーガ』の核魔結晶……!? しかも傷一つない完全体……!?」
「バ、バカな! あのボスは防御性能が高すぎて、通常は外殻を砕いて核を取り出すから、結晶が削れるはずだぞ!?」
「なんでまるごと残ってるんだよ!? ていうか、軽トラで運んでくる奴があるか!!」
怒号と驚愕が入り混じった大歓声が、ギルド前広場を一瞬で包み込んだ。
「査定をお願いできるかな。あと、ついでに雑魚モンスターの素材も少々」
島崎が荷台の脇にあるボタンを押すと、ウィーンと電動アームが作動し、荷台の奥から整理整頓されたコンテナが整然と運び出される。
「あ、あ、査定計算しますっ! すぐ専門の鑑定士を呼びますから、応接室でお待ちを……っ!」
パニックに陥った受付嬢が奥へと走り去っていくのを横目に、島崎と葵はベンチに腰掛けた。
「ふふ、島崎さん。みんな目玉が飛び出そうになってましたね」
「まあ、軽トラの積載能力と魔導クレーンの利便性を知らんのだろう。効率化とはこういうものだ」
島崎が涼しい顔でコーヒーを飲んでいると、ギルドの奥から、高額な報酬が記載された伝票を持ったギルド長自らが飛んできた。
「島崎殿! 葵殿! 今回の討伐報酬および素材買取額、締めて【三千五百万円】となります!」
「「おお……」」
「さらに、十五層の難関ボスを即日クリアした功績により、お二人のパーティーランクを『Bランク』へ昇格とさせていただきます!」
周囲からどよめきが起きる。
たった二人の、しかも軽トラで移動する怪しいパーティーが、一晩でBランクへと駆け上がったのだ。
「三千五百万円か……。葵、折半で千七百五十万ずつだな」
「ええっ!? 私、ただ一回刀を振っただけですよ!?」
「アタッカーの努力には正当な対価を払うのが私の主義だ。……さて、これで軽トラの次の『アップデート予算』が確保できたな」
島崎の目が、エンジニア特有の怪しい光を帯び始めた。
「アップデート、ですか?」
「ああ。次は『空間拡張機能付きルーフキャリア』と『全自動キャンピング・キッチンモジュール』を実装しようと思っている。長旅になっても、車内で温かいスープや焼き立てのパンが食べられるようにしたい」
「それ、ダンジョンアタックじゃなくて完全におしゃれキャンプじゃないですか! ……でも、すごく楽しみです!」
葵が目を輝かせて微笑む。
二人が新しい装備と次の冒険に思いを馳せていると、ギルド長の表情がふっと真剣なものへと変わった。
「……島崎殿。実は、Bランクに昇格されたお二人に、ぜひ受けていただきたい『極秘の特命依頼』がありましてな」
「特命依頼?」
「ええ。隣県に突如出現した、未踏の『Sランク異常ダンジョン』――そこへ向かう大規模調査団の支援を頼みたいのです」
ギルド長が差し出したファイルには、氷雪と猛ふぶきに閉ざされた、地獄のような極寒ダンジョンの写真が映し出されていた。
「過酷な環境で、並の冒険者は足を踏み入れることすらできません。ですが……お二人の『あの車』なら、もしやと思いまして」
島崎はファイルの写真をじっと見つめると、口元に不敵な笑みを浮かべた。
「極寒の猛ふぶき、か。……ちょうどいいな。先日、軽トラのシートヒーターと温水ルームエアコンのチューニングが終わったところだ」
「島崎さん、次は温かいホットココアでも淹れて挑みましょうか!」
「いいね。快適なドライブになりそうだ」
驚愕するギルド長を後目に、島崎と葵は軽トラへと乗り込み、新たな冒険の地へ向かってアクセルを踏み込んだ――!




