消音
アズサちゃんの方を見ると、彼女はぼんやりと目を開けてこちらを見ていた。
私たちは彼女に駆け寄る。
「アズサちゃん…!大丈夫?」
「頭痛とか残ってねえか!?」
アズサちゃんは起き上がり、私たちに答えた。
「はい……、大丈夫です。
……むしろ前よりもすっきりしてる気がします。」
私は膝をつき、彼女と視線を合わせた。
彼女の顔色を見るに、おそらく異常はないだろう。
彼女は輪郭が立っていた場所をしばらく見つめていた。
そして私に尋ねてくる。
「さっきの、祖父ですよね」
「うん、そうだよ」
少しの沈黙のあと、彼女は私を見つめた。
「……祖父を、消したんですか?
祖父は、消えてしまったんですか?」
彼女の瞳は小さく揺れていた。
機器を持つ私の手に力がこもる。
私は答えなければいけない。
「そう、この世界に残ってしまっていた、おじいさんの残響を消した」
彼女の瞳をできるだけ優しく見つめ返す。
「……でも、魂の存在は解明されていない。
きっと今もどこかであなたを見守っているよ」
……本当は私がそう信じたいだけなのかもしれない。
自分の迷いを飲み込むために。
それでも、私にはそれしか言えなかった。
彼女は少しだけ目を伏せた。
「そう、ですか。…………そうですよね」
もう一度私と目を合わせる。
「……私たちを助けてくれて、ありがとうございました」
アズサちゃんは静かに笑った。
公園のケヤキが、風で揺れる音がする。
駅前の人々の響きが交差し満ちる世界で、私たちは並んで歩いていた。
「『音消し』さんって私、初めて会いました。本人に言うのも何ですけど、本当にいらっしゃったんですね」
「まぁ、あんまり知られてないもんね。一応公務員だけど、数も少ないし」
アズサちゃんは、普段の調子を取り戻しているようで、私の職業について尋ねてきた。
「そっか……やっぱり、いざ目の当たりにしてみると、本当にすごい人なんだなって実感します。
……いつも私たちの平和を守ってくださって、ありがとうございます」
不意に来た真っ直ぐな言葉に、少しだけ頬が熱くなった。
「はは、仕事してるだけだよ。でも、平和だと感じてくれてるのなら良かった」
嬉しいが、どう反応すれば良いか分からなくなる。
そんな私を見かねてか、羽音が口を開いた。
「アズサちゃんは中学生……だっけ?何年生なんだ?」
「3年生です!今年受験なので、勉強頑張らないと……」
「そうか、そりゃ大変だな。まぁほどほどに頑張れよ!なんとかなるさ」
……こいつの軽さは、こういうときは少し気を楽にしてくれる。
やがて、駅の入口に辿り着いた。
「駅まで送ってくださって、他にも色々、
本当にありがとうございました」
アズサちゃんはお辞儀をして、明るく微笑んだ。
「いいよ。一緒に散歩できて楽しかったし。
……気をつけて帰ってね」
彼女は私の顔を見つめる。
「私も、この街に来て良かったです。
……おじいちゃんが安心してくれるように、頑張って生きていきます」
朝の不安げな雰囲気は消え、その声には確かな意思が宿っている。
芯のある瞳に、ふと懐かしい面影が重なった。
「……うん。
アズサちゃんなら大丈夫だよ」
きっとこの子は強く歩んでいく。
「元気でね」
「はい、お元気で!」
お辞儀をして歩いていく彼女に手を振った。
「お疲れさん」
羽音が私に声をかける。
「ああ。」
その声の方には振り向かないまま、言葉が漏れる。
「……来てくれてありがとう。助かった」
彼は少し意外そうな顔で私を見つめた。
「……おう」
……言ってから少しだけ居心地の悪さを感じた。




