ポルターガイスト
彼女と一緒に公園を見て回ることにした。
滑り台、ぶらんこ、大きなケヤキの木陰。
楽しそうにはしゃいで歩く彼女を見ていると、なんだか私の心も少し弾む。
「昔と全然変わらないです……私が成長したからか、遊具が少し小さく見えますけどね。」
彼女は優しく呟き、はにかんだ。
「わかるよ。小さい頃ってなんでも大きくみえるよね。」
「あっ、あのベンチでよくお昼ご飯食べてたな。
おじいちゃん、クリームパンが好きだったんですよ」
「甘党だったんだね」
そんなことを話しながら彼女のあとをついて行くと、
ふいに耳鳴りがした。
「……ちょっと待って。」
私の呼びかけに振り返った彼女のそばで、ベンチが音を立てて揺れ始めた。
ベンチの揺れは不自然に大きくなっていき、激しく軋んでいた。
耳障りな金具の音が空間に響き渡る。
私の心は一瞬で静まり返っていた。
彼女を自分の後ろに引き戻す。
「ポルターガイストだ。下がって!」
小さなパソコン型の機器を片手に取り出し、一歩前に歩み出る。
目を凝らすと、ベンチの前には何かが佇んでいた。
空気が揺らぎ、人型の輪郭だけが浮いている。
顔は分からないが、じっとこちらを見つめているようだ。
後ろに立つ彼女の声が震える。
「う……、あたま、痛い……」
彼女は手を頭に押さえ、少しふらついていた。
私にも鈍い頭痛はある。慣れていない一般人には影響が大きいだろう。
危険等級が跳ね上がっている。
物理干渉できる霊は、即座に消音する決まりだ。
霊の除霊—消音業務を開始する。
私は機器を開き、霊が放つ波を読み取った。
耳にイヤホンを当てると、耳鳴りにも似たノイズが流れた。 画面には幾重にも重なった波形が踊る。
一つ一つの揺らぎを追う。
愛情。
心配。
執着。
波形は、感情が混ざり合い、ひどく乱れていた。
…………解析完了。
指は迷うことなく画面を滑り、解析した波から逆位相を生成する。
霊の消音は、ノイズキャンセリングのように逆位相の波を当てて行う。
いつも通り、ベンチの前に佇む霊に、機器で作った逆位相の波を浴びせた。
これで終わるはずだった。
……だが、輪郭が揺れるだけで、霊が消えることはなかった。
本来なら、一瞬で霧散するはずだ。
「……ァ………ズ、………」
聞こえるはずのない、掠れた囁き声のようなものを認識した。
こめかみを鋭い痛みが貫く。
イヤホン越しのノイズが耳の奥を掻き回した。
……人間への干渉が強すぎる。
逆位相が効かないなんて、ありえない。
「……うっ、……アぁ」
私の後ろから彼女のうめき声が聞こえた。
彼女はよろよろと、操り人形のように、霊に歩み寄っていく。
……そうか。
彼女の波と干渉し重なりあったことで、解析した波とズレが発生したんだ。
霊は、親族など同じ規則性の波長を持つ者と共鳴しやすい。
ということはあの霊は……
それを理解したところで、もうどうしようもなかった。
「アズサちゃん……」
頭がズキズキと悲鳴を上げ、視界がぐにゃつく。
私は片膝をついた。
左手の機器の画面が赤く染まり、『警告:エラー(自動通報)』と表示されている。
そういえば、あいつと位置情報を共有したままだったな……。




