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あの日の公園



駅周辺までやってきた。


休日の駅前は、日々の義務から解放された人々の平和な響きが満ちていた。




見慣れた駅の入り口が目に入る。


揺れる長い髪、すっと芯の通った背中、ある日の彼女の後ろ姿が瞼に浮かんだ。


「今日はね、一緒に服選んでほしい」


そんなことを言い放って、私がついて行くのが当たり前かのように彼女は歩いていく。


結局あの日も、一日中付き合わされた。


……そんな記憶だけが、六月の空気に溶け込んでいく。






緩やかな往来に身を任せ始める。


少し行くと、道端で立ちすくんでいる一人の女の子と目が合った。


中学生くらいだろうか。人々の中で、少しだけ不安げな雰囲気が浮いて見える。




少しの沈黙のあと、彼女は意を決した様子で歩み寄り、話しかけてきた。




「すみません……、この辺りにある、大きいケヤキのある公園に行きたいんですけど、ご存知ですか?」


胸もとで手をきゅっと握り、声が少し上ずっている。


「あぁ……、もしかして緑音公園のことかな?


……こんな感じのところなんだけど」


私は公園の写真を調べて、彼女に見せてみた。


「……!そう!たぶんここです!


どうやって行けばいいですかね?」


道順を説明しかけて、やめた。


……この子、一人で辿り着けるだろうか。


「ここから近いし、暇していたから案内するよ」




ちょうど行き先に悩んでいたところだ。


一応見回りという体だったし、彼女はどこか危うげで、なんだか放っておけなかった。







彼女はアズサちゃんというらしい。




このくらいの年頃の子と話すことなんて普段全くない。


気まずくなるだろうか、と並んで歩き始めたときは同行を申し出たことを後悔しかけた。


だが、話してみると彼女はとても素直な可愛らしい子で、気付けば空気が緩み、自然と笑い合っていた。


……子どもってこんなに純粋だっただろうか。




「この街はあまり慣れてないの?」


「そうなんですよ……スマホで地図も調べてみたんですけど、自分の向きが分からなくて、その場でずっとくるくるしてて……」


「……うん、まぁ知らない場所だと混乱するもんね」


彼女が目を回す前に助けられてよかった。





どうやら彼女は、祖父との思い出を辿ってこの街まで来たらしい。


「最近、祖父のことをよく思い出すんです。


祖父がこの街に住んでた頃は、いつもあの公園に連れて行ってくれました。


それで、ふいに、またあそこに行かなきゃって気がして。」




引き寄せられているような彼女の言い方が少し気になったが、私は会話を続けた。


「そうだったんだ。あの公園、いいところだよね。


……おじいさんはどんな人だったの?」


彼女は思い出すように虚空を見つめた。


「祖父は、あんまり喋らないけど、温かい人でした。


いつも帰り道でチョコレートを買ってくれて、分厚い大きな手で私を抱きかかえてくれて……。」


その笑顔は、本当に祖父が好きだったことを物語っていた。




彼女の祖父の思い出話を聞いているうちに公園に辿り着いた。




「どう……?ここで合ってそう?」


彼女の顔を覗いてみる。




「はい……!


わぁ、すごく懐かしいな……」


彼女は目を輝かせていた。




割と大人しめの印象だったが、雰囲気が一変し、無邪気な子供のような笑顔が眩しかった。




その表情を見て、案内して良かったと思う。






――そのときだった。




風は吹いていない。


それなのに、ケヤキの枝だけが、かすかに揺れた。




私は反射的に視線を上げる。


嫌な静けさが、公園全体を包み込んでいた。



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