妖艶なる刺客
連続投稿20日目!
目の前に立っている悪魔の姿をした女性は、美しくも危険な雰囲気を醸し出す妖艶な存在だった。
「あたしの名前はリリス。質問、答えてあげたんだから答えてくれる?」
リリスと名乗る存在は、男性からすればさも魅力的なプロポーションをしていた。
艶やかで長く綺麗な長髪。顔は可愛さと美しさを備え小さく整っている。
そして、その顔以上に大きい胸と7、8頭身ほどある身体。
ウエストは細く、筋肉質ではないが柔らかさを醸し出す色気があった。
「マスター、目の前の対象から”安倍美桜”を超える魅惑効果を確認しました」
『!?』
アルファの声を聞いて思考の渦から抜け出す。抜け出すと数秒の記憶が無かった。
おそらく、魅惑の効果にかかっていたのだろう。
『助かったアルファ』
「いえ、こちらもスキルの発動が間に合わず申し訳ございませんでした」
『まず、状況の確認だ』
そう心の中で考えあたりを見回すと俺の後ろで震えているメシアと、俺とメシアの前で両手を広げ守ろうとしているエリーナの姿があった。
『エリーナとメシアには魅惑効果が効いていない?』
「はい、メシア・ダルクは、聖女としての耐性をエリーナ・ペンドラゴンもジョブとしての耐性で防いでいます」
『俺だけ掛かってたんかい!』
俺は悔しいなと思いながらも”やはり天才なんだなど”と感じ思考を切り替える。
ある程度、思考を落ち着かせると、目の前の妖艶な存在からの質問に答えた。
「おかしいなと感じたのは人の少なさだ。12天将祭りは安倍家の一大行事だ。当然、警備や人の人数も多くなる。
なのにも関わらず、さっきから人にほとんど会っていない」
『気付いたのは、アルファなんだが・・・』
そう言って俺は、目の前の存在を見る。
「なるほどー。人払いをしたのは逆効果だったか〜」
リリスと名乗る女性は、そう言って左手を顎の下に置き、右腕を胸の下に添え考える仕草をしていた。
その仕草の一つ一つに色気があり、無意識的に視線を追ってしまう。
「マスター、胸に視線を持っていき過ぎかと」
「分かってる!けど、何でか胸に目が入ってしまうんだ!」
「「「!?」」」
レイの発言によって、場にいる悪魔の姿をしたリリスとレイの近くにいるメシアとエリーナが目を見開き驚く。
「え・・・もしかして、声に出てた?」
いつものようにアルファを会話をしていると、場の空気が冷たくなっているのを感じる。
心の中で話しているつもりが現実で声を出していたのだ。
「この、変態!!!」
「レイさん、流石にこの場でそれは無いと思います」
「いや、ち、違うんだ。誤解だって!!」
エリーナは、顔を赤らめ罵倒し、メシアはレイから視線を外しエリーナと同様に顔を赤らめて言った。
「アハハハ!!!、面白いね坊や」
リリスと名乗る存在は、鈴を転がすような声が高く可愛い声で、腹を抱えて笑いながらレイに向けて言った。
「二人共、誤解しないであげて。あたしを前にして胸を凝視するだけってよっぽどすごいんだから」
「だとしてもよ!!」
「そうです!そうです!」
なぜか、敵であるリリスはレイを庇うが、味方であるメシアとエリーナの二人は庇う所か非難していた。
『アルファ。これは心の声だよな?』
「はい。今は私とマスターしか聞こえていません」
『とにかく、相手の能力は美桜と同じ能力なんだよな?けど、香りみたいなのは特に無かったぞ』
俺はアルファに先ほどのような事故が無いよう確認してから事態の対応を考える。
「同じといえば分類上同じですが、能力的にも効果的にも完全なる上位互換です。
安倍美桜の能力と効果が自身の香りとそれに付随する魅惑効果であるならば、目の前の存在の能力と効果は、存在そのものが能力であり、体から仕草、挙動、汗や香りからまであらゆる事が魅惑効果になります」
『そんなのチートじゃねぇか。てか、なんで俺がスキルを発動した上で引っ張られるのに、メシアとエリーナが効いてないんだよ。ジョブとかの能力を差し引いても差がありすぎだろ』
アルファと会話する中で気づいた疑問を俺は投げかけた。
「おそらくですが、相手の能力に効きやすさの差があるのでしょう。先ほどの言動からも読み取れます」
アルファの言葉を聞いて先ほどの会話を思い出す。
”二人共、誤解しないであげて。あたしを前にして胸を凝視するだけってよっぽどすごいんだから”
「効果の効きやすさは性別でしょう。女性ならば半減かそれ以上。男性ならば数倍。ですが女性の半減と言えど強力なものには変わりありません。あの2人があそこまで効いていないのは、特段そういった効果の耐性があるのでしょう」
「なるほどな・・・」
「お遊びはやめて、そろそろ本題に入らして貰うわ」
先ほどから傍観していたリリスと名乗る存在が言葉を発する。
『本題?』
「本題って何よ!」
目の前の存在の言葉に俺は考える中、エリーナは相手に睨みつけながら言葉を発する。
「あなたよ」
「「「!?」」」
エリーナの言葉を聞いてリリスと名乗る存在は指をさす。その指の先にはエリーナが居た。
それを見て、その場に言葉を発した者を除いた三人に先ほどとは違う、焦りと驚きを含んだ衝撃が走る。
『!?エリーナが狙い。って事は誘拐事件の関係者?もしかして俺の事も・・・』
「いえ、相手の言動からマスターの事は把握していないかと」
俺の考えをアルファは否定する。
「じゃあ、あんた達が私を誘拐した組織の一員なのね!」
「残念だけど、ハズレ。あたしは依頼されただけ〜」
「!?そうなの!」
エリーナが先ほどと同じように聞くと相手は潔く答えてくれた。
『相手、ちゃんと答えてくれるんだな』
「ですね」
俺とアルファはその問答を観察する。すると口を噤んでいたメシアが声を出した。
「リーナちゃん。相手のお話聞いたでしょ。下がって!」
「大丈夫よ!二人は私が守るわ!だって私はお父様の娘だから!!」
そう言ってエリーナは俺と身体が当たる位まで密着する。
その声は、勇ましい物だったかが身体は震えていた。
「ったく。・・・残念だけどエリーナはやれない。髪の毛位ならやれるけど、それで我慢してくれないか?」
「こっちも残念だけど、依頼の条件がそのお嬢さんの身柄だから引けないの」
『依頼か・・・それなら話し合いで何とかなるかも、最悪、時間稼ぎさえ出来れば』
「交渉はできないか?」
「残念だけど無理ね」
「ならせめて話し合いだけでも・・・」
「先っきから女の子を守るのは立派だけど、時間稼ぎをしても助けは来ないわよ?」
「!?・・考えがバレて、てか、助けが来ないってどういう・・」
俺は目の前の存在の言葉に驚き、アルファに聞く。
『どういう事だアルファ!』
「相手の言う通りかと、おそらく空間的な能力により私たちの状態を知覚できていない、いや、異変を感じ取れていない。その能力を使ってセキュリティが高い安倍家でここまでの事態を起こす事が出来ているのでしょう」
『だから、相手はさっきから余裕があるのか』
対処するための行動が自分達の首を絞めているのを感じる。
「まぁ、お友達を助けたいのは分かるんだけど、その子は貰っていくわ」
目の前の敵がそう言うと黒いもやが現れる。それは次第に蛇のような形になり、イリーナへと飛び掛かった。
「だめ!!」
俺の後ろにいるメシアがそう言うと三人を守るように光のドームが形成される。
『これは・・・』
「聖女の力による光の結界です」
光の結界は、黒い蛇がエリーナに触れる寸前で発動し触れた蛇を消滅させた。
「それは、聖典教会の・・・」
「リーナちゃん!」
「分かってる。”雷”!」
リリスと名乗る悪魔に似た敵がメシアの結界に驚く。その隙を見て、エリーナは魔法を発動する。
その魔法は、雷の第一階梯呪文。放たれた魔法は結界を素通りして敵に命中する。
「・・・」
リリスと名乗る存在は、迸る雷を喰らっても平気そうだった。
『どうした?何か様子が変だぞ』
だが、敵は首を前に傾けており表情が読み取れず、感じる雰囲気からは嵐の前の静寂なような気がした。
「マスター。敵から強い殺気とエネルギーを感知しました」
アルファが言った後、目の前の存在から黒いエネルギーが放出される。
「グッ」
「「きゃあっ・・!」」
結界は破壊され、眼前から放たれているエネルギー波に飛ばされないよう、3人でしゃがむ。
「光の能力、あれは、、教会の力!」
相手は凄まじい怨恨の表情を宿していた。
「・・・けど、相手は子供・・・くそっ!」
だが少しずつ表情は落ち着いていきそう言うと黒いエネルギーの放出を止める。
「分かったでしょ。貴方達じゃあ私に勝てないし、助けも来ない。大人しくその娘を渡して!」
目の前の女性の表情には今まで無かった動揺による焦りと興奮があった。
「お父様・・ゥゥ」
「あ、悪魔。こ、殺さないと。い、いけない・・の、に。ダ、ダメ」
しかしこちらも、相手の強大なエネルギーにより、影響を余儀なくされた。
目の前の敵の存在にさっきまで毅然としていたエリーナは泣いて俯き、メシアは目の焦点があっておらず動転していた。
”だが、一人の少年だけは違っていた”
「ここまで無闇に手を出さないでくれたアンタには申し訳ないけど。それでもエリーナはやれない」
少年は、立って女性の目を見て言う。
その眼には、純粋な意志と誰かを想う優しさがあった。
「レイ?」
「レイさん・・」
2人の少女は、少年の背中から目を離せなかった。
「・・・・なんで」
レイの言葉にリリスは、間を開けて自分にしか聞こえない位の小さな声で言う。
「もういい。そこまで強情ならあたしも手を抜かない」
そう言って、目の前の女性は手を前に出して唱えた。
「”悪夢”」
そうすると、周囲の空間を覆い隠すように暗くなっていく。
「マスター!退避を!」
「分かってる!けど、間に合わない!」
あまりの事態に焦り、普通に声を出してしまう。
『エリーナが狙いなら一人にはして置けない。なら!』
今の状況と状態を考えてレイは最善の策をとる・・・
「メシア!」
「え、レイさん。どこ触って・・」
俺は無我夢中でメシアを抱えて、全力で迫り来る暗闇とは逆方向へと投げ飛ばす。
レイが考えた最善の策とは、・・・それは、”メシア一人だけをこの場から逃すこと”。
「レイさん!何で!」
「エリーナは、必ず守ってみせる!だから、お前は助けを!・・・」
泣きながら理由を尋ねるメシアに救援を託し、俺とエリーナは暗闇へと引きずり込まれていく。
「レイさん?・・・リーナちゃん?」
夏の日差しが眩しく、蒸し暑い安部家の廊下には、メシア一人しか居なかった。
まるで、何事も無かったかのように・・・・。




