安部家の日常 白虎院 刃、安倍美桜
連続投稿17日目!
白虎院家 武技練習場
「おりゃーっ!」
槍を持ち声を上げながら刃が突撃してくる。
「まぁまぁだな・・」
レイは、その攻撃を弾いて道着を掴み技をかける。
「グヘェ」
技をかけられた刃は、床に叩きつけられ声を上げる。
レイと刃が訓練している場所は、安倍家ではなく白虎院家。
普段は安倍家で稽古をしているが、偶には別の場所でやってみないかと言う事で、学校が休みである土曜日に美桜と一緒に白虎院家に遊びに来た。美桜は月姫ルナさんと個人レッスンだ。
「クソー、何でもありの試合だとレイには全く敵わねぇ」
床に寝転んだ状態で刃は悔しそうに呟く。
「そりゃそうだろ。お前、格闘技習ってないじゃん」
夏場の暑い道場内で汗を腕で拭いながらレイがそう言った。
周囲には、誰も人がおらず、広い道場内にはレイと刃の声がよく響いていた。
刃は、武器の扱いは一流だが格闘技は全くと言っていい。
刃は槍の練習をし始めてまだ1年ほどらしく、それしか練習してこなかったらしい。
だから、柔道の投げ技などに全く対応できていない。
「だから何だよって話だろ。勝負に習ってねぇとか知らねぇとか関係ねぇし。レイは色んな事できて、美桜やエリーナは、魔法も使える。俺は世界一強えハンターになりてぇんだ!」
刃は床から起き上がり、瞳に闘志を宿しながら力強くそう言った。
「いや、無理だろ」
俺は、それを聞いて”アホだな〜”と思いながらそう言った。
「何だと!やってみなくちゃ分からねぇだろ!」
刃はその言葉を聞いてまるで犬が威嚇するかのような表情で言い返す。
「お前、”世界一”って事は、アーサーさんに勝つって事だぞ?できんのか?」
そうなのだ。この世界で一番と称されるのはアーサー・ペンドラゴン。
エリーナの父親であり、全世界のハンターの頂点。神域を超えた4人の”最強”の内の一人にして、その3人を遥かに上回る強さを持つとされる規格外にして頂点。
月姫ルナさんによると、この世界の人間でアーサーさんに本気を出させるものはいないとの事。
「そ、そりゃ、無理だな・・・」
レイの言葉を聞いて半ば納得する。
刃もアーサーとは、会ったことがあり、その強さを感覚的に感じ取っていた。
いくら才能がある刃でも、今の状態で最強あれより強くなれるとは、言い切れなかった。
「だろ〜。あの人に勝てるって言う奴は、生きてなんぼのハンターには絶対向いてないからな」
「俺も流石にそこまでバカじゃねぇ!」
ハンターは、ゲートやダンジョンという厳しい環境に挑み、そこで成果を出す仕事だ。
当然、リスクリターンを判断できない奴はすぐに死ぬ。
アーサー・ペンドラゴンに勝てる、強くなると豪語する思慮が浅い人間は、武芸者としてはともかくハンターには向いてないし、パーティーであっても敬遠される。
「じゃあさ、5人でならどうだ?」
「5人?」
「そう。レイに俺とエリーナと美桜、そんでメシアが組んだらアーサーさんより強くなれるかも!」
刃は、再び瞳に闘志を宿して言った。
「そうなったらエリーナ次第だろ」
エリーナはあの人の娘だ。伸び代で言えば世界一と言っても過言ではない。
いつかアーサー・ペンドラゴンすら超える日が来るかもしれない。
『いや、俺に負けてる内は無理か』
俺は、一瞬可能性があるなと思ったがすぐに無理だなと考え直した。
「そうじゃねぇだろ。エリーナに頼るんじゃなくて、俺たち二人も強くなるんだ。そんで、パーティーの中で一番強い奴がリーダーになる!」
「その前にまず、他の3人に話を聞かなくちゃいけないけどな」
俺は死んだような魚の目で、時期尚早だなと思い話を聞いていた。
「大丈夫だって、3人も納得してくれる!」
「その自信はどこから来るのやら」
刃の能天気さに俺は、単純だなと思いながらも面白いと思った。
誰かと何か目標を追いかけるのも悪くないと。
「うし!そうなったらもう一本勝負だレイ!」
「はぁ、ハイハイ」
刃の言葉により、互いに構えをする。
一歩踏み込んで打ち合おうとする寸前に道場にターン!と襖が開く音が響く。
「レイー、そろそろ帰るから準備してー」
それは、レイと一緒に白虎院家に遊びに来た美桜であった。
来ている服は道着ではなく、黒いワンピースで、もうすでに練習が終わり着替えたのだろう。
「なんでだよ美桜!今、良いところなのに!じゃあ、後もう一本、もう一本だけ!」
「ダメよ。もう門限すぎてるんだから!」
刃の提案を美桜は断固として却下する。
友達の言葉よりも、すでに過ぎてしまった門限の方が大事らしい。
「ケチくせー」
「まぁまぁ、門限なら仕方ねぇさ。それに勝負なら夏祭りの後にしてやるから」
「夏祭りって後1週間も先じゃねぇか!くそー!」
刃が床に項垂れるように悔しがる中、俺は慰めの言葉を言いって、美桜の方へと歩いていく。
「待てレイ!」
俺が美桜の方へと歩いていく中、後ろから刃に呼び止められる。
「どうした?刃」
刃の声に振り返るレイ。
「あの話、忘れんなよ!このまま二人で強くなって!4人でパーティー組むって話!」
「ああ、忘れねぇよ」
刃の決意とやる気に満ちた表情と声を感じて、俺もちゃんと刃の目を見て返事をした。
「じゃあな」
「おう!・・・」
そうして、レイは美桜の方へと小走りで向かっていき、刃はその背が見えなくなるまで見届けた。
刃はその後も、姉である”白虎院 月姫”に槍を教えてもらい、暗くなるまで道場で槍を振い続けた。
その目の見据える先には、夢があり、目標があり、興奮があった。
まさしく小さい子供の将来への希望である。
だが、その希望は一度、ある知らせにより完膚なきまでに砕け散った。
▶︎▶︎▶︎▶︎
安倍家 訓練場
「フッ、ヤァ!」
畳の訓練場の室内で美桜の声が響く。今、レイと美桜は2人で柔術の稽古をしている。
「やっと、俺の服を掴めるくらいにはなったな」
美桜の技を手で弾いたり、揉み合いで防いでいくレイ。
初めの頃は、初対面の時と同様、圧倒的な差で美桜が負けていたが最近は、服が掴めるようになり、揉み合いになる事も増えてきた。
「ハァ、ハァ、そう言えば、聞きたい事があったんだけど・・・」
美桜は稽古をしながら俺に喋りかけてくる。
「お喋りとは、余裕だな」
美桜に余裕があると思い、俺も本気を出す。
しかし、美桜はそれを苦しみながらも何とかいなす。
「クッ、前、白虎院の家で話していた事って何だったの?」
「何か、刃が5人でパーティー組んでアーサーさんより強くなろうって話だった」
俺と美桜は、互いに一歩も引かず攻防を続ける。
「へぇ、面白そうね。他の2人にはしたの?」
「いや、まだ。そもそもまだ子供の絵空事だろ。話すにしてももう少し先だ」
柔術の技の掛け合いを互いにしていくが美桜の方は段々と汗をかき、息も荒くなっている。
「はぁ、はぁ、クゥッ、た、確かにそうね」
「貰った!」
「クッ・・」
美桜の体力が限界近くになった所に全力の技をかけて一本を取る。
「あ〜、やっぱり勝つのは難しいわね」
「けど、少しずつ強くなってるだろ」
美桜は床に倒れたまま大きく息をしながら呟く。
「じゃあ、レイから見て私の実力はどんな感じ?」
「う〜ん、まぁまぁだな」
「レイって、いつもそれしか言わないわよね」
そう言って、美桜は床から起き上がり俺の正面に立つ。
「「ありがとうございました」」
互いに礼をして今日の稽古を終えた。
稽古を終えた後、2人でジュースを飲みながらクーラーが効いた部屋で寛ぐ。
「そう言えば、知ってる?私とレイに縁談の話が出てるの・・・」
「ブフォ。お前、急に何言って・・・」
美桜の話に驚き、俺は飲んでいたジュースで咽せてしまう。
「まぁ、本気で考えてる訳じゃないと思うけど〜」
美桜はイタズラ心の宿った目で両手を広げてそう言った。
「じゃあ、一体、何のために・・・」
「おそらく、私のためでしょうね」
俺の言葉に続くように美桜はあっけらかんとした顔で呟いた。
「美桜のためって、・・・もしかして体質の」
「そうでしょうね。私の”魅惑体質”は、年を取るごとに強くなっているわ。それを完璧に防げていて、その上、年齢が近いとなるとレイぐらいしかいないもの。他の家との縁談の話とか、私に近づこうとしてくる人への対応策って感じでしょうね」
「いや、刃とかいるだろ・・・」
美桜は魅惑体質が強くなっており、抑えるのもコントロールするのも難しくなっているらしい。
だから杏奈さんは基本的に美桜のそばにいるし、居ない時は大体、俺か刃がいる。
少し問題も起きており、通っている小学校で高学年の生徒に結婚を申し込まれたり、縁談も数百件を超える数が来ているらしい。『いや、まず恋人から始めろよ!』と話を聞いて思ったが、お家柄という事なのだろう。
「刃は、安倍家配下の白虎院家の者よ?そこと縁談なんかあったら家の一大事だし、それに刃は私に惚れているから体質が効かないっていう証拠がないもの」
美桜は俺の言葉にめんどくさそうに答える。
『しかし、惚れてるの知ってて、あの対応ってこいつ性格悪いな』
「レイ、今、性格悪いって思ったでしょ」
「ギクっ」
俺の考えが顔に出ていたのか美桜は俺の心の声を看破する。
「まぁ、私はレイが夫になるならなるで別に構わないと思っているんだけど・・・」
そう言って、美桜は妖艶な笑みを浮かべてレイに近づいていく。
「俺は騙されないぞ」
美桜の独特な体臭を感じて、俺は腕を前に出して警戒する。
「お父様もレイのそう言うところを気に入ってるんだと思うわ」
美桜は先ほどの妖艶の笑みとは違って、無邪気な少女の笑みを浮かべてそう言った。
「そんなの今だけの話だろ。時期になくなるさ」
「そうね」
レイは、くだらなそうに言って、美桜もその意見に同意する。
その後、2人の思った通りすぐに縁談の話は無くなった。
しかし、2人が考えていたよりも随分と早く、考えもしていなかった驚愕の原因だった。
次は、新キャラ登場します!




