ワーム殺し
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──ワーム殺し
逃げようとするワーム。追撃を仕掛ける俺。
ワームは引き撃ちに入っており、後退しながら火炎放射を繰り返している。
俺はそれを回避しながら徐々に機械化した身体の出力を上げていた。
180%、190%、そして200%!
俺は地面が砕けそうなほどに強く蹴り、前に前にと加速していく。
逃げるワームが瞬く間に眼前に迫り、俺はその顔面に向けて斬撃を繰り出す。
今度はワームの喉を僅かにだが裂いた。
「────ッッ!」
短い悲鳴を上げて、ワームが身をよじるが俺は今度は逃がさない。
何度も、何度も俺はナイフをワームの首に突き立て、引き裂く。
ワームの傷口から大量の出血が始まり、やつの動きが鈍っていった。
それでもワームは俺を振り払い、再び火炎放射を行って距離を取る。
「手負いの獣は何とやら、だな」
勝利まではもう少しだ。油断せず、確実に仕留める。
「────────────ッッッッッッ!」
ワームの咆哮。それは怒りか、または恐怖か。
理由は俺には分からないが、その咆哮のあとでワームは距離を取るのをやめて、狂ったように攻撃を立て続けに放ってきた。
火炎放射。尻尾による薙ぎ払い。突進。
俺を殺して生き残るというよりも、俺を道連れにしてやろうという考えの滲む連続攻撃を前に俺は強化脳をブーストして回避行動を続けた。
火炎放射は止まっているかのようにゆっくりと放たれてゆく。
問題はその蛇のような身体から繰り出される尻尾の薙ぎ払いと突進だ。
こっちは恐ろしく速い。蛇のように素早くしゅっと繰り出される打撃は、その質量も合わさって直撃すれば今度は俺でも立て直せない損害を負うかもしれない。
「慎重にやれ……! ここまで来たんだ……!」
もう少しでワームを撃破できる。
そう思いながら俺はワームの弱点を探った。
やつの首からは相変わらず大量の出血が続いているが、それだけでは不十分なように見えた。
もっと致命的な一撃を叩き込まなければならない。
「狙うならば……頭か……!」
俺が狙ったのはワームの頭部。
首からの出血で死なないならば、脳みそを吹き飛ばして殺すしかない。
しかし、ナイフだけであの巨大なワームの頭を貫き切るのは難しい。
ならば、だ。
「次で仕掛ける……」
ワームの次の攻撃を回避したら、再び出力を極限まで上げてワームを叩きのめす。
ワームが次に選んだ攻撃は突撃だ。
戦車が歩兵をひき殺すかのように突撃してきて、俺はそれを迎え撃つ。
鱗が地面を削る金属音が響き、猛スピードでワームが迫る。
「来た!」
俺はワームの攻撃を前方への大きな跳躍によって回避。
そしてワームの頭に飛び乗ると、その頭にナイフを深々と突き立てて抉る。
切り裂くのではなく、抉るのだ。傷口を広げるようにして。
ワームは苦痛に叫び、唸り、大暴れするが俺は離れない。
「喰らいやがれ」
俺はナイフで作った傷口に手榴弾を詰め込んだ。
手榴弾を叩き込んだのちに俺はワームの頭上から飛びのく。
数秒後、ワームの頭が爆ぜた。
手榴弾によって爆発したワームの頭部は脳みそが剥き出しになり、ワームは痙攣しながら地面に崩れ落ちる。
「やった、か……」
ワームはもう動かない。
やつ自身の血の海に沈み、起き上がろうとすることもなかった。
「ついに50階層を踏破……」
俺はソロでワームを撃破した。
しかも、俺はまだまだ戦える状態だ。
50階層以降に潜ることも、地上に戻ることにも余裕がある。
「よし、よし、よしっ!」
思わず歓声が口から出た。
俺はやれる。最深部を目指せる。
今は心からそう思えた。
「お疲れ様です、旦那様」
サタナエルがそこで階段の方からやってきて俺にそう声をかけた。
「ああ。やったぞ、サタナエル。ワームを殺した」
「ええ。旦那様ならば絶対にできると思っていました」
「……お前のおかげでもあるな」
サタナエルは厄介なストーカーであることは今もそうだが、ただ迷惑になるだけではなく俺が最深部に進むための助力もなしてくれている。
それは認めなければならない。
「ふふ。旦那様の助けになれればそれほど嬉しいこともありません。ボクの大好きな旦那様が喜んでくれるのが一番ですから……」
そう言ってサタナエルはワームの血にまみれている俺を抱きしめる。
「佐世保! やったな! 次は俺と勝負だ!」
「お前と勝負はしない。今から地上に戻るぞ」
「ええー!」
マルキダエルが不満そうに喚くのを放っておいて、俺たちは引き上げの準備に入る。
家に帰るまでが遠足だ、とは言ったもので50階層のエリアボスを倒してから引き上げ終えるまで、まだ油断はできない。
俺はミュールボットに積んでおいたミネラルウォーターを飲み干す。
炎で熱された50階層に水分を奪われていた身体に水分がしみいる。
それから49階層への階段に足をかけた。
そのときだ。無数の足音が49階層の奥から聞こえてくる。
クリーチャーのそれではない。人間の足音だ。
それも軍人で間違いない。
「別の探索者か、あるいは……」
俺はショットガンを握り、階段を上り切る。
足音は近づき、そしてその音の主が姿を見せた。
「お前、探索者か?」
そういうのは以前五十嵐の護衛をしていた太平洋保安公司のコントラクターたちと同じ装備をした連中だ。数は2個分隊20名程度。
恐らくは所属も同じだろう。
「そうだ。これから戻るところだ」
俺は尋ねてきたコントラクターにそう答える。
「……50階層から上がってきたようだが、ワームから逃げてきたのか?」
「ワームなら殺した」
「殺した? お前がか? 他の仲間はどこだ?」
「俺の仲間はここに居るふたりだけだ」
「冗談だろう?」
コントラクターが笑って尋ねるのに俺は真顔で首を横に振った。
「……確認して来い」
そのコントラクターは部下にそう命じ、やつの部下が俺の脇を通って50階層に降りて行った。
それから慌てた様子でそいつが戻ってくる。
「ワームは死んでいました。死んだのついさっきでしょう。間違いありません」
「なんてこった……マジかよ……」
コントラクターたちは言葉を失っている。
「もういいか? 用事がないなら俺たちは行くぞ」
「待て。お前、名前は?」
「言う必要があるのか?」
「俺たちは50階層のワームを倒すために大井に動員された。ワームに変異種が生まれたとかでな。それなのにワームがとっくに死んでましたとなれば、報告書にその理由を書かなければならん」
コントラクターたちはそう言って俺たちの行く手を遮る。
「……佐世保朔太郎だ」
「どこのクランの所属だ?」
「クランには所属していない」
「ふむ」
コントラクターはそう言ってARデバイスを操作する。
「確認した。行っていいぞ」
偉そうにコントラクターは俺たちにそう言って、ようやく道を開けた。
「おい、お前」
しかし、俺たちがやつらに背中を向けるのに後ろから声がかかった。
「あのワームは完全武装の2個分隊を一瞬で壊滅させたやつだぞ。どうやって倒した?」
そう尋ねてくるコントラクターに俺は返す。
「ただ努力しただけだ」
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