自信
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──自信
俺は行動する前に今日の探索で得た金品を換金することに。
いつものように信楽焼の狸が目印の質屋に入り、店主に今日の収穫を渡す。
「はい、10万円。今日も少なかったねぇ」
「ああ。だが、臨時収入があった。おかげで弾薬費はカバーできている」
「ほぉ。それはよかったねぇ!」
タヌキ顔の店主はそう言って自分のことのように喜んでくれていた。
それから俺たちは商業地区に繰り出す。
狙いは軍用の無人地上車両などの装備だ。
「ミュールボット……。ついに手に入るのか……」
四足歩行型の基礎モデルでも1500万円。今の俺には買えない額じゃない。
またオプションを増した六足歩行型のものだと3000万円。搭載量が大きく違うのだ。
他にもハイエンドを目指せば8000万もするものだってある。
……だが、ミュールボットそのものに維持費がかかる以上、やたらと金を使いすぎるわけにもいかない。
ちょっとはしゃぎたくなる気持ちは抑え、冷静に商品を眺めることに。
「やはりまずはオプションの特にないミュールボットで十分か? やたらと最初からオプションを付けまくってもな。あとで後悔しちまいそうだ」
俺が軍で使用していたミュールボットは、四足歩行の標準的なものでオプションには50口径の重機関銃を据えた無人銃座やアクティブ防護システムも搭載されていたやつである。
そこまでのものが今の俺に必要かと言えばノーだ。
基本的な多くの荷物を確実に運んでくれる機能がついているならば、それでいいではないか。
「よし、このミュールボットを買おう」
俺はそう決意し、四足歩行のミュールボットの購入を店主に告げた。
それからセットアップが行われ、商品はそのまま引き渡された。
「おお? こいつ、歩くぞ!」
「そのために買ったんだから当然だろう」
とてとてと歩き始めたミュールボットを見てマルキダエルが歓声を上げるが、俺はというとそこまでの感動はない。
これからちゃんとこれを使いこなせるだろうかという不安が僅かにある。
貧乏性なので高い品を買うと、どうしても金額分だけ元が取れるか気になるのだ。
「さて、スーパーに寄ってから帰ろう」
俺たちはとてとてと後をついてくるミュールボットを連れてスーパーへ。
「ふふ。何かペットを飼ったみたいで可愛いですね」
「そうかもな。これから頼りにするペットだから可愛がってやれ」
サタナエルは楽しそうにそう言い、俺はぽんぽんとミュールボットの背を叩く。
「俺たちの下僕と言うわけか!」
「俺の下僕だ。お前のじゃないぞ」
「ええ!?」
買ったのは俺であってお前じゃない。
「今日の晩飯は何を作ってくれるんだ?」
「九条さんから教わったのですが、日本では旦那様に肉じゃがという料理を家庭の味として作るそうですね。なのでそうしようと思います」
「ほおお? それは楽しみだな」
こいつが作る肉じゃがというのはどういうものになるのだろうか?
「じゃあ、買い出しして帰ろう」
俺たちはそれから肉じゃがの材料を買い、そして帰宅した。
* * * *
自宅のキッチンが広くなったためか、サタナエルは料理するのが楽しそうだった。
俺はそんなキッチンに向かうサタナエルの背中を見ながら、金の使い道について考えていた。
すでに1億と大金は崩れている。
ミュールボットを購入したことで1500万が飛んだのだ。
これからさらに偵察用の無人地上車両などを購入すれば、さらに金は飛んでいくだろう。
大金を得るためには大金が必要。
何とも矛盾した話だが、ここではそれが事実だ。
「うむ。なるべく早く50階層に到達したいものだが……」
時間をかければそれだけ出費は続く。
今ある資金で最深部を目指すのならば、急いだ方がいいのは確かだ。
だが、焦りすぎれば命を失う。それは避けなければ。
「変異種の問題もある。50階層のエリアボスはこれまでもずっと脅威だったが、それがさらに脅威になっている可能性も……」
俺が49階層で引き返したのは、50階層のエリアボスに挑んでも勝利できないと判断していたからだ。
そんなエリアボスがさらに変異種として強化されていたら……勝てるかどうか……。
だが、今の俺は超高高度軍用グレードの人工筋肉に換装し、ミュールボットも手に入れている。
以前との俺とは違うと言えるだろう。
「先行きはまだ不透明だな」
まずは50階層を目指す。全ては50階層の壁を越えられるか次第だ。
「旦那様、ご夕食ですよ」
「ああ。ありがとう」
肉じゃがは初めて作ったにしては、ちゃんとした見た目をしている。
いい色合いのジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、そして豚肉。食欲をそそる。
いや、思って見ればこれまでサタナエルが不味い料理を出したということはないんだよな。
初めてのレシピでもしっかり作っていると言うか、意外と器用なやつなのだろうか?
そう思いながら俺は肉じゃがを口に運ぶ。見た目通り美味い。
「美味いぞ、サタナエル」
「ふふ。旦那様のその言葉だけで、ボクはもう嬉しくてたりません」
「そうか」
サタナエルがにこにこと微笑んで言うのに俺は肉じゃがで飯を掻き込む。
マルキダエルもがつがつと肉じゃがを食べ、あっという間にサタナエルが用意した料理はなくなった。
「旦那様。悩んでおられるようですね」
「……ああ。良くも悪くも1億で状況が変わった。もう装備がないのを言い訳にすることはでない。今の俺は探索者が必要とする装備をほとんど持っている。むしろ、恵まれているぐらいに」
星野から与えられた1億円。
無事にミュールボットは購入できたし、偵察用の無人地上車両も購入できるだろう。
そうなるとこれまでは補給不足で辿り着けなかった階層にも理論上は手が届く。
あとは俺が決意するだけなのだ。
「……畜生。俺は臆病だな。これまでできなかったことが急にできそうになったのに、今まではできなかったからと尻込みしている。俺は心のどこかでは恐れているんだ。ダンジョンと言うものを」
ダンジョンは俺の居場所だと思った。
少なくとも49階層までは。
それより下は俺にとっては人伝にしか情報がない世界で、どうなっているのか分からない。
暗闇だ。そこから先は暗闇だ。
そして俺はその暗闇を恐れている。炎のない時代に洞窟に籠った原始人のように。
「でしたら、もう一度ボクと戦ってみますか?」
「……なんだって?」
突然サタナエルが突拍子もないことを言いだすのに俺は思わず口を半開きにして、そう尋ね返した。
「旦那様には実力があります。50階層だろうと100階層だろうと到達できるだけの実力が。ですが、今の旦那様はそのことを見失っておられるように見えます。ですので、自信を戻すためにももう一度ボクと戦ってみませんか?」
「……なるほど。確かにドラゴンをもう一度倒せれば、自信は出るだろうが……」
俺は真っ赤な瞳で俺を見つめるサタナエルを見つめ返した。
「お前はいいのか? また殺されることになるぞ?」
「ボクは死にませんから。それよりご自分の心配をなされた方がいいですよ。今度は殺してしまうかもしれません」
「はん。上等だ」
俺はサタナエルが提案してくれた再戦に同意した。
「場所は10階層。そこでもう一度戦おう」
「ええ。ボクたちの出会いの場所で」
俺たちはそう決め、明日の朝に10階層に向かうことにした。
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