コラボ
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──コラボ
それは超高度軍用グレードの人工筋肉の慣らし運転も終わり、次の仕事について考えていたころだ。
ある人物から接触があった。皇だ。
「どうした、皇?」
『ああ。佐世保。今から少し話せるか?』
「構わないが、どこで?」
『アレキサンドライトだ。待っている』
皇は短くそう言ってARデバイス越しの通信を切った。
「旦那様、お仕事ですか?」
「そうなりそうだな。ちょうど慣らし運転も終わったころだし、いいタイミングだ」
俺は金が欲しく、金のためには仕事が必要だ。
皇の話が仕事の話ならばありがたいのだが。
まあ、わざわざアレキサンドライトで話すならば、決して無駄話ではないだろう。
「行くぞ、サタナエル、マルキダエル」
未だに時限爆弾か不発弾であるサタナエルとマルキダエルを単独行動させる気にはなれず、俺はいつものようにふたりを連れていく。
いつものように民間軍事会社のコントラクターたちがいる検問を抜けて、俺たちはそのままアレキサンドライトに入る。
「佐世保。来てくれたか」
アレキサンドライトのVIPルームで皇が俺たちを出迎える。
「まずは礼を言っておく。黒沢と水原の件は助かった」
「気にするな。連中から礼は受け取ったし、しっかりそっちでも少人数で行動するなって注意しておいたんだろう」
「ああ。もちろんだ」
黒沢と水原は皇のクランであるリリスのメンバーだ。
そのふたりを助けたことに皇がまず礼を述べる。
「それで? ここに呼び出しての話ってのはそれじゃないだろう?」
「まあ、そうなんだが……」
少し言い難そうに皇が表情をしかめる。
「お前、地下街メイロってライバー知ってるか?」
「ついこの前知ったところだ。ダンジョンで配信とは考えたものだよな」
「ああ。あたしもたまに見ているぐらいだ。なかなか面白かったりする。しかし、問題はあのチャンネルが面白いかどうかじゃない」
「問題とはなんだ?」
「……地下街メイロが20階層でドラゴンをぶちのめした探索者とコラボしたい、とそう言っている」
「…………はあ?」
俺は皇の言葉に間抜けな面を晒していたと思う。
「いやいやいや。どうしてそんなことに? そもそもお前は地下街メイロと知り合いなのか?」
「別に知り合いってわけじゃない。だが、あたしはダンジョンでそこそこ名の知れた探索者だ。向こうはあたしを知っていて、あんたと接触するのにあたしを頼ってきたってわけだよ」
「そうなのか。しかし、なんで俺と? 地下街メイロってそこそこファンがいるライバーだろう? 俺みたいな……戦場帰りなんかとつるむ必要なんて……」
地下街メイロの配信は何度か見た。
どれも眩しくなるような明るさを見せてくれる配信だった。
チャット欄でも彼女のことを誉め、讃え、信仰すらしていた。
俺のような社会に疎まれた戦場帰りとは真逆の存在である。
そんな彼女が俺とコラボ? 冗談だろう?
「話題が欲しいんだろう。ダンジョン配信って言っても無限にネタがあるわけじゃない。そこであんたがソロでドラゴンを殺ったってニュースを聞いた。こいつはネタになるって思ったんだろうさ」
「そんなことでコラボを持ち込んできたのか? ……しかし、戦場帰りなんかとコラボしたら、それこそ炎上したりするんじゃないか……?」
戦場帰りは疎まれ、社会から疎外されている。
そんな戦場帰りと人気のライバーがコラボと言うのはいかにも炎上しそうな案件のように思えたのだった。
「それは本人に聞いてくれ。とりあえず会うだけ会ってみたらどうだ? 報酬はそれなりに払うっていう話だった」
「報酬か……」
それだけは興味をそそられる話だ。
人気ライバーからの報酬と言うことはそれなりの額になるかもしれない。
「分かった。本人に会ってみる。どこで接触すればいい?」
「ここに呼んである。そろそろ着くはずだ」
それから5、6分待つとVIPルームの扉が開いた。
「こんにちはっ!」
元気よく入ってきたのは俺が知っている地下街メイロであった。
「おお? そちらの方が20階層でドラゴンをソロで倒したという!?」
そして興味深そうに俺の方を見つめてくる地下街メイロ。
「……佐世保朔太郎だ。あんたは地下街メイロだな?」
「イエス! 何を隠そう私が地下街メイロです!」
俺が短く自己紹介するのに地下街メイロはそう言って俺の向かいに座る。
「コラボの話、考えてくれましたか?」
「まださっき話を聞いただけだ。具体的な内容を聞きたい」
俺は地下街メイロがわくわくした様子で尋ねるのにそう返す。
「そんなに難しい話じゃないんですよ。まずこの動画をご存じですか?」
そう言って俺のARデバイスに地下街メイロがあるアドレスを送ってくる。
どうやら彼女が配信しているのと同じサイトの動画のアドレスらしい。
俺はそれを開いて再生する。
「これは……」
それは20階層で俺がドラゴン──マルキダエルに出くわしたときの映像だ。
当時20階層にいた誰かが撮影したのだろう。
映像はぶれながらもドラゴンと俺の姿を遠くから映している。
「それに映っているの、佐世保さんですよね! その動画凄い反響あって、コメント欄か滅茶苦茶盛り上がってるんですよ!」
コメント欄には『ソロでドラゴンを? マジで?』という疑問や『この男は現代に蘇った聖ゲオルギウスだ』という賞賛や『かなり高度に機械化してるっぽい?』などと言う推測がずらずらと書かれていた。
「確かに反響はあるようだが……」
「私のチャンネルでも『この人について調べて!』ってリクエストがあってですね。そこでぜひとも佐世保さんを紹介させてほしいんです!」
「紹介か……」
俺はダンジョンに名声を求めてやってきたわけじゃない。
ましてSNSでバズるのを狙ってきたわけでもない。
ただ金が欲しいだけのだ。
「残念だがそれには応じられん。俺は他人に誇れるような人生を送っていない。俺は戦場帰りだ。そんな社会不適合な人間を紹介すれば、あんたのファンだって失望するんじゃないか?」
「心配ご無用! 私のチャンネルのリスナーには元軍人さんだって多くいますから! それから強ければ倫理なんて気にしないお友達もたくさん!」
「いや、倫理は気にしろ」
ろくな友達じゃないぞ、そいつら。
「私の配信しているサイトはアングラのそれですからね。戦場帰りだろうと大量殺人鬼だろうと面白ければ気にしません!」
「分かった、分かった。だが、紹介と言うのは困る。俺は下手に有名になりたくない。何せ対人戦というのも仕事のひとつだからな」
「なるほどー! 報復があると困るってわけですね。じゃあ、名前とか顔は出さないので他のことを紹介する感じでどうです?」
「他のことというと、どんな?」
「そうですね。そこの美女ふたりとの関係とか」
そう言って地下街メイロは俺の両隣りに座るサタナエルとマルキダエルの方を見る。
サタナエルはそれに対して怪しい笑みを浮かべ、マルキダエルは理由は不明だが誇らしげにしていた。
「それも困る。こいつらは手を出すべきではない厄ネタだ」
下手にサタナエルとマルキダエルが有名になるのは困る。
こいつらは見てくれこそ美人でも正体は悪魔でドラゴンなのだから。
「ふむふむ。謎が多い人なのですね。なら、こういうのはどうです?」
地下街メイロが問う。
「ドラゴンの倒し方のコツ、とか!」
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