企画内容
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──企画内容
地下街メイロが提案したドラゴンの倒し方のコツを紹介すると言う話。
「コツなんてない。無我夢中に戦ったらどうにかなっただけだ」
「またまたご謙遜を! ただ無我夢中に戦うだけでドラゴンが倒せたら誰も苦労しませんよー!」
「それはそうなのだが……。俺の場合は技術いうよりインプラントの強さというのもあると思うからな……。あまり、人様の役に立てることは紹介できないと思うぞ」
「インプラントはどのようなものを?」
「……型番は言えないが軍用グレードの強化脳だ」
大井医療技研製の強化脳インプラント。
これの型番を他人に言えないのはそれを知らないからではなく、身元を知られる恐れがあるからだ。
というのも俺が入れている強化脳は情報軍時代から変わっていないものなのだ。
それは情報軍に入隊して機械化したときにインストールされており、除隊した際に非アクティブ化されたが、俺が知り合いの伝手で再びアクティブ化したという経緯がある。
だから、この型番を明らかにすると俺が情報軍のどの部隊にいたのか、大勢が知ることになってしまう。
軍にいたときに俺がやったことを考えるとそれだけは避けたい。
「ふむふむ。では、企画を変えましょう!」
そこで地下街メイロがそう言う。
「ドラゴンを倒した猛者の佐世保さんとカワイイダンジョン系ライバーのメイちゃんで、40階層のエリアボスを倒す、というのはどうです!」
「40階層のエリアボスを、か」
地下街メイロの提案に俺は考え込む。
40階層のエリアボスはキメラと呼ばれているクリーチャーだ。
その名のごとく、複数の生物が合わさったような不気味な姿をしており、厄介なことに発生するたびにその形は変化している。
つまりどういう攻撃が弱点になるかが毎回変わるのだ。
「俺はいいとしてお前は40階層で戦える実力はあるのか?」
「もちもちです! これまで40階層には何度か行っていますからね」
「ふうむ。お前もソロでか?」
「いえいえ。撮影を担当してくれる親友と一緒です」
ふたりで40階層まで到達しているというのは、探索者の中では中の上くらい存在だ。
ダンジョン系ライバーなんてふざけたことをしているが、大したものである。
「まあ、逆に言えば40階層が私の限界深度なんですけどね……」
「俺は49階層だ。50階層の壁は大きいな」
50階層を越えれば探索者としては上位に入ることになる。
「では、この企画受けてもらえますか?」
「顔出しせず、名前も出さないというのなら」
「分かりました! それでオーケーです! 具体的な企画書作って持ってきますから、また会いましょう!」
「分かった。その前に報酬について話したい」
俺はただ働きするつもりはさらさらない。
仕事には対価を。その金で俺は最深部を目指し、大金を手にするのだ。
「そうですね。800万円ぐらいでどうです?」
「ふむ。悪くないな」
仕事を受けずに40階層に潜って、キメラを倒しても何も得られるものはない。
それが800万円の仕事になるのだから結構なことだ。
「分かった。それでいい。受けよう」
「ありがとうございます! では、またっ!」
そういうと地下街メイロは慌ただしくVIPルームを出ていった。
「……あんたが引き受けるとは意外だったよ」
彼女が出ていったあとで皇がそんなことを言う。
「金はほしいからな。ただダンジョンに潜っても大した金にはならない」
「じゃあ、うちのクランで教官を引き受けないかい? 給料は払うよ」
「ダンジョンに潜れなくなったら、それも考えるか」
皇の提案に俺は肩を竦めてそう返す。
「あんた、本当にダンジョン最深部のお宝を目指してるんだね」
「ああ。それが俺の夢だ」
大金を手にする。
それでこれから先の人生で心配なく、そして楽しく過ごす。
それが俺の夢だった。
「ぼちぼちの稼ぎで引退するつもりはないわけか」
「ない。俺にはもうダンジョンしか居場所がないんだ」
戦場帰りという立場は、この平和な日本では邪魔ものだ。
それがこれからの長い人生を平穏に生きていくためにはどうしてもダンジョン最深部のお宝がいる。
ちょっとした仕事で稼げるはした金ではダメなのだ。
「なら、何も言わないよ。頑張りな」
「そうするとも」
俺は皇にそう言ってVIPルームを出た。
「安心しました」
アレキサンドライトを出ると不意にサタナエルがそんなことを言う。
「何に安心したんだ?」
「旦那様は今も深い欲望を持っていることにです。あなたは今もダンジョン最深部を目指されている」
サタナエルは俺に身を寄せ、腕に抱き着きながらそういう。
「それだとどうして安心できるんだ?」
「ボクは悪魔ですから。悪魔は欲深い人間が好きなんです」
「そうかい」
どこまで本当かは分からないが、俺が欲深いことはサタナエルが俺に愛想を尽かす理由ではないようだ。
「しかし、お前たちはどうする? 動画配信なんて興味ないだろう?」
俺は顔も名前も出さない方向で行くつもりだった。
だが、サタナエルとマルキダエルはどうするつもりか。
こいつらも有名人になりたいと思っているわけではないだろうし。
「もし、ボクが動画に出て大勢の人に好かれたら旦那様は嫉妬してしまいますか?」
「別にしない」
「あらあら。本当にですか? ボク、他の人が好きになって毎日の朝食も作らなくなるかもしれませんよ?」
「それはちょっと困る」
サタナエルの作る飯は美味い。
特に俺が目覚めたときには必ず作ってある朝食はありがたいのだ。
「ふふ。大丈夫ですよ。ボクは旦那様以外の人を好きにはなりませんから……」
サタナエルは目を細めてそう言い、俺の方を上目遣い見たのだった。
「じゃあ、配信に出るのは俺だけでサタナエルとマルキダエルは近くで待機な」
「俺は出たい! 出て有名人になりたい!」
「ダメ。っていうか、お前はもう有名人だよ。あの20階層の騒ぎの動画、再生数200万超えてたぞ」
「本当か! やったーっ!」
……自分が倒される動画の再生数で喜ぶとか、こいつやっぱり阿呆だな?
「しかし、40階層のキメラを倒すとなると準備が必要だな。まずは偵察だが……」
キメラはベースとなる生物によって必要な装備が異なる。
まずは今回のキメラがどのような種類なのかを見定める必要があった。
「では、早速ダンジョンへ?」
「いいや。まだ本決まりしたわけじゃないからな。地下街メイロがまた連絡してきてから、考えるとしよう」
「なら、今日の夕食の買い出しに行きませんか? 九条さんのおかげでいろいろと作れるようになってきたんですよ」
「そいつは期待だな。今日は何を作ってくれるんだ?」
「ビーフカレーなどいかがです?」
「それはいいな。腹が減ってきたよ」
サタナエルはやっぱり怪しいし、マルキダエルは騒々しいのだが、少しずつ俺はこの状況に慣れつつあった。
人間というのは良くも悪くも適合する生き物なのだと実感する。
しかし、この状況が続くとなると困ったこともある。
それは自宅の狭さだ。
「地下街メイロの依頼をこなしたら、その報酬で引っ越しするか……」
「おや。本当ですか?」
「ああ。今のままだと狭すぎるしな……」
ダンジョンの周りにはいくつかの住宅地が存在する。
俺が暮らしているのは底辺に近い探索者用のものなので、周囲の治安も悪いし、部屋も狭い。ただ家賃は安い。
このままサタナエルたちが居座るなると今の狭さは暮らしづらい。
地下街メイロの依頼で金が入ったら、もっと広い部屋に引っ越そう。
俺はそう決意した。
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