ドラゴンについて
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──ドラゴンについて
俺はまずどこから話すべきかを考えた。
「ふむ。最初に言っておきたいのは、別に俺はドラゴンを倒そうと思って20階層に来たわけではないと言うことだ」
俺はトレインという犯罪組織に掛けられた懸賞金目当てで20階層に来たことを五十嵐に話した。
マルキダエルは他人事のようにラーメンにがっついており、サタナエルは何も注文せずににこにこと俺の方を見ている。
「トレインの連中は正直雑魚だったが、連中は最後っ屁に捕らえていたクリーチャーを全て解放して20階層に解き放った」
俺はトレインがクリーチャーに探索者を襲わせていたことを話す。
「ああ。その手のことをやる連中については聞いたことがある。しかし、それがこれまで安定していた20階層に急にドラゴンが現れた原因になるだろうか……」
「分からんが、ドラゴンが現れたのはそれからだ」
黒い鱗のドラゴンが現れたと俺は五十嵐に語る。
マルキダエルの名前は当然出さない。
そして、当事者であるはずのマルキダエルのやつは話に興味もないらしく、今度はチャーハンをがっついている。
「黒い鱗のドラゴンか……。ふむ……」
「珍しいのか?」
「ああ。赤や青、緑と言った鱗のドラゴンは深層ではよく確認されているが、黒と言うのはほとんど聞いたことがない。それも変異種と呼べるものだったのかもしれないね。興味深い」
そうか。確かに白や黒のドラゴンにあったのは初めてだ。
そもそも俺の限界深度が49階層なので、そこまでドラゴンに遭遇していないということもあるのだが。
「そして、君はどのようにしてドラゴンを倒したのかね?」
「やつの火炎放射を回避し、俺の間合いに取り込んだ。それだけだ」
「どのような武器を?」
「これだ。大井重工製の超高周波振動ナイフ」
「まさかナイフでドラゴンを……?」
ぎょっとした様子で五十嵐が俺の方を見る。
信じられないという反応と恐怖の感情が入り混じった顔だ。
「そうだよ! そのお兄さん、ナイフ一本でドラゴンに立ち向かってね! いやあ、あれは凄かった!」
そんな五十嵐を見たせいか店主がそんなことを言う。
「信じられないが証人がいるならば信じざるを得ない。だが──」
五十嵐がじっと俺の方を見つめる。
「君の機械化率はどれくらいだね?」
そして彼女は俺にそう尋ねた。
「それを言わなければならない必要があるのか?」
「ああ。今後の参考にする」
「……最後に診断したときは87%だ」
「なるほど。そのことから察するに君は元生体機械化兵か。それも日本情報軍辺りの。そうだろう? 50%以上の機械化を強行するような連中は、他にはアメリカのネイビーSEALsチーム13以外心当たりがない」
「そんなところだ」
正確に言えば俺が所属していたのは日本情報軍第101特別情報大隊の第4作戦群と呼ばれる部隊だった。
第4作戦群は高度に人体を機械化した兵士──生体機械化兵で構成される部隊。
「しかし、機械化率の問題だけではないだろう。単純に君自身の技量が優れていたということもあるはずだ。ナイフでドラゴンを倒すのはそれだけ困難であると、私は推測してしたからね」
「そうかもな」
誉めてくれているのか、それとも単純に分析しているのか分からなかったので、俺はラーメンを啜ってそう返した。
「素晴らしい。君自身も面白い研究対象になりそうだ」
「おいおい。勘弁してくれ。モルモットになる気はないぞ」
五十嵐が口元に僅かに笑みを浮かべて言うのに俺は渋い顔。
「ただ観察するだけだよ。そう無下にしないでおくれ」
そう言って五十嵐はずずずっとラーメンを啜る。
「さて、30分だ。食べ終わったな? そろそろ地上に向かうぞ」
「腹いっぱいだ!」
最終的にマルキダエルはラーメン3杯とチャーハン5皿、餃子2皿を平らげていた。
こいつ、食いすぎだろ。
「旦那様」
一方の何も食べなかったサタナエルは五十嵐を護衛する俺の方に寄ってきて囁く。
「どうした?」
「旦那様がお強い理由は何なのだろうかと思ったのです。あの女性が言うように人体を機械化しているだけでは説明がつかない。旦那様と同じくらい人体を機械化しても、間違いなく同じ結果は出せない」
「それは分からないだろう」
「分かるのです。ボクには……」
サタナエルは身をぴたりと俺にくっつけてそう言う。
彼女の温かさが、甘い匂いが俺の方に伝わってくる。
「そう、ボクの魂は旦那様の下に導かれたのですから。これは運命なのですよ」
「……そうかい」
俺はサタナエルのやや不気味な言葉にそう返すだけだった。
* * * *
それから俺たちは地上に出た。
俺はすぐにジョン・ドウにARデバイスで連絡を取る。
「ジョン・ドウ。目標の捜索救難に成功した。五体満足だ」
やつからの返信は早かった。
『ご苦労。すぐに迎えを送る。それまでそこで待て。報酬は目標の身柄が引き渡されたときに行う』
「了解」
ジョン・ドウからそう連絡があり、俺たちはダンジョンの出口付近で待機した。
ここら辺には法外な値段を取るクリニックや、観光地以上にぼりすぎな出店などがあるが、どれも利用するつもりはない。
すぐにジョン・ドウの迎えはやってきた。
「五十嵐博士。お迎えに参りました」
装甲の厚い3台の軍用四輪駆動車が止まり、そこから武装した太平洋保安公司のコントラクターたちが降りてくる。
そいつらは五十嵐を生体認証して、確認すると彼女を車に乗せようとした。
「君、名前をまだ聞いていなかった」
「佐世保朔太郎だ」
「うむ。佐世保君、またこちらから連絡するからそのときは頼むよ」
「ああ」
俺たちは連絡先を交換してから分かれた。
『今、目標の安全が確認された。報酬を送る』
ジョン・ドウからも連絡があり、俺のウォレットに800万円の入金が確認される。
『これからも仕事があれば回そう。期待しておくといい』
「受けるとは限らないぞ」
『金が欲しいのだろう? なら、働くしかない』
ジョン・ドウは薄ら笑いを浮かべてそう言い、連絡を切った。
いちいち気に入らない野郎である。
「さて……また結構な金が手に入ったな」
ダンジョンに単純に潜るより、こういう依頼を受けた方が実に儲かる。
ああ。そう思うとジョン・ドウが言うようにやつの仕事を受けた方がいいというのが分かると言うものだ。
本当に気に入らない話だが、メガコーポの仕事は大きな稼ぎを得られる。
「旦那様、これからの予定は?」
「そうだな。30階層のエリアボスの調査という話だったから、それに備えるか」
サタナエルが尋ねるのに俺はそう答える。
「30階層のエリアボスは何だ! ドラゴンか!?」
「違う。30階層のエリアボスは──」
マルキダエルが大声で尋ねるのに俺は短く答える。
「人狼だ」
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