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マンハント

……………………


 ──マンハント



 俺とサタナエルは20階層の建物がひしめく場所に入った。

 猥雑なほどにネオンが輝く中にはどんな食材を使っているか不明の食堂があったり、もぐりの病院があったりする。

 当然ながら武器弾薬もここで販売されている商品のひとつだ。


 では、ここまで無法な20階層で何が非合法な品としてブラックマーケットで扱われているのかとそう思うだろう。


 まず20階層にもルールは存在することを言っておかなければならない。


 盗みや殺人はご法度だ。それを許していたら商売は成り立たない。

 次にドラッグ関係である。ドラッグは犯罪組織の資金源であり、一般人が堂々と扱えばここでは制裁を受ける。


 そのような犯罪を犯した人間が地上にも戻れなくなり、行き場をなくしたところでブラックマーケットに行きつくのだ。

 ブラックマーケットでは生身の人間もその臓器も、死体から剥いだインプラントや装備も、そして非公式のドラッグの類も売っている。


「ここは楽しい場所ですね」


 そんな無法の中の無法のブラックマーケットに向かう道中でサタナエルはそう言う。


「何が楽しいんだ? ここにはろくなものがないぞ」


「いえいえ。ありますよ。人間の欲望というものが、とってもたくさん」


 そう言ってサタナエルは興味深そうに20階層の街並みを見渡していた。


「確かにな。ここは欲望の街だ」


 手っ取り早く金を稼ぎたい連中がここにはいる。

 それで手に入れた金で手に入れるのはさらなる金か、名声か、異性・同性か。

 いずれにせよ金銭というものは人間の欲望と強く結びつく。

 俺も欲望があるから金を求めているのだ。

 俺が望む安心できる生活というのは何不自由なく満たされた生活ということで、これほど欲深い願いもないだろう。

 だから、金と欲望のことは理解しているつもりである。


「だが、ここに用はない。俺たちは用事があるのはブラックマーケットだ」


 ここはサタナエルにとって興味深い場所なのだろうが、俺には今は用はない。

 俺は別にここに買い物をしに来たわけではなく、ブラックマーケットに人を殺しに来たのだ。


「ブラックマーケットはこっちだ」


 俺はサタナエルを誘導してブラックマーケットの方に向かう。

 通りを進めば正面からブラックマーケットに入れるが、そうすれば相手が気づく。

 トレインの連中だってフル武装の見知らぬ不審者が来たら自分たちを狙っていると気付くだろうからな。


 ということで、俺は正面を迂回して警備の手薄な位置から侵入する。

 侵入位置はブラックマーケットとの境にある建物の地下通路で、ここには監視カメラもなければ警備もいない。

 狭い通路を匍匐して進み、仕掛けられていた初歩的なワイヤートラップを解除し、俺たちはブラックマーケットに侵入。


「ここから先はずっと隠密(ステルス)だ。いいな、サタナエル?」


「はい、旦那様」


「行くぞ」


 俺は地上に這い上がると素早く周囲を見張る。

 映像や音で周囲を探り、人間がいないことを確認するとサタナエルを引き上げた。

 それからトレインが拠点としている建物に向けて進んでいく。


 ここにいる人間は全て敵だと思っておかなければならない。

 トレインが拠点としているのには決して小さな隠れ家などではなく、そこそこ大きな建物なのだ。

 トレインがこのブラックマーケットで一定の権力を持っているのは間違いない。


 俺はアサルトライフルを構えて建物の陰から陰に移動し、ときおり無人の室内を駆け抜けてトレインの拠点に迫る。


「あれだ」


 俺はARデバイスに表示された位置情報を確認し、目標の建物を視認。

 建物はフェンスに囲まれた倉庫のようなものであり、正面のシャッターになっている入口と裏手の勝手口であるドアの両方に見張りが立っている。

 そいつらの武装はばらばらだが、前に見かけたドイツ製アサルトライフルも見える。


「静かに、静かに……」


 俺は見張りがひとりしかいない裏手から侵入することにした。

 しかし、俺がフェンスを乗り越えようとしたとき、サタナエルが俺の肩を叩く。


「旦那様。ここはボクにお任せを」


 サタナエルはそう言うと鉄製のフェンスに指を這わせる。

 それによってフェンスが熱で溶かされたように切断させてゆき、人ひとりが余裕で通れる穴ができた。


「助かった、サタナエル」


「ふふ。旦那様のお役に立てたなら何よりです」


 サタナエルはそう笑い、俺たちはフェンスを突破。

 それから裏口を守っている歩哨に俺は音もなく接近する。

 サプレッサーがつけられた自動拳銃でそいつの頭を狙い、引き金を引く。

 ほとんど音もなく発射された亜音速弾が男の頭を弾き飛ばし、男はぐらりと地面に崩れ落ちる。


「よし」


 俺はARデバイスで男の死体の写真を撮影してから、勝手口の扉をゆっくりと開き内部を確認。

 内部には数名の男がいる。だが、まだこの中に目的のトレインのボスがいるかは分からない。

 この手の暗殺作戦には不確実性が常に付きまとうものだ。


 そのトレインのボスの情報は斎藤が手に入れてくれている。

 マイルズ・シミズという29歳の男で、ダンジョンに来る以前の経歴は不明だが元探索者であることは間違いないらしい。


「さて、人狩りといくか」


 俺はぬらりと倉庫内に侵入。

 まずは俺に背を向けてAR空間で作業中だろう男の首を裂く。

 そのあと生体認証するが、こいつはシミズじゃない。


 次に武器庫らしき弾薬箱と銃火器が集められていた場所にいた男を狙い、やはり超高周波振動ナイフで首を裂く。

 再び生体認証するも、こいつでもない。


 次は……と思ったとき俺は驚くべきものを見た。

 それは猛獣を入れるような鋼鉄製のケージに入れられたクリーチャーたちだ。

 ゴブリンや人食いネズミと言った低層のクリーチャーが檻の中に入れられている。


「なるほど。あれで人間を襲っていたのですね」


「らしいな。面倒なことを考えたものだ」


 クリーチャーを捕獲するような労力をかけるなら素直に探索者として仕事をすればいいだろうにと思ったが、クリーチャーを倒すだけでは金にならないダンジョンで金を稼ぐにはやはり探索者を襲うのはいいのかもしれないな。


「しかし、これ以上、隠密(ステルス)を続けるのは難しそうだな」


 残る男たちはお互いが視界に入る位置で話し合っており、ひとりずつ始末するにはまとまりすぎている。


「ここからは強行突破だ」


 俺はスタングレネードのピンを抜いて男たちの方に放り投げる。

 激しい閃光と炸裂音が響き、戦いのゴングがなった。


 隠密(ステルス)は放棄したものの、相手は敵がここまで侵入しているとは思っていなかったらしく大混乱だ。

 俺はその混乱する男たちをアサルトライフルで銃撃。

 ボディアーマーもヘルメットも身に着けていないトレインの構成員たちは次々に銃弾の前に倒れていく。


「クソ、クソ! 敵だ!」


「目が……!」


 男たちは周囲に銃を乱射するが俺に当たるどころか、友軍誤射フレンドリー・ファイアを起こしている。


「旦那様。目標の獲物は?」


「いたぞ。あそこだ」


 俺は遮蔽物に隠れているシミズの姿を見てにやりと笑った。やつはAK-47アサルトライフルを手に遮蔽物に潜んでおり、スタングレネードの閃光からは逃れたらしく慌ただしく視線で周囲を探っている。


「あとは首を持ち帰るだけだな」


 狩人は獲物を見つけた。あとは狩るのみ。


……………………

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