20階層に向けて
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──20階層に向けて
俺は準備を終え、斎藤からの連絡を待っていた。
ARにやつからのメッセージが来たのはやつと話してから数日後のことだ。
『トレインについて情報あり。いつもの場所へ』
ついにか、と俺は僅かに口角を歪める。
「サタナエル。俺は斎藤に会ってくる。お前はどうする?」
「もちろんボクは旦那様と一緒に行きますよ」
「分かった。なら、支度しろ」
俺は部屋着である白いワンピース姿のサタナエルにそう言い、サタナエルが俺が買ってやった服に着替えるのを待った。
それから白いロングスカートと黒いブラウスを身に着けたサタナエルを連れて、俺は斎藤の根城である半地下のバーに入る。
「よう、切り裂き魔」
「それはやめろ」
相変わらず俺を気に入らない二つ名で呼ぶ斎藤を俺は睨んだのちにサタナエルとともに席に着いた。
「それで、トレインの連中の拠点は?」
「この場所だ。20階層のブラックマーケット」
「あそこか……」
20階層は特殊な場所だ。
エリアボスはかつて存在したのだが、倒されたあと全く復活せず、クリーチャーも出現しなくなったために一種の安全地帯になっている。
そこにはダンジョンに潜る探索者を相手にする店舗もあり、メガコーポも調査拠点を設置していた。
そんな20階層の中でも物騒な品を扱っているブラックマーケット。
そこにトレインの連中は拠点を構えているそうだ。
「正確な位置は分かるか?」
「ああ。ブラックマーケットのこの区画だ」
「分かった。あとは俺が対処する」
ARデバイスの通信アプリを経由してブラックマーケットにおけるトレインの具体的な位置情報が斎藤から送信されて来たのを確認して俺は席を立つ。
「よい狩りを、切り裂き魔」
「ほざけ」
くだらないことを抜かす斎藤に俺はそう言い、サタナエルと俺はバーを出た。
「サタナエル。準備をしたら早速ダンジョンに潜る。20階層まで一気に。お前もついてくるんだよな?」
「はい。もちろんです。旦那様とは1秒たりとも離れませんよ」
「分かった。で、一応聞いておくが……その姿でも銃弾を食らって大丈夫なのか?」
今のサタナエルは人間の姿をしている。
もちろん睡眠も食事も必要ないのだから生物学的に人間と一致はしないのだろうが、それでも銃弾を受けて平気なのかは、少しだけ心配になる。
「ふふ。心配してくださるのですね。嬉しいですよ」
「今さら死なれたら皇になんて言われるか分からないからな」
「大丈夫ですよ。そう簡単に悪魔は殺せません」
「それは安心した」
どうしてだろうか。さっさと追い払いたかったはずなのだが、今になってどうしてこいつの心配など俺はしているのだろうか。
「戦力としては期待していないが、ついてくるなら俺の命令に従えよ」
「はい。ぜひ命令してください」
「はいはい」
俺とサタナエルは装備を整えるために、自宅に向かう。
「ブラックマーケットの構造はダンジョンそのもの。つまりは迷宮だ」
俺はこれまでにマッピングされたブラックマーケットの情報をARで表示して確認。
いくつもの建物やダンジョン本来の構造物が入り組み、それによってブラックマーケット周辺は迷路のようになっている。
「想定される交戦距離は短い。そして敵の数が不明な以上、隠密は必須だ。だから、今回はこいつだな」
俺はサプレッサーが装着された.300ブラックアウト弾を使用するアサルトライフルを手に取る。
近距離での戦闘に適した武器であるそれで今回は挑むことにした。
マガジンにローダーで弾丸を込めてマガジンポーチに詰め込む。
それから背嚢に医薬品や1日分の食料と水をしっかりと収める。
ホルスターに自動拳銃を収め、愛用の超高周波振動ナイフを点検して格納すれば戦闘準備は完了だ。
「行くぞ、サタナエル」
* * * *
それから俺たちはダンジョンに潜り、まずは10階層まで一気に下る。
ここまでは問題は特になし。
ただ10階層から20階層はさらに脅威となるクリーチャーが増える。
ゴブリンやダイヤウルフは群れるようになり、さらにここからはスケルトンというクリーチャーが出没する。
スケルトンというのがまた厄介な相手なのだ。
骨だけの存在であるにもかかわらず、それなりの速度で動き回り、手にした武器でこちらを攻撃してくる。
学者たちはスケルトンが行動できる理由を調べたが、それがどういう仕組みなのかは分かっていない。
まあ、この程度はダンジョンではよくあることだ。
ここは不思議と危険に満ちている。
問題は動ける理由ではなく、骨だけの敵をどうやって倒すか、だ。
もっともポピュラーな方法は爆発物を使うこと。
骨だけでも爆発でばらばらにされたら流石にくたばる。
あるいは刀剣でばらばらに解体することや打撃によって粉砕すること。
そして、通常の銃撃はほとんど意味がないのは分かってる。
遭遇しないのが一番いいのだが、避けられない場合もあるわけだ。
「クソ。スケルトンだ。前方に2体、武装はサーベルか」
からからと音を立てながら動き回る骨だけの存在が廊下の先にいた。
迂回するという手は残念ながらここでは通じない。ここしか通れる道はないからだ。
「まあ、2体でサーベルならどうにかなるな……」
俺はそう呟くとぐっと足に力を込め、強化脳インプラントの起動をスタンバイ。
インプラント発動までのカウントがAR上に表示され、俺はスケルトンに向けてアサルトライフルを手に駆けた。
強化脳インプラント発動まで5、4、3、2、1──。
スケルトンが俺のことを感知し、刃を向けてきた瞬間に強化脳インラントが作動。
体感時間がスローモーとなり、スケルトンの動きがはっきりと把握できる。
俺はそんな状況下においてアサルトライフルの銃床で思いっきりスケルトンの頭を殴りつけた。
「カルシウム不足か?」
スケルトンの頭蓋骨は粉々に砕け、がらがらと崩れ落ちる。
もう1体のスケルトンはサーベルを振りかざすが、俺はそれを腕で防ぎ、サーベルが俺の腕にぶつかって甲高い金属音が響く。
そのまま俺は蹴りをスケルトンに向けて叩き込み、あばら骨が粉砕されたスケルトンが先ほどのスケルトンのように崩れ落ちた。
「クリア」
俺はそう呟き、周囲を素早く見渡す。
他にクリーチャーがいる気配はない。これで進める。
「さあ、20階層まで一気に潜るぞ」
20階層の雑魚を相手に苦戦するほど俺は軟じゃない。
どんどんダンジョンを進み、可能な限り戦闘は回避するがそれでも邪魔になるクリーチャーは軽く蹴散らし、深く深く潜る。
そうやって──。
「ここが20階層だ」
俺たちは20階層に到達した。
20階層の光景はダンジョンの中とは思えないほどの光景であった。
煌びやかなネオンが輝き、九龍城砦のような密度で建物がひしめき合っている。
「いつ来てもうんざりするような光景だな……」
「そうですか? ボクは好きですよ、こういう景色は。とても多くの人と欲望で溢れていますから」
「そうかい」
俺は長い螺旋階段を降りながら、20階層に降り立った。
「さて、狩りの時間だ」
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