狩りの準備
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──狩りの準備
対人戦と対クリーチャーでは求められる装備がやや異なる。
前にも言ったが人は急所を突けば素直に死ぬ存在だ。
だから、やたらめったら大口径の銃火器は必要ないと言えるだろう。
ボディアーマーを装備しているやつもいるが、ボディアーマーでも全身は守れない。
もし、全身を守れるようなボディアーマーを身に着けていたら、よほど機械化率が高くない限り身動きが取れなくなる。
加えてその手のボディアーマーは高価で滅多に手に入らない。
しかしながら、そんなひ弱な人間という種族にも長所はある。
それは何か? 知性だ。
人間は他の部隊と高度に連携し、罠を張り、こちらを攻撃してくる。
それは決して舐めてかかっていいものではない。
人間は同じ人間を殺すための技術を数千年に渡り発達させてきた種族なのだから。
「何を準備されるのでしょうか?」
「弾薬だ。替えのサプレッサーも必要だな」
だが、その人を殺す技術をもっとも継承したのは俺たち戦場帰りだ。
俺の武器を扱う技量も、脳に叩き込まれた大量のインプラントも、機械化した身体も全ては人を殺すために作られた。
だからこそ、俺たちは平和な社会で忌み嫌われている。
そんなことを考えながら俺は飲み屋街から外れた商業地区に入る。
商業地区の中でも物騒な場所が武器弾薬を売買している場所だ。
「あらあら。ここは鉄と油の臭いで満ちていますね」
「昨日行った場所とは大違いだろう?」
「ええ」
どこで作られたか分からない22口径の拳銃から口径12.7ミリの重機関銃、果てはRPG-29対戦車ロケットまで。ここには様々な武器が販売されている。
半分以上は非合法な手段でここに密輸されたものだが、日本政府はこの場所に手を出せないのをいいことにやりたい放題だ。
「けど、嫌いじゃありませんよ。旦那様とこうしてデートできるのですから」
「はいはい」
サタナエルが笑みを浮かべて言うのに俺は適当に返す。
普通こんな物騒な場所でデートするやつなんていないだろう。
まあ、それを言ったらドラゴンで悪魔な女とデートする男もいないのだろうが。
「さて、ここだ」
俺は『一色銃火器店』と書かれた看板のある店に入った。
「……いらっしゃい」
黒い眼帯をした不愛想な女店主が俺たちに一応声をかけて出迎える。
だが、その20代後半ほどの女の視線は俺たちの方を見ておらず、手元にある銃の手入れに勤しんでいた。
この店はダンジョンが現れる前から合法な狩猟やスポーツ用の商品を扱う銃火器店として存在していたものだと皇からは聞いたことがある。
ダンジョンが現れてからは非合法な品も扱う店になったが、他の店よりも店主が信頼できるので俺はずっとこの店を使っている。
「5.56ミリNATO弾と.300AACブラックアウト弾、それから45口径ACP弾が欲しい。45口径ACP弾はホローポイントで」
「……金は?」
「ちゃんとある」
俺は段々と頼りなくなってきた財布から必要な金を出した。
すでに俺が昨日持ち帰ったインゴットを換金して得た20万円はどこへやら……。
「……準備する。待っていろ」
店主はそう言うと、店の奥の施錠された戸棚から弾薬が詰まった箱を持ってきてカウンターに置いた。
「おい。少し量が多いぞ。俺の金じゃ……」
「……サービス。いつもご利用ありがとう……」
「あ、ああ。それはどうも……」
愛想こそもない女で常連である俺のことも覚えていないと思ったが、そんなことはなかったようだ。
いやはや。しかし、このサービスはありがたい。
弾薬は多いに越したことはなからな。まして相手も銃火器で武装してるとなると。
「……人狩り?」
そこで不意に店主が俺にそう尋ねる。
「……聞かない方がいい。面倒ごとだ」
「……分かった」
俺の買った銃弾で目的まで当てるとは。
やはりこの店の店主は分かっている人間か。これからも贔屓にしよう。
「旦那様」
そこでサタナエルが俺にすすすっと身を寄せてきた。
「そんなにたくさんの銃弾、持って帰れるのですか?」
「ああ。大丈夫だ」
俺がそうサタナエルに応えるのに店主はサタナエルの方を疑わしげに見た。
「……彼女さん?」
店主が怪訝そうにサタナエルの方を見る。どこか警戒した視線だ。
「まさか。ただのストーカーだ」
「いやですね。ボクは旦那様のお嫁さんですよ。お忘れなきよう」
俺が首を横に振るのにサタナエルは俺ではなく、店主の方にそう言った。
「……へえ。意外にモテる……?」
「冗談はやめてくれ」
店主が無表情にそういうのに俺はそう返し、弾薬箱を抱えた。
「それじゃ、これからもよろしく頼む」
「……ああ。気を付けて……」
俺は店主に別れを告げて、店を出ると自宅に向かった。
しかし、今回入るのは自宅ではなく、その隣にあるコンテナハウスだ。
俺は厳重にかけられたカギを外し、コンテナハウスの中に。
「ほう。これは……」
サタナエルが中の光景を見て小さく呟く。
コンテナハウスの中には無数の重火器がラックに掛けられていた。
アサルトライフル、ショットガン、サブマシンガン、それからオートマチックグレネードランチャーまで。いろいろだ。
「これは全て旦那様が集めたのですか?」
「ああ。金を貯めて少しずつ集めたものだ。触るなよ?」
俺はサタナエルにそう警告すると、今回使用する可能性がある武器を手にする。
ひとつは口径5.56ミリNATO弾を使用するアメリカ製のアサルトライフル。
アメリカ海兵隊が分隊支援火器としても使用していたもので実際の戦場でコンバットプルーフされた実績ある武器だ。
タフなのが気に入っている。
ひとつは.300AACブラックアウト弾を使用するアサルトライフル。
亜音速弾を使用するこの銃はサプレッサーとの相性がよく、射程は短いが静音性に優れている。
ダンジョンのような閉所でこっそり殺すならこれだ。
ひとつは45口径拳銃弾を使用する自動拳銃。
これもサプレッサーとの相性がいいものだ。
いつもは口径9ミリの拳銃を好んでいるのだが、今回は人間とクリーチャーの両方を相手にする可能性があるのでこっちだ。
俺はそれらの武器ひとつひとつを点検し、すぐに使用できるようにメンテする。
「ここには人間が同じ人間を殺すために発展させた技術が詰まっていますね」
「最近では人間以外も殺すぞ?」
「そうでしたね。ですが、そのために作られたものではないでしょう?」
「……それは確かにな」
ここにある銃火器はクリーチャーも殺すというだけで、クリーチャーを殺すためだけに開発されたわけでない。
ここにある全ての武器と弾薬は人間が人間を殺すために作られたものと言っていい。
「昔、こういう話を聞いたことがある」
俺は言う。
「確かフロイトの言葉だ。『聖書に人を殺すなと強調して書いてあるのは、人間がずっと人殺しだったからだ』って感じの言葉。人間とはそういう生き物なんだろうな」
俺たち戦場帰りは実感している。
人間が戦場という極限状態でどれほど非人間的になれるのか。
本当ならば動揺し、躊躇うはずの人殺しを平然と行えるようになるという残虐さを知っている。
「ふふ。ボクは人間のそういうところが好きですよ」
「悪魔らしい感想だな」
「ええ、ええ。それは人間の強さの証明ですからね」
「強さ、か……」
果たして同族で組織的に殺し合うというのは、生物としての強さなのだろうか?
「旦那様。ボクにまた旦那様の強さを見せてください。あなたの逆らえない強さを。生存のためではなく己の欲望のために人を殺す強欲さを」
「保証はできないが、狩りの準備は整っている」
あとはトレインに関する情報を斎藤から受け取るだけだ。
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