第44話 〝Ⅹ(10)〟じゃなく――全シリーズが交差する〝X(クロス)〟――!?
〝赤壁の戦い〟を勝利同然で乗り越えた私たちだけど、全てを奪い去れるほどの大戦果、という訳でもない。
曹操軍は荊州の襄陽周辺の広域を固め、しっかりと確保した。
孫権軍は〝三国志〟通りに意地で江陵を奪取したらしい。
劉備軍もまた、曹・孫の乱戦の隙間を縫い、荊州の南側を大きく奪う。
劉備が確かな地盤を得たこともあり、かくして〝天下三分〟〝三国鼎立〟は形となった。これでも曹操軍は赤壁で大敗せず、軍力も衰えていないのだから、上々の出来だ。何だか〝荊州三分〟みたいにもなっちゃったけれど。
……さて、多くの問題が落ち着き、ようやく曹操勢力の首都〝許昌〟に戻り……私は改めて〝この世界〟について考えた。
まず大前提――この世界はロード・オブ・三国志のシリーズ10作目、即ち〝Ⅹ〟の世界……ではない。
・曹操様の覚醒とも呼べる〝9〟への変身。
・思えば徐州で曹操軍による虐殺が起こっていなかったこと。実のところ虐殺回避ルートは、ナンバリングによっては大いにあり得る。
・〝黄巾の乱〟以降の歴史を荀彧殿に頼んで教えてもらうと――各所に別々のナンバリングを彷彿させるイベントの存在があった。
・シリーズ通して見たことのないイケメン武将――楽進殿。きっと捜せば他にもいるのだろう、それは最終シリーズを超えた、新たなる存在。
「……この世界は、私の知る〝ロード・オブ・三国志Ⅹ〟の世界……じゃない」
「……え、ええ……?」
私は今、蔡琰ことサイちゃんを連れ、穏やかな風の吹く丘陵を歩いている。
大樹の麓、雄大な幹に手を添えつつ、私は――己の考えを口にした。
「この世界は〝ロード・オブ・三国志〟シリーズ、全てを内包し、交差する。
いわばクロス――私さえ知らない、全く新しい〝ロード・オブ・三国志〟
〝ロード・オブ・三国志X〟――と、私は考えるわ」
「……………!!」
一つや二つの小さなズレなら、〝そういうこともあるか〟と流してしまうかもしれない。けれどこれほどの条件が整えば、むしろ空想と考えるほうが不自然だ。
私が継承した〝神算鬼謀〟も、この考えを無理やり〝策〟と解釈して見た時……間違いではない、と結論を出している。まあ私の主観が多分に混じっているかもだけど、ここは一つ〝技能〟を信じよう。
私はゆっくりと屈みこみ、地面を軽く掘るようにして、土を手の平に乗せた。この触感、草木の香り、生きる人々――ゲームの世界だなんて全く思えない。
「シリーズも10作なんて長く続いちゃえば、一つの世界が生まれちゃっても、おかしくないのかしら……なんてね」
ぽつり、私が呟くと――サイちゃんが震えた声を漏らす。
「そ、そんな、この世界が、甄お姉さまも知らない世界だなんて……じゃあこれから、何が起こるのか……わ、わからないって――?」
「っ。……ッ、ッ……」
「! し、甄お姉さまも、震えて……で、ですよね、こんなの怖い――」
「…………最ッ、高ッ…………!!」
「はへ?」
ぽかん、と呆気に取られるサイちゃん、だけどゴメン――これは、この気持ちだけは、私自身にも止められない――!
「大好きなシリーズが……10作も続いたとはいえ、終わっちゃったと思っていたのが……また、続けられるなんてっ……しかも、強火ファンの、オタの……私も知らない完全新作の世界で、しかもその中で生きていけるなんてっ……!」
「……あ、あのお、甄お姉さま……?」
「こんな最高なことって――きっと、嗚呼、他にないわ――!」
「…………」
きっと今、満面の笑みで、両手を広げて叫んだ――そんな私に、サイちゃんはこう言った。
「……甄お姉さまって、すんげぇ変な人ですねっ!!」
「さっささサイちゃんに言われたくないわ! 私は〝ロード・オブ・三国志〟好きなだけだし! ちょっと強火なファンってだけだし!」
「命がかかってんですよう、そこんトコもうちょい深刻に捉えましょうよ! わたしに言われるとか相当だぞ! わたしが言うのも何ですけど!」
「確かにサイちゃんに言われるのは、我ながらヤベーって思うけど……仕方ないじゃない、大好きなんだから!」
オタとは、傾倒したものに、推しに、命を賭けるが当然なんだから――
(※あくまで個々人の思想・信念につき、用法・用量は慎重にご考慮ください)
……さて。
サイちゃんとヤンヤヤンヤと騒ぎ終え、ふう、と息を吐いて呼吸と思考を整える。
この世界が私の知らない〝全シリーズを包括したクロス世界〟だとしよう。
ならばやはり、今までの戦い――特に〝赤壁の戦い〟は、本当にどうなるか分からなかった。あの戦いで曹操勢力が滅ぼされても、おかしくなかっただろう。
……私は、応えられたのだろうか。
最推しと永遠の別れをすることとなった、あの夜。
〝神算鬼謀〟の軍師と交わした、あの誓いに――
大きな樹の下、生まれ育った日本とは違う、中華の都を遠くに眺めていると。
びゅう、と強い風が吹いた――その瞬間。
『――――嘉那慧殿――――ありがとう――――』
「!!!!!」
今、確かに。
確かに――――
「…………ッ!!」
「し、甄お姉さま? どうしたんです? だ、大丈夫ですか?」
「今……今、聞こえた……聞こえた、のっ……郭嘉様が……郭嘉様がっ……!」
目から溢れる熱さを堪えられず、うずくまった私を、サイちゃんが心配してくれる。
私は、ただ――大粒の泪を零しながら、言った。
「ずっと貴女を想い続ける……甄嘉殿、愛している、って……!!」
『言っていません……』
「ああっ!! 今、今も確かに……天上で甄嘉殿への想いを囁き続ける、この愛こそは永遠、天帝にすら引き裂けまい……と……!!」
『言ってないです……』
「幻聴では?」
サイちゃんは何か失礼なこと言ってくれるけど、でもだって、聞こえたもんっ……確かに私が〝甄嘉〟って名乗ることにしたの、知らないはずなのにオカシイな~、って思うけど……でもでもずっと見ていてくれたとか、そういうさ!(ね!)
まあ、とにかく。
私が最推し神軍師・郭嘉様の代わりになれた……なんて、烏滸がましくて思えない。けれど、それでも、だ。
〝もし郭嘉が生きていれば、赤壁の戦いで敗北することはなかっただろう〟
そんな言葉を、ほんの少しくらいは、現実に出来たのかもしれない。
そして今、丘陵に佇んでいる、私へ向けて――
『――お~い、甄嘉~~~!!』
青みがかった黒髪を持つ、美貌の御主君が――手を振りながら、駆け寄ってきた。




