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ロード・オブ・三国志X ~ 乙女ゲーム転生! 推し軍師・郭嘉の神技能を継承し、曹操を主君として、乙女軍師として征く三国覇道 ~  作者: 初美陽一
幕間 決戦への出立前に

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第34話 残る者と、旅立つ者と

「――お姉さまぁぁぁぁ! 行かないでください甄お姉さまァァァァァ!!」


 のっけから、えらい勢いで縋りついて泣きじゃくってくれるのは、私と同じ〝転生者〟である蔡琰さいえん――通称サイちゃん。いきなり私の部屋に飛び込んできたかと思いきや、先ほどから数時間ほど、ずっとこの有様だ。


 転生前は歌手だっただけあって、堂に入った声量と喉の強さである。私、聞いているだけなのに、いよいよ耳が限界なんですけど……。


「お、落ち着いて、サイちゃん……そこまで離れるのを惜しんでくれるのは嬉しいんだけど。でも私もね、自分の役割くらい、もう理解しているの」


「で、でも甄お姉さまが今から行くのって、なんかすっごく大きな戦いなんでしょ……? もし死んじゃったりしたら、わたし……悲しくて……ふぇ~ん……」


「! サイちゃん……私のこと、心配してくれているの? ……ふふっ、そう、ありがと――」


「あとわたしの今後の身の振り方とか、この世界のことなんて分からないのにどうすればいいのかとか……先行きが不安でぇ……びっ、びええええん!!」


「非常に正直な告白、どうもありがとう痛み入るわ。泣き声の音量でどっちの方を重要視しているのかまで分かるなんて、親切ね」


「ぐすん……いえいえ、それほどでもっ♪」


 かなり正直なサイちゃんの姿勢には、今や清々しさすら感じているので、私はいいんだけど。……まあでも最悪の場合は彼女の言う通り、遺していく可能性もあることを考慮して……私は(無駄かもと思いつつ)言い聞かすように話をした。


「サイちゃん、私ね……この世界へ来たのはサイちゃんと同じように、事故同然だったと思う。それでも、ここで推しに……えーとつまり信奉する人に出会って、その人から遺志を託されて……私は私の意志で、たとえ命を賭けてでも、それを叶えたいと思った。平和な現代日本人の、たかが元・OLが、何を偉そうなこと……って、笑われちゃうかもしれないけどね」


「!! ……し、甄お姉さま……」


「ふふっ……願わくは、サイちゃんもこの世界で……何か生き甲斐みたいなもの、見つけてくれると嬉しいな。それこそ、また歌ったり、蔡琰として詩歌に興じてみたり……ゲーム以上に、この世界の可能性は、無限大だと思うから――」


「………………」


 サイちゃんは、自身の胸の前で両手を合わせ、暫し俯き――顔を上げて、真っ直ぐな眼で私を見つめながら言った。


「……ごめんなさい、半分くらい何言ってるのか、良く分からなかったんで……とにかく戦いになんて行かず、この辺のお城でオイシイものでも食べながらのんびり暮らしましょうよ~!」


「おーし! そんじゃ私、ちゃっちゃと出発の準備を進めるわ! 今生の別れになるかもしれないけど、そーなったら強く生きていきなさいね! グッバイ、サイちゃん!!」


「な、ナゼ!?」


 ナゼもクソも。

 この期に及んで、まあまあ図太いというか尖っているサイちゃんが、心配にもなるけれど――その時だ。


「――甄嘉殿」

「! え……程昱ていいく殿?」


 まさか程昱殿まで訪ねてきてくれるとは思わず、対サイちゃんモードを解除した私は、外向きの顔に慌てて整え直した。


 しかし一体、何の用だろう。首を傾げる私に、程昱殿は相変わらずのナイスミドルな落ち着いた雰囲気で、歩み寄ってきた。

 そして、手に持っていた――コップを差し出してくる。


「こちら、出陣する甄嘉殿のご無事を祈り……果実酒を作りました。今回は果実を主としておりますので、以前より更に飲みやすいかと……」


「ンッ、ンン――ッ!!」


「甄嘉殿?」


 だから何で程昱殿、カクテル作って持ってくるのよ! ゲーム内でもそんなイベント、()()()()()無かったじゃない! まあちょっとは()()()のが逆におかしいんだけども! それでも事件は、ゲーム画面からは見えないとこで起こってたの!?


 思わず吹き出しそうになったのを堪え、若干ウケ狙いを感じる程昱殿の果実酒を、ありがたく頂戴することにした。


「す、すみません程昱殿、何でもないです……い、いただきますねっ。こく、こく……あ、やっぱりおいし……」


「! そうですか……それは良かったです」(好感度↑)


「は、はい、ホントに……あっ! そうだ、程昱殿……サイちゃん、いえ蔡琰殿のことなのですが、色々と不安なので、私に万一のことがあった時は……彼女の後見など、お願いしても――」


「あっはい。そうですね。まあ気が向きましたら」


「程昱殿、なんか対応、しょっぱくないです?」


「そんなことはございませんぞ。酒をがぶ飲みした挙句に泥酔して、しとどに吐き濡れたりでもしない限り、自分はお客さま(?)に対してぞんざいな扱いは致しませんゆえ」


「サイちゃん、ねえサイちゃん? 酔っ払った上に、吐いちゃったの? まさか程昱殿のお部屋で?」


「いや~わたし、記憶に無いんですよね~。めっちゃ飲ませてもらったのは覚えてるんですけど、十杯目くらいから()()()()()()て……あっでも一回〝張飛チョーヒか!〟ってツッコまれた気がします! チョーヒってなんでしょ、すごい必殺技?」


 この子、乱世がどうの以前に、またお酒で死んじゃうのではなかろうか。転生前もお酒が原因かは、確定じゃないけど……。

 何だか不安になりつつ――念のため、そう、前もって準備を進めていたことに関して、程昱殿に確認する。


「あの、それで程昱殿……前にお願いしていた、あの品物について……開発は、如何でしょう。間に合いそうですか?」


「! ふむ……確か期限は、曹操軍の大船団が長江を()()()()までの間、()()()()()()……とのことでしたな。何せ通常の兵器とは勝手が違うもの、間に合うかは五分五分、というところです。時間の制限が確定せず曖昧なのも、不安要素でして」


「なるほど……いえ、充分ですっ。今回の戦に間に合わずとも、出来上がれば後々にも役に立つはずですので……特に、蔡琰殿にとっては。あの、ホント、出来ればでいいので……蔡琰殿のこと、よろしくお願い致しますね……?」


「もう絶対、飲ませ過ぎんようにします」


「ご賢明かと!」


「え~っ大丈夫ですよ~! もう失敗しませんってば! 何しちゃったのか覚えてないですけど」


 かつてこれほどまでに信用ならない「大丈夫です」を聞いたことがあっただろうか。そんな発言主に頼むのは大いに不安だけど、それでも私は彼女に告げる。


「サイちゃん。ええと、何て言えばいいかな……これから私が行くのって、かなり困難な戦いなの。私も出来る限り、全力で頑張るけど、それでも足りない時……サイちゃん、貴女が切り札になるかもしれない。だから、私を心配してくれるなら……助けにきてくれれば、嬉しいな。無理にとは言わないけど、ね」


「……甄お姉さま、大丈夫です。わたしだって、今の甄お姉さまの様子で……なんか大ごとなんだな、ってわかります。だから……だから、わたし!」


「ううん、ホントに……無理はしなくて、いいから」


 こればかりは、ウソでも何でもない。これから起こる運命の大戦は、本当に困難で、命にかかわる戦いだ。同じ〝転生者〟仲間で、元は平和な現代日本人であるサイちゃんを、そんな危険に曝したい訳じゃない。

 サイちゃんも程昱殿も、いわば留守居るすい組。戦に赴くわけじゃないんだから、無用な危険を冒す必要は、そもそも無いはずなのだ。


 だけど――嗚呼、だけどサイちゃんは、事の重大さを(ようやく)理解してくれたのか――頼りになる表情で、堂々と宣言してくれた――!



「――――行けたら行きます!!」


(ダメっぽいな……いやでも、逆にワンチャンあるか……!?)



 まあとにかく、頼りにはならなそうだけど……サイちゃんだから、仕方ないや!


Q.「行けたら行く」で本当に来るパターン、皆様、覚えあります?

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