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101/102

101 始まり

 最初の人生は最悪だった。

 怪物が突然あらわれ、それらを避けながら必死に生きていた。

 手に入れた超能力のおかげで生き残る事は出来た。

 だが、それは決して華々しいものではなかった。



「…………こっちか」

 空間と時間に関わる能力のおかげで、敵がどこに出るかは分かる。

 それがどこから来てどこへと行くのかも。

 だから逃げ回る事が出来る。

 襲ってくる敵を避ける事が出来る。

 戦うなんてとても出来るものではない。



 それでも使い続ける事で能力は上昇していく。

 かつては周辺10メートルくらいの状況しか把握出来なかった。

 それが今では100メートルになるかならないかくらいまでは拡大している。

 時間もかつては数秒ほどの過去や未来が見えただけ。

 それが今は数分くらいまでには拡大している。



 たったこれだけではある。

 だが、これだけでも生存確率を上げることは出来る。

 おかげで小型の怪物を倒すことは出来るようになった。

 隙を狙って不意打ちをすればどうにかなる。

 これがレベル上げや日々の糧を得る事が出来る。



 ただ、それで生き延びてどうするのか?

 状況を考えると、生きてる事の意味があるのか悩ましくなる。

 なにせ人類はほぼ衰退。

 僅かな人間が身を寄せ合って生きてるが、数はとてつもなく少ない。

 大きくても数千人程度の集落をまばらに残してるだけ。

 それもレベル50やレベル60といった高レベルの人間がいるからどうにかなってる。

 怪物をどうにか撃退して生き残るのが限界だ。



 こうなってから数十年が経っている。

 なぜこうなったのかなど分からない。

 ただ、ある日突然怪物があらわれた。

 人々も超能力に目覚めた。

 それからは怪物に襲われる日々が始まった。



 こうなった原因は誰にも分からない。

 調べようにもそんな余裕はない。

 今を生きるだけで全ての労力を費やすのだから。



 そんな世界になってしまった。

 そんな世界でどうにか生き残ることが出来ている。

 だが、それで思うのだ。

 意味があるのかと。



 生き残るだけで精一杯である。

 他に何も出来ない。

 怪物に見つからないように動き、怪物を倒して糧を得る。

 この繰り返し。

 ただ生きている、生き残ってるだけだ。

 楽しみなどありはしない。



 強いていうなら、生きていたい、死にたくないという思いがあるだけ。

 この思いをかなえ、満たすだけが喜びである。

 死んでない、生きてるという実感は何物にも代えがたい。

 しかし、娯楽を楽しむ余裕などあるわけがない。



「あの頃はまだ良かったな……」

 振り返るのは幼少のころ。

 小学校低学年までの日々。

 ろくでもない環境だったが、今のように死ぬ危険に遭遇する事はなかった。

 漫画やアニメもあった。

 ゲームもあった。

 これらに触れる機会はほとんどなかったが。

 それでも、振り返ればこの頃が良かったと思う。

 今と比べれば。



 その頃も決して良い日々だったわけではない。

 ただ命の危険がない、この一点でだけ今より勝っていた。

 最悪の範囲の中で、いくらかマシというだけである。



 今は生き残るだけでも全力を使う。

 怪物から隠れ、怪物を襲い、わずかな糧を得る。

 霊気結晶から得られるエネルギーで生命を保ち、食事を制限する。

 まともな農耕ができない、出来ても収穫量が少ない状況だ。

 食料を手に入れる事は難しい。

 怪物を倒してどうにかして霊気結晶を得るしかない。



 そんな日々をどうにか過ごし、ながら超能力を使っていく。

 経験値を稼ぐためだ。

 使い続ければ能力は上がる。

 たいした事も出来ない力ではある。

 ほんの少し遠くの様子を見聞きするだけ。

 ほんの僅かな過去や未来を見るだけ。



 それでもこの超能力のおかげで生き残る事が出来た。

 この超能力しか使えない。

 だからソウマはこの力を磨き続けた。

【時空】という使い勝手の悪い、弱小といってよい能力を。



 そんな能力への評価が逆転する事が起こった。

 いつもは周囲を見るために使っていた能力。

 場所にしろ、時間にしろ、自分以外を見るために使っていた。

 周りだけを気にしていた。

 この状況の前後の様子だけを考えていた。



 だが、自分自身はどうなのか?

 この能力を自分に使ったらどうなるのか?

 そう思って己を見てみた。

 これで特に何が起こるとは思ってはいなかった。

 ちょっとした思いつきだった。



 その思いつきの効果はすさまじかった。

 これまで数分程度の過去や未来しか見ることが出来なかった。

 だが、己に限定した場合、これが数年にまで拡大した。

 その時の自分の様子を見ることが出来た。



 どうやら、己に使う方が効果が高いらしい。

 この事にソウマは初めて気づいた。



 なにより大きいのは、過去の自分に情報を送る事が出来た。

 今まで自分が歩いてきた道を。

 何をすればどうなるかを。

 この記憶を全て過去の自分に送る事が出来た。



 劇的な変化が起こった。

 事前に何が起こるか分かっている。

 だから最適な行動がとれる。

 少しだけ楽に生き残る事が出来る。

 少しだけ楽に生活する事が出来る。

 少しだけ楽に怪物を倒す事が出来る。



 数年分の蓄積をそのまま過去の自分に渡せる。

 これは大きな進展になった。



 気がつけばソウマの状況は変わっていた。

 数年分の記憶を渡し、過去のソウマが行動を変えた。

 考え方を変えた。

 最適を探して行動していった。

 その結果が今のソウマに反映されている。



 更にこの数年の蓄積を過去の自分に提供した。

 今度は6年ほど昔の自分に情報を提供できた。

 5年前のソウマが頑張った事で、現在のソウマのレベルが上がっていたからだ。

 その分だけ、さかのぼれる時間が増えていた。



 これを繰り返してソウマはどんどん強くなっていった。

 過去に経験を渡す度に現在の自分が強くなる。

 その度に更に過去の自分に情報を渡していける。

 現在のソウマのレベルは次々に上昇していった。



 そうするうちにまたひらめいた。

「過去の俺が更に過去の俺に記憶を渡したら……」

 気づけばソウマは10年ほど過去まで自分の記憶を渡せるようになった。

 ここが今のところの限界だ。

 しかし、10年前の自分が更に過去の自分に記憶を渡したら?

「やってみるか」



 効果は劇的だった。

 10年前の自分は更に10年前の自分に。

 合わせて20年前の自分は更に10年前に。

 こうしてソウマは己の記憶を次々に過去の自分に渡していった。

 その度に現代のソウマのレベルが跳ね上がった。



 そして最後に幼い頃の自分に記憶を渡す事が出来た。

 まだ幼少のソウマは、その記憶を実体験として受けとった。

「……なるほど」

 年齢にそぐわない大人びた口調でため息を漏らす。

「こりゃあ、がんばらないと」

 そして考えていく。

 これから起こるか事に備えるために。

 その為に今できる事は何かと。



 渡澄わたすみソウマ、4歳。

 時間を超えての活動が始まった。

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