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【連載版】無能令嬢と呼ばれ婚約破棄された侯爵令嬢。前世は『伝説の大魔女』でした。覚醒後、冷遇してきた魔法学園にざまぁして、国を救う。  作者: シルク


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 翌日。

 私は<赤色荒野の断崖(レッドクリフ)>の上空を飛び、最後のエリアを魔法で爆撃。

 地上掃討部隊が該当区域の魔物の消滅を確認。

 

 <赤色荒野の断崖(レッドクリフ)>の魔物は全て掃討。

 

 こうして私の役目は終わった。


 飛行魔法でギマラン領の砦に戻る。

 砦に戻ると、砦の魔法使い、兵士、そして平野側の町の人達が大歓声で私を迎えてくれた。


「リンジー様万歳!死の大地に平和をもたらしてくれた女神だ!」

「リンジー様は、半島を救ったあの『伝説の大魔女』エララのようだ。ありがとう!ありがとう!」


 笑顔と歓声が私を包む。

 学院の生徒たちが媚びてきた時に見せた笑顔とは違う、心からの笑顔。

 これまで魔物の恐怖に怯えながら暮らしていたギマラン領領民の、本物の笑顔だ。

 私は歓声に囲まれ、無自覚のうちに笑みを浮かべていた。


「笑顔も美しいな、リンジー」


 肩を叩かれ、振り返るとジョアキンが立っていた。

 戻ってきた地上掃討部隊。

 仮面の女騎士ビッキーも私に駆け寄ってきて、嬉しそうに私の手を取り、跪いて手の甲にキス。


「我が剣の主、リンジーお姉様。お疲れ様です。あなたは英雄です」


 そんなこと言われると照れちゃう……というか、正体を隠しているとはいえビッキーはこの国のお姫様、ビクトリアなんだけれど?

 お姫様に跪いて手の甲にキスなんてさせていいの!?って思っちゃうな。

 私が照れていると、ビッキーはそんなことお構いなしに私をぎゅっと抱きしめた。


「最強の魔女、私のお姉様❤お慕いしております」

 

 ちょっとちょっと!うるうるした瞳でこっち見ないで!

 

「リンジー。見ろ。

 お前が救った民だ。

 お前が俺の領地を救ってくれた。

 ありがとう――お前は偉大なる魔法使いだ」

 

 ビッキーに抱きつかれたじたじしている私に、ジョアキンが言った。

 

 砦に集まった人々の笑顔。

 魔物に怯えて暮らさないですむと……心から感謝してくれている笑顔と称賛。

 私がこれを成し遂げたのか……。


 ――『無能令嬢』と呼ばれていた私が。


 私はじわっと涙が浮かびかけたけど、それを振り払った。

 

「お褒め頂き恐縮です。

 さて、ここでの用事も終わったことだし、私は王都に戻るわ」

「なに?そんなに急いでか。

 俺と勝利の盃を交わしてはくれぬのか」

「次の機会に」

「ならば、それは約束だぞ。

 また会いに来てくれ……俺は。

 ずっと砦で独り身だった俺にとって、全てを変えてくれたお前は……」

「いかなきゃ。それでは。このまま飛んで帰ります」


「お姉様!?」


 ビッキーが驚いている間に。

 私はジョアキンの言葉を遮り、風の魔法を起こす。

 

 私は空に舞い上がった。


「ビッキー!王都までは自力で戻れる?」


「は、はい、馬車を手配しますわ……でも、お姉様、連れて行ってくれないんですの?」

「空は一人で飛ぶことにしているのよ!」

 

 私は砦の上空を離れ、一度高く舞い上がる。

 足元に広がる赤い大地。

 この10日弱、向き合った血を吸う不毛の大地。

 

 私は一度ぐるっと<赤色荒野の断崖(レッドクリフ)>の上を旋回すると、そのまま王都へと飛んだ。

 

 美しい赤い大地。

 死の大地と呼ばれた<赤色荒野の断崖(レッドクリフ)>。

 さようなら。

 私は荒野より、海が好きなの。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ギマラン領から半日で王都へ帰還。

 私は自宅でお風呂に入って髪の毛に入り込んだ赤い砂を洗い流し、身だしなみを整えると、すぐに王宮に向かった。


 謁見の間でレジュッシュ国王陛下の前に跪く。


「リンジー・ハリンソン。

 <赤色荒野の断崖(レッドクリフ)>魔物を全て殲滅した、か。

 しかもギマラン領からたった数時間で飛んで王都に戻るとは。

 さすがだ……『ゼロ級』の魔法使いというのは……もはや、人智の及ぶ存在ではないのかも知れぬな」


 レジュッシュ王国国王陛下は嘆息し、俯いて呆れたように首を振った。


「これでサンドル国との冷戦も終わる。

 <赤色荒野の断崖(レッドクリフ)>とサンタ・ヴェレ諸島の領有権争いは終結することだろう。

 冷戦は終わりだ。国には数十年ぶりの平和が訪れる。

 リンジー・ハリンソン。

 国家元首としてお前に礼を言おう。

 よくやった。ありがとう」


 王宮の謁見の間には、元婚約者のアンドルー王子、私の両親と兄のイグニスも揃っていた。

 他のレジュッシュ貴族達も集まっている。

 まだ地上を移動中して王都に帰還中であろうビッキー……もとい、ビクトリア姫は不在。


「すごいわリンジー!よくやりましたよ!」

「さすが我がハリンソン家の娘だ!」

「わが妹、誇らしいぞ。兄である俺も、王宮で鼻が高いな」

 

 両親と兄がなにやら騒いでいる。

 私の手柄を、なんだと思っているんだろう。

 まさか、ハリンソン家の手柄だとでも?


「リンジー!

 君をもう一度取り戻したい。

 君は優れた魔法使いだ。A級魔法使いの僕と子をなせば、素晴らしい魔法使いが生まれるぞ!」


 未だにアンドルーがなにやら寝言を言っているけれど、無視。


「国王陛下。

 <赤色荒野の断崖(レッドクリフ)>の問題を解決しました。

 約束通り、私の願いを聞き届けて下さいますか」


「いいだろう。

 サンタ・ヴェレ諸島の小島を一つ所有したい、とのことだったな。

 お前がギマラン領に出向いている間に、サンタ・ヴェレ諸島領主と話をつけておいた。

 真珠クアルソ海岸から見える小島を一つ、お前にやろう。

 名も無い島だが、あそこはお前だけの島。自由に使うと良い」


「ありがたき幸せ」

 

「そしてあと二つ。

 リンジー・ハリンソン。

 お前に宝名を賜る。

 これからは『虚空(こくう)の大魔女』を名乗るが良い。

 そして、ハリンソン侯爵家から籍を抜く願いも叶えよう。

 これからは、お前はただのリンジー。『虚空の大魔女』リンジーだ」


「なんですって!?」


 お母様が悲鳴のような声を上げた。


「ハリンソン侯爵家から籍を抜くだと……!?」


 お父様が震え声で続ける。どういうことだ、なんなんだと、兄も騒然とし始めた。


「ハリンソン侯爵家の者よ、静かにせよ!」


 そこを、国王陛下が一喝。


「これまで、稀有な能力を持つリンジーを散々家庭内で冷遇してきたそうだな。

 人それぞれ才能の開花には時間差というものがある。

 それを理解せず、リンジーを詰り、まるで動物のような扱いをしてきたというではないか。

 見損なったぞ、ハリンソン侯爵。

 そして、その息子よ。

 お前も妹をかばうことなく、両親に味方していたそうだな」


 兄イグニスがぐっと言葉に詰まった。


「弱き存在をかばうことなくいじめ抜く者は王宮にはいらぬ。

 本日を(もっ)て、ハリンソン家から侯爵位は剥奪するものとする。

 王都のタウンハウスも没収だ。

 これからは、一平民として自分たちの力で暮らすがいい。

 なに、ハリンソン家が再びその魔法の才能で国に貢献すれば、また爵位が与えられる日もくるであろう。

 これからは家名に甘えず、実力で生きてみせよ」


 両親と兄は国王陛下の言葉に目を見開き、顔色が真っ青になっていき……。

 事態を飲み込んだ後は、獣のように何か叫んでいた。

 そして、集まった兵士達に囲まれ、捕らわれ、謁見の間を強引に退室させられていった。

 リンジー、なんとか言え、家族だろう!とかなんとか、色々なわめき声が聴こえてくるけど、私の心は少しも動かなかった。

 

 ざわめく謁見の間の貴族たち。

 最高位の侯爵家の没落を目の当たりにしたのだ。当然だろう。

 私は侯爵家から籍を抜きたいと頼んだだけで、父の侯爵位を剥奪しろとまでは頼んではいませんよ?

 でも、これも当然の結果なんじゃないだろうか。

 あの人達は同じ家に住んでいただけ。私にはもはや、家族ではなかった。


「父上、やり過ぎでは……?

 僕のリンジーをいじめていたとしても、ハリンソン一家の侯爵位の剥奪はさすがに……」


 アンドルー王子、まだ「僕のリンジー」なんて言っている。

 はあ。

 ほんと呆れるな。


「アンドルー。

 お前もまだ勘違いしているようだな。

 兵士達。アンドルーを塔の最上階に連れて行け。しばらく謹慎処分だ」


「なんだって!?お父様、どういうことだよ!」


「お前は国王である私に無断でリンジーとの婚約を解消し、しかもそれを学院の食堂、公衆の面前にて独断で行ったと言うではないか。

 しかもその後、新たに男爵家の令嬢と婚約宣言までしたそうだな。

 そしてすぐその令嬢を一方的に突き放し、今度はまたリンジーに言い寄っている。

 全て私に許可を取っておらぬな。

 お前には王子としての自覚がない。

 お前の行動の全てが、王家の者としてだけでなく、人間として恥ずべき行動であると、理解していないのか?」


「お、お父様、だってそれは……リンジーが悪いんだ!

 リンジーが『無能令嬢』だったからで……」


「くどい!

 もうよい、お前を甘やかし過ぎたのは私の責任でもある。連れて行け……」


 国王陛下は頭を抱え、側近に手のひらで合図。

 両脇を抱えられたアンドルー王子は、捕まった動物のように引きずられて謁見の間から退室。

 隣で黙っていたビクトリアも止める気配がない。

 貴族たちのざわめきは最高潮に達した。


「良いのですか、国王陛下……。

 まだリンジー・ハリンソ……いえ、『虚空の大魔女』リンジーがこれからどう動き、国家にどう影響を与えるかわかってはおらぬのですぞ!」


 並ぶ貴族の一人が叫ぶ。


「なるほど、それもそうだ。リンジー。お前はどうしたい」


 私がどうしたいか……。

 私はどう生きたいか……。


「私は、ただ平和に暮らしたいです。

 サンタ・ヴェレ諸島の頂いた小島で、一人で静かに暮らします。

 もし、また国家に緊急事態が訪れて、私の力が必要になったら、あの島に遣いをよこして下さい。

 私は、このレジュッシュ王国、ひいてはアラス大陸の平和のためなら、いつでも力をお貸しします」


 どよどよどよ……。

 謁見の間はどよめき……そして、誰かが拍手を始め、やがて居並ぶ貴族諸侯達全ての拍手がホール中に響いた。


「『虚空の大魔女』万歳!」

「『虚空の大魔女』リンジー、万歳!」

「魔法王国レジュッシュ王国に祝福あらんことを!」

 

 歓声と拍手はいつまでも続いた。


 国王陛下は玉座を降り、両手で私の手を握った。

 その手は暖かかった。


「これまでの息子の非礼を許してやってほしい。

 そして、息子の婚約者のお前の境遇に気付かなかった、愚かな私のことも……」


「国王陛下。

 私はもう怒っていません。ただもう、平和に暮らしたいなと……」


(続く)

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― 新着の感想 ―
[良い点]  可哀想で惨めな少女は、偉大な英雄で救国の魔女となり平和と周りからの評価が変わり、素晴らしい話の終わり方でした。 [気になる点]  リンジーを救った謎の男はもしや前世の弟子?。  これから…
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