11
かくして、私はレジュッシュ王国の東の地。
<赤色荒野の断崖>に隣接するギマラン領へと出向いた。
山岳に囲まれた草原地帯であるレジュッシュ王国、王都の東。
ギマラン公爵が治めるギマラン領。
ギマラン領は東に行くほど荒野になっていき、東の果てはサボテンしか生えぬ赤い岩と砂が続く大地。
赤い大地には深い亀裂がいくつも走り、いつしか<赤色荒野の断崖>と呼ばれるようになった――。
荒野を彷徨う魔物に殺された者の血を吸って赤くなったと言い伝えられている死の大地。
<赤色荒野の断崖>から平野側を守るべくして作られた砦、そして平野側と荒野を区切る城壁は延々と続き、その上は見張り台となっていた。
砦の西側、<赤色荒野の断崖>の反対の平野側には小さな町があった。
兵士の集会所が幾つも造られている。
その兵士達を相手に商売をする酒屋、食堂、屋台などの商店も並ぶ。
魔術師ギルドの出張所、そして、砦の兵士達の相手をするのであろう露出度の高いドレスをきた女性たちの姿も見える。
ギマラン領の砦に来たのは初めてだったけれど、こんなに賑わっていたとはね……。
砦を訪ねると、砦の主であるジョアキン・ギマラン公爵が迎えてくれた。
三十過ぎくらいだろうか。
赤銅色で刈り込まれた短い髪、日に焼けた肌。
筋骨隆々とした肉体に鎖帷子を装備し、腰には長剣とナイフを帯びている。
魔法王国では少数派の肉体派の武人と聞いてはいたが、いかにも強そうだ。
「お前が、ハリンソン侯爵家令嬢のリンジー・ハリンソンか。
アンドルー王子に婚約破棄されたんだって?
しかもその後『無能令嬢』から覚醒して、『虚級』の魔法使いへと変貌だって?
なんとも面白い経歴じゃないか」
彼はそう言って掠れた低い声で笑った。
私は表情を変えず、ただ一度頷いただけ。
何も言う事がなかったので黙っていた。
「無口なんだな。
まあいい、この俺のことはジョアキンと呼んでくれ。
断崖公と呼ぶものもいるが、それは通称だ。
俺はこの砦で生まれた。
物心ついてからずっと<赤色荒野の断崖>で育ってきた。
なんの資源もなく、亀裂から魔物を生み出し続ける死の大地だ。
親父が死んで公爵の地位を継いだが、実質は砦の長だ。
常に魔法使い、兵士と前線に出て荒野の魔物と戦っている。
リンジー、お前のような細身のお嬢さんがこの死の大地の魔物を一掃してくれるだって?
我が王の派遣してきた魔法使いとはいえ、期待していいものかどうか。まだ困惑しているよ」
「ご安心下さい。
<赤色荒野の断崖>の詳細な地図をいただけますか?
幾つかの区画に分けて、魔物を討伐していきます。
明日から現地に行くつもりです」
「おい、本当に大丈夫か?
<赤色荒野の断崖>には上級のモンスターがうようよいる。
命の保証はないんだぞ」
「ええ、普通の魔法使いなら危険だし、怯えるんでしょうね。
でも、私は大丈夫ですから。
あなたは己と部下の心配をしていて下さい」
私がそう言うと、面食らって言葉を失った後、ジョアキンは腹を抱えて笑いはじめた。
「面白いお嬢様だ。
いいだろう。そこまで言うなら、お手並み拝見といこうか」
「お待ちなさい!」
場違いな甲高い声が響いた。
振り返ると……そこには、金髪、ポニーテールのスラリとした女騎士が立っていた。
体にフィットした軽鎧。真っ白なミニスカートと黒いニーソックス。白い革のブーツ。そして……顔の上半分を隠す、細工が施された美しい仮面。腰に帯びた細剣。
「『お姉様』!私も護衛として同行させて頂きます!」
お、お姉様……?
私に妹はいない。
とはいえ、私を『お姉様』と呼ぶ者に心当たりはただ一人。
この謎の女騎士は、アンドルー王子の妹の、ビクトリア姫では……?
「お、おい。あんたは一体何者だ。おい、リンジー。お前の仲間か?」
困惑した様子のジョアキン。
「い、いえ。仲間というか……。
あ、あの、まさかあなたは、ビク……」
「私は!仮面の女騎士ビッキー!
魔法と剣の腕に覚えあり!リンジーお姉様の騎士として、今回の<赤色荒野の断崖>の魔物討伐に同行いたします!」
間違いない……!
正体を隠しているようだけれど、間違いない。
このレジュッシュ王国の姫君ビクトリアが何故こんな所に!?
私は慌てて彼女の腕をとり、部屋の隅っこに引っ張っていく。
ジョアキンと彼女を連れてきたらしき部下の兵士達は、彼女の登場の唐突さに呆然としている。
私も驚いて状況を眺めていたいところだけど、そうもいかないらしい。
「ビクトリア姫!何故こんな所に……?一体どういうことなんですか?」
「お姉様のことが心配だったんです!
お父様には内緒で、お忍びでギマラン領まで参りましたの!
だって、もし私がこの国の姫だとバレたら、<赤色荒野の断崖>には行かせてもらえませんもの。
私は今、仮面の女騎士ビッキー。
ビクトリア姫とは、別人として扱ってくださいませ。
なにがなんでも!私はお姉様をお守りするために同行させて貰いますわ!」
「はあぁ?危険過ぎます。無茶を言わずにお帰り下さい!
怪我をする前に……」
私の言葉に、ぐいっと身を乗り出してくる『仮面の女騎士ビッキー』。
「お姉様、私の腕を見ましたよね。
私が<赤色荒野の断崖>の魔物に負けるとお思いで?」
そ、それは……。
彼女なら中級、上級の魔物とでも戦えそうだけれど……。
一国の姫君が危険地帯に騎士として赴くなど普通はありえない。
でも、彼女の決意は固そうだ。
私は仮面の奥で光る青い彼女の瞳に気をされ、諦めのため息を吐いた。
「……わかりました。ビッキー。
では、私の考えている作戦をお伝えします。その通りに動いてくれますか?」
「お姉様のご命令なら!帰れ、以外なら何でも拝命いたします。
私はお姉様の剣となります!」
離れたところでポカンとしていたジョアキンが恐る恐る尋ねてくる。
「話はついたのか?そのお嬢様は一体……」
「か、彼女は私の仲間です。彼女も今回の掃討作戦に参加します。
ですが、地上部隊としてです。
……私の作戦を伝えます」
(続く)
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