四十八頁目
お待たせしました、最新話をお届けします。
ここから集中連載で、平日は毎日更新しますのでよろしくお願いします。
★前回までのあらすじ★
MP切れの麗筆のため、魔力を回復するマナの木を探しに来たDとバンたち。でも、行く先に怪しい集団を見つけてしまって、斥候のティナが見に行くことに。そこにいたのは……。
間一髪、ティナはユーリの矢から逃れていた。あと少しだけでも反応が遅ければ、落ちていった斜めがけの肩掛け鞄と同じことになっていたに違いない。
(あっ、危な〜〜〜!? なんにゃアイツぅ! 怖っ!)
ティナはユーリへの評価を改めた。彼はただ守られているだけの気障ったらしい王子様なんかではなく、かなりの腕前を持った戦士だ。そして、人間かもしれないと思ったものを躊躇いなく射ることのできる覚悟もある。
(気づかれなくて良かったにゃ。ここは完全に気配がなくなるまで“待ち”にゃ。でも、バンたち……ちゃんと待っててくれるかにゃ……?)
探索者としての経歴は浅くとも、狩人としてはベテランのティナは、こんな場合に焦って動いてはいけないことをよく知っていた。じっと息を殺して、身動きせず鼓動を鎮めて、相手が完全に去るまで決して油断してはいけない。
ティナの一番の懸念は、帰りが遅いと心配したバンたちが彼女を探しにやってきて、ユーリたちに気づかれてしまうことだった。
(エーメに任しとけば心配ないと思うんにゃけどにゃ……)
◇◆◇
「遅い!」
偵察に行ったきり帰ってこないティナに、バンは痺れを切らして叫んでいた。
「探しに行こう、ティナが心配だ」
「……ダメ。今行ったら、逆に邪魔になるかもしれない。危険な目にあわせたくない。バン、我慢して」
「けど……!」
「ティナを、信じて。絶対、大丈夫だから」
「わかったよ、エーメ」
だが、結局ティナが帰ってきたのは、バンが二度目の説得をしている最中だった。表情には出していなかったがエーメもかなり心配しており、ティナの姿を目に留めた瞬間、駆け出して抱きついていた。
「にゃにゃっ!? 遅くにゃってごめんにゃ。心配かけちゃったかにゃ?」
「……ううん。お帰り、ティナ」
「へへっ、ただいまにゃ!」
幸いにもティナのいる木は彼らの進行方向からは外れており、そのまま何事もなく、気づかれないままやり過ごすことができた。そして、戻ってきたティナの口からユーリについての疑惑が語られたのだった。
思わぬ情報にバンたちの表情が固くなる。ここで彼らの取れる選択肢は、「何も見なかったことにして帰る」か、「何も見なかったことにしてソーマの木を探すのを続ける」かの二択しかなかった。ユーリ殿下の奇行を嗅ぎ回るのだけはナシだ。
「Dちゃんには悪いけど、出直したほうが良いと思うな、俺は」
「えっ!? やだやだ〜!」
「そうは言ってもなぁ。殿下が何を考えてるかわからないし、危ないよ」
ダダをこねるDにバンはたじたじだ。そこへアイが加勢する。
「そうですよ。相手はいきなり撃ってくるような人なんですよ!」
「ん〜、でもにゃあ、このままじゃ儲けがゼロにゃ。むしろマイナスにゃよ」
「……別口で受けた薬草採取の依頼も、お預けになる」
「カネより命だろ? Dちゃん、一旦帰って、出直さないか? それとも、ユーリ殿下の行った方向を避けて探すかのどっちかだ」
撤退しようとしているバンとアイの判断は正しいし、報酬に拘るティナやエーメの考え方もまた正しい。
金は大事だが命はもっと大事だ。撤退するのか継続するのか、その問題に正しく答えを出さなければならない。報酬と成果の切り分けができなければ探索者稼業はやっていけない。
そして、それを勘で嗅ぎ分けられる者だけが大成する。その点においてDは彼らほどの覚悟も冷静な判断も、どちらも持ち合わせていなかった。
「わ、私はやっぱり……」
「げぇ〜っ、お前らもここにいたのかよ」
「ヴァイゼル!」
Dが振り向いた先には、山歩きの装備を整えたヴァイゼルの姿があった。彼もまた薬草を採取に来ていることを示すように籐のかごを提げている。バンが訝しむように問いかける。
「なんで君がここに?」
「薬草採りに来たんだよ、決まってんだろ。“庭”の連中の山狩りを避けてたらどうしたってこっち方面になるし」
「ああ……」
村を襲った連中を追い立てる山狩りは、隣国クロワ側へ展開される。それを邪魔せず邪魔されず薬草を採取するならば、こちら方面に進むしかない。だからこそバンたちも同じルート上にいたのだ。
「悪いことは言わない、この先には行かないほうがいい」
「あぁん? なんだよ、それ。俺の邪魔しようったってそうはいかないぜ?」
バンの忠告に疑わしそうな目を向けるヴァイゼル。そんな反応にエーメやティナは冷ややかだ。アイだけは憤って言葉を続ける。
「本当に危ないんですよ!」
「何がどう危ないんだよ?」
「それは……! ちょっと、言えないですけど……」
「へっ、やっぱ嘘なんじゃねぇか。つまんねぇ妨害しやがって」
むっとして黙り込むアイリスガル。Dもまた頬をぷくっと膨らませて怒りをあらわにした。
「死にたきゃ行きなさいよ。でも、アンタの持ってる魔力結晶だけは置いていって。それは麗筆のなんだから!」
「や〜だね! これは俺のだ、取れるもんなら取ってみろ!」
「ヴァイゼル!!」
バンたちの制止はDの耳に入っていなかった。ヴァイゼルの持つ魔力結晶さえあれば、わざわざソーマの木を探して面倒な手段で魔力を抽出する必要もない。
(あれは麗筆の魔力なの! ヴァイゼルのものなんかじゃないんだから! あれを創り出したから寝込んじゃったの、麗筆? もう、おバカおバカ!)
黒術を駆使して走るスピードを上げるD。だが、山道では向こうの利のほうが大きかった。何度かヴァイゼルを捕らえるために魔術で作り出した“手”を伸ばすも、すばしっこいコソ泥にかすりもしない。
「もうっ! 殺しちゃうわよ!?」
だんだんと威力を増していく“手”の攻撃が山土を抉る。怒りに任せて振り払ったその“手”が、とうとうヴァイゼルの足元の崖を崩した。
「やったぁ! ……あれっ?」
しかしその攻撃は、Dの足元までも掬い取ってしまっていた。
「うぁああああっ〜〜〜!」
「きゃあああああんんっ!」





