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四十七頁目

 王都カクタスから北へ、どんどん深くなっていく密林へ分け入っていく。山中は木々が生い茂っているだけでなく、荒々しい山肌を見せる崖や渓流、切り拓くのに適さない段差に満ち溢れている。生き生きと先導するのは、赤い三編みお下げを揺らすお元気娘、ティナだ。


 野伏せり(レンジャー)である彼女は、こういった地形での楽な移動方法や探索、野営の仕方をよく知っている。ティナは人生の半分を山で過ごしてきた。猫の獣人の血を引くティナたち父娘は、猟をして村を守り生計を立ててきた。食べられる草の見つけ方、獲物である小動物の痕跡の追い方、巣を作る場所、獲って良い個体の見分け方。それらすべてを彼女は父から学んだ。


 そのまま父の仕事を継いで、村で暮らすこともできたが、ティナはバンについて行くことに決めたのだった。彼女の父はそれを止めなかった。ただ、「頑張れ」と背中を押してくれた。夜逃げ同然に抜け出してきたエーメとは対照的だった。


 オルキダまでの旅路も、そこからスタートした探索者(シーカー)としての生活も、とても順調だった……そう、あの女王蜘蛛の変異種に出遭うまでは。あのとき、野営場所でゆったりした朝を迎えていたティナたちを襲った女王蜘蛛が初めて遭遇した大型モンスターだったのだ。


 立ちすくんでいたティナとエーメはまたたく間に糸でがんじがらめにされた。動けたのはバンだけ。徐々に苦しくなっていく呼吸と焦りの中、どうにかこうにか抜け出してエーメに療術をかけてもらったとき、近づいてくる気配があった。それがバンのものだとわかったとき、ティナたちは気が抜けて倒れてしまったのだ。


 後で女王蜘蛛との戦いの惨状を確認し、バンから何があったか聞いたとき、改めてティナとエーメは安堵に腰が抜けてしまった。バンが大きな怪我なく帰ってきたから大したことない相手だと思ってしまったが、なんてことはない、助けてくれDがただただ規格外だっただけだったのだ。


(Dちゃんはバンの命の恩人、Dちゃんのために、なんとしてもソーマの木を見つけるのにゃ!)


 ティナは燃えていた。

 魔物の気配を見つければ、後方のバンたちに手で合図し対処する。いつもはバンに任せているパーティ全体の進行も、ティナがリードして疲労を蓄積させないように休憩場所や時間を管理した。


「待つにゃ、前方に(にゃに)かいるにゃ」

「また魔物かな」

「……こっちが風下にゃ。匂いは違う気がするにゃ……見てくるにゃ!」

「気をつけろよ!」


 バンの呼びかけに手で応えて、ティナはひとり気配の方へ向かった。聞こえてくる音から相手は複数だとわかる。近づきすぎると危険かもしれないと判断したティナは、ひとまず高所からの偵察に切り替えて手頃な木に上った。


 野伏せりの目は商売道具である。ティナにとってもそれは同じで、彼女はとにかく目が良かった。加えて、一度見た人物を忘れないという特技があった。


「にゃ〜? にゃんでアイツこんにゃとこにいるにゃ」


 ティナが目に留めたのは、オルキダの“庭”にいた時の装備そのままに、弓を手に山道を進むユリウス殿下――ユーリだった。連れている男たちの鎧は実用一辺倒のやや粗野な物に変わっているため、正式な兵士ではなく私兵かもしれない。十二、三人おり、そのほとんどは荷物を運ぶために使われていた。


 なぜこんな何もない山の中に物資を運び込んでいるのか。ティナは不思議に思った。国境の村を襲ったクロワの山賊が潜んでいるのはこちら側ではないのだから、山狩りのためではないだろう。


 しかもユーリは護衛される対象ではなく、武器を持って警戒している側だ。そのことがさらにティナを困惑させた。


 気さくで人懐っこく、気軽に城下に現れては国民と触れ合うユーリ。現王太子のひとり息子であり、何もしなくたっていずれ王位は彼の物、黙って口を開けていれば飴玉が転がり込んでくる、やんごとない身分なのである。その彼が、例えばこの地を新たに開拓して己の好き勝手しようと企んだとして、それを止める者はおそらくほとんどいない。


 なぜなら、未開の土地はすべて王族の、もとい国王マティアスの物だから。ユーリより上の者が止めるなら別だが、わざわざ阻止するほどの物だろうか? ティナにはそうは思えなかった。活用できる土地が増えるなら良いではないか。土地を拓いてはいけない理由があったとして、同じ王族のユーリがどうしてそれを知らないのだろう。


(おかしいにゃ。こんな何もない所に物を運び込んでどうするにゃ。しかもユーリ殿下が兵士を護衛してるってわけわかんないにゃ! 正規の兵士じゃないにゃ? だからこんな、コソコソ……っ!?)


 考え事をしていたティナに向かって、風を切って矢が迫ってきていた。




 ユーリは矢を射った梢の方から、何かが落下して枝を騒がす音を聞いた。的中したようだ、と笑みをこぼす。


「殿下、何か?」

「いや。視線を感じたが気のせいだったみたいだ。小動物か鳥か……音が軽かったからな」

「見えないまま、当てたのですか……。さすがです、殿下」

「たまたまだよ。さて、行こうか」

「はっ」


 公私ともに側に控えるガイウスは短く応えてユーリに従った。

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Dちゃんが出演しているコラボです、こちらもどうぞよろしくお願いいたします!
この作品だけで独立して読めます。

『Trip quest to the fairytale world』
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