十七頁目
「ささ、どーぞどーぞ。服を脱いでここに座ってちょうだいな!」
その辺に散らばっている大木の破片がいい感じに椅子がわりになる。バンは元々寝巻き代わりにしていた革鎧を脱ぎ、上半身裸になると、おとなしくDにマッサージされることになった。Dは黒術で筋肉の腫れを鎮めながら小さな手で腕や肩を揉んでいく。
「それにしても、お仲間が二人とも女の子だなんて、バンってば。隅に置けないのね~」
「えっ、ちょっ、違う違う! ティナもエーメも幼馴染みなんだ。俺がオルキダに行くって聞いてついて来てしまった、っていうか……俺が子守りしてるっていうか……」
「ふぅん。それで、どっちの子が好きなの~?」
「なっ、だから、違うってば! からかわないでくれよ、Dちゃん!」
弁解しようと慌ててDを振り返るバン。その耳たぶが赤くなっているのを見逃すDではない。
「んっふっふ! エーメちゃんでしょ~? 真っ先に駆け寄ってたし、ふわんふわんの髪の毛で可愛かったもんね~! おっぱいもおっきかった! でも、ティナちゃんもボーイッシュだけどチャーミングだったよね? ん~、もったいないなぁ~!」
「だから~、もう! 二人ともそんなんじゃないって。エーメを最初に起こしたのは療術士だからだし、パーティを組んでるのは放っておけないからだ。勝手についてきて、二人だけじゃ危なっかしくてさ」
「なぁ~んだ!」
コイバナなるものを期待していたDは、バンの返答にフイッと顔を背けた。唇を尖らせて、全身から「つまんない」オーラを出している。そんなDを見て、バンは苦笑すると、真面目な顔になってうつむいた。
「でも、俺がついていたって、こんな事態になっちゃうしさ。まだまだ、力不足、経験不足でさ。……参ったな、正直、死んだと思った」
「バン……」
両手を組み合わせ、頻繁に指を組み替えながら語るバン。その肩が、声が、少し震えているのを誤魔化しきれてはいなかった。そして、何より本人がそれを分かっていた。
「Dちゃん、頼む、俺たちの仲間になってくれないか。
エーメは療術士だから、攻撃や防御の魔術は覚えていない。ティナは野伏りだから攻撃力は期待できないし……俺だけで二人を守りきれない。魔獣と戦うのがこんなに大変だなんて思ってもみなかった。甘かったよ。
出会ってすぐの君にこんなことを頼むなんて、どうかしてるかもしれない。けど、こうして出会ったのも縁だからさ。頼む、考えてみてくれないかい?」
「…………」
きょとんとするDが返事をしようと口を開いたとき、バンには聞こえない声が鋭い声で言った。
『いけませんよ、D。彼らを殺すつもりですか?』
(ちょっと麗筆……どういう意味? 私はバンたちを殺したりしない! いいじゃない、お友だちを作ったって。邪魔しないでよ!)
『貴女と一緒にいれば彼らに成長はありません。すべて貴女が片づけてしまうでしょうからね。成長しないまま、もっと危険な地域に行けばどうです? 貴女だって完璧に彼らを守れるわけがありません、いつか誰かが欠けてしまうでしょう。それで本当に良いのですか?』
(それは……そうかもしれないけど……)
すでに彼らと行動を共にするつもりだったDは憤慨するが、麗筆の言うことにも一理あった。先程の大蜘蛛、バンの与えたダメージはほんの少しであり、しかも彼は致命的なミスを犯していた。あれら昆虫系の魔物には刺突はあまり有効ではなく、しかも自分の武器を失うようなあの戦法は自殺行為、本当なら彼は死んでいた。
そもそも、火も無しに大蜘蛛と戦おうだなんてこと自体間違っている。急な襲撃だったからといって、妥当な反撃手段も持てない時点で彼らには、魔物の相手はまだ早すぎたのだ。
『彼らは別の術士を見つけるべきです。白術士であれ、黒術士であれ。もしかしたらぼくのような魔導師もいるかもしれませんし』
(麗筆みたいな術士なんて、いるわけないでしょ! もう、わかってるくせに!)
『まぁ、そうですけど。とにかく、彼らより少し弱いくらいの無名の術士を仲間に入れて育てさせなさい。それが彼らにとっては一番の親切ですよ』
(そうだね……。わかった。残念だけど、仕方ないよね!)
麗筆との対話を終えたDはため息を吐き出し、バンに向き直った。その様子をじっと見詰めていたバンはハッと姿勢を正す。
「Dちゃん……」
「ごめんね、バン。一緒には行けないや」
「そう……か。なら、仕方がないな……。理由を聞いてもいいかい?」
「うん。麗筆がね、私と一緒にいたら、バンたちのためにならないからって」
「レイ・フィッツ? それが君の仲間の名前なのかい?」
「う~ん。そうだね。レイヒでいいよ。まぁとにかく、その麗筆がね。私じゃなくて、バンたちと同じくらいの駆け出しの術士を仲間に入れなさいって。それで、自分たちのレベルに見合った仲間と、一緒に成長するのが一番です、って」
「そうか……。わかった、上手く仲間になってくれる術士が見つかるかは半々だけど、やってみる。ありがとう、Dちゃん」
「ふふ、どういたしまして~! それじゃ、もうひと休みしてから、オルキダに帰ろ?」
「ああ!」
バンは明るく笑い、拳で胸を叩いた。





