雅巳
美桜は早速、月曜から村田の家に来てくれることになった。
思った以上に話が早く進んで、嬉しい村田だった。
光のことや自分の気持ちを、できれば話したかったが今日はやめた。
美桜が話したくなるのを待とう。美桜が笑顔でいるのが一番だ。
俺の気持ちはきっと美桜にバレバレだから、
わざわざ言うこともないだろうし…。
そんな気持ちを察したのか、美桜がご飯を作ってくれると言った。
さっさと帰ると思っていたから、意外だったけど、うれしかった。
「キッチン、使ってないから綺麗なの?」
「うん、そう。電子レンジしか使ってない。」
「プログラマーって、本当に大変なんだね。」
母から送られてきたが、処理に困っていた新たまねぎを、
手早く切りながら美桜が言う。
それを隣で見る村田。
「…村田、休んでていいよ。困ったら聞くから。」
「う…、うん。」
美桜を見ていたいんだよな。でも、そう言ったらひくよな。
仕方ないからソファに座って、こっそり美桜の後姿を見ることにする。
…何だか信じられない。
二度と会えなくても、仕方ないと思っていた。
その美桜が、うちでまた料理を作っている。
…やばい。泣きそう。美桜を見ていられなくなる。
気をそらすために、携帯でメールをチェックしてみる。
健吾からメールが来ていた。明日バスケか。行けるなあ。
村田は美桜の背中に話しかける。
「美桜は健吾には会うの?」
「うん。たまにね。」
美桜の母はカウンセラーで、健吾の父のカウンセリングをしている。
「健吾は光がいなくなったこと、知ってる?」
「ううん。言ってない。」
チャーハンを皿に盛りながら答える美桜。
「俺から言わないほうがいいかな?」
「どっちでもいいよ。いつかわかるだろうしね。
明日、バスケに行くの?」
美桜がチャーハンをテーブルに置いて、村田に聞いた。
「うん。久しぶりに行こうかと思う。
いただきまーす。」
そう言って、笑顔で食べ始める村田。
この顔大好きだったな。美桜も思わず顔がゆるむ。
「村田、バスケ行ってないんだ。」
「うん。土日も仕事があったりしてさ。」
「…そんなに忙しいんだ。」
「でもちゃんと手当てがつくから、マシなんだよ。
サービス残業が当たり前の世界だから。」
「へえ…。」
「不思議なものでさ、ちゃんと余裕を持ってスケジュールを組んでも
何か問題が起きて、徹夜することになったり、休日出勤しないといけなく
なるんだよね。プログラマーの運命なのかな。」
「…嫌にならないの?」
「うん。自分が作ったものが動いて、みんなが喜ぶのがうれしい。
研修は嫌だったけど、プログラムを組むのは楽しいんだ。」
食べながら楽しそうに話す村田。
本当に楽しんで仕事をしているのが、美桜にもわかる。
「いいね、仕事が楽しいなんて。
みんな我慢して働いているのかと思ってた。」
「最初は辛かったよ。一生、満員電車に揺られて
9時までに会社に行かなきゃいけないんだなーとか思って。
でも慣れた。電車にも早起きにも。まあそんなに早起きでもないけど。」
「一限、起きれなかったのにね。」
「その節はとてもお世話になりました。」
「いいえ、貴重な経験をさせていただきました。」
顔を見合わせて笑う。
かと思うと、少しさみしそうな目になる美桜。そして
「…すごいね、雅巳は。」
小さくつぶやいた。
ふと名前を呼ばれて、驚く村田。
別れた後に、雅巳、と呼ばれるのは初めてだ。
美桜は気づいているんだろうか。
「私も家政婦、がんばるね。」
戸惑う村田に、美桜は笑って言った。




