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田園都市線

盛り上がっていると時間が経つのはあっという間で、

気づくと終電間際だった。

「さて、帰ろうか。」

「楽しかったね。」「また飲もう。」

「明日は休みだ~。」

口々に言いながら、店を出る。


「村田と美桜は田園都市線ね。じゃ、またね~。」

大崎と和美は手を振って、JRの乗り場に向かう。

ああ、そうだった。村田は引っ越したんだった。

二人きりで帰るのかあ…光のこともあって、何となく気まずい。

そんな美桜の心配をよそに、村田は笑顔で言った。

「金曜の夜は混むから、はぐれないようにここ持ってなよ。」

村田は自分の鞄の持ち手を指差す。

美桜は、はぐれて一人になるのが怖いんだよな。

だから付き合っている時は、いつも手をつないでいた。

別れて1年も経つのに、さすがにいきなり手はつなげないからなあ。

…俺はつなぎたいけど…。いや、そんなことしたら

興奮して手汗をびっしょりかいて、美桜にひかれるな。

うん。俺には無理だ。

「ありがとう。」

はにかんだように笑って、美桜は村田の鞄の持ち手を持った。

村田の手に美桜の手が少し触れる。

美桜の、細くてやわらかい手の感触を思いだす村田。

…ああ、やっぱり手をつなぎたい。

いや、今は我慢だ。ひかれるどころか、嫌われたら大変だ。

きっと、いつか、そのうち…。

村田が悶々としていると、美桜が言った。

「村田は新居には慣れた?」

「もう一年だよ。すっかり慣れた。」

笑って村田が答える。そして少し考えて、言った。

「…美桜。うちに来ない?」

「え。行かないよ…。」

突然の言葉にびっくりするも、即答する美桜。

相変わらずハッキリしているなあ、村田は笑う。

「今度、遊びに来てよ。…したくない話はしないから。」

「うーん…。」

頷いているような、いないような、曖昧な返事の美桜。

これは来ないつもりだな、と察した村田は言った。

「…あのさ、お願いがあるんだよね。」

村田はわざとらしい深刻な顔をしている。

美桜は嫌な予感がした。きっと変な”お願い”なんだろうな。

大学の時、一限の授業に間に合うよう起こしてくれって言われた時も

お願いがありますって土下座された。

まあ、あれがきっかけで付き合ったようなものだけど。

「どんなお願い?」

「うーん。ここではちょっとわかりづらいと思う…やっぱり家に来て。明日。」

「明日?えー…。」

急に言われてもなあ…。

無職だから時間はあるけど、心の準備が…。

「来なかったら迎えに行く。」

笑ってるけど、まっすぐな目の村田。…これは本当に来るな。

村田が家に来てママに会うと、昔話に花が咲いて盛り上がって、

泊まっていきなさいとか言い始めるだろう。色々めんどくさいな。

「…わかった。行くよ。午後でいい?」

”お願い”だけ聞いて、さっさと帰ろう。

「うん。待ってる。」

ちょっとふてくされている美桜を気にせず、笑顔になる村田。

あまりにもうれしそうな笑顔に、しかたなく笑う美桜だった。

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