楽しい
ママと健吾が楽しげに話しているのを、美桜はぼーっと見ていた。
ちょっと話があるって言っただけなのに、健吾は何でうちに来るんだろう。
強引すぎる。どこかの公園でいいじゃん。
二人の話が終わるのを、美桜はリビングでむっつりしながら待っていた。
「じゃ、美桜、行ってくるわね~。」
ママがご機嫌に出かけていく。
健吾に相変わらず綺麗だとか、言われたからだな。
「で、どうした。村田とえっちしたか。」
ソファに座りながら健吾が聞く。
前置きなしにその話か…健吾らしすぎて笑える。
「ううん。してない。光にちゃんと話してから、するよ。
もうすぐ帰ってくるみたいだから。」
「光に電話したんだ。美桜が自分から動くなんてなー。愛の力だな。」
目を細めながら言う健吾。
「村田のどこがいいんだよ。どう考えても
俺のほうがいいのに。…体の相性か?」
「まあそれもあるけど。雅巳はいい男だよ。…もう離さない。」
言ってて恥ずかしくなり、笑って下を向く美桜。
反対にしらけていく健吾。
「まあ、わかってたけどな。お互いに未練ありまくりだってことは。」
「健吾ってさ、意外とするどいよね。」
「いや、お前らはわかりやすいと思うぞ。みんなそう思ってるから。」
え。そうなんだ…。みんな気づいてたんだ。すごく恥ずかしい…。
「まあ、それがお前らの憎めないところだな。
だから気にせず、バスケの写真を撮りに来い。」
「うん。」
「今日3時からだから。」
「今日?今日はいいよ…。」
雅巳に言ってないし。
せっかくママがいないんだから、ちょっと家でゆっくりしたいし。
「…親父のカメラはちゃんと大事にしてるんだろうな。」
じろりと美桜を見ながら、健吾は言う。
「うん…。」
健吾のお父さんから借りているデジタル一眼レフは、
もちろん大事にしまってある。もう一年くらい、大事にしまってある。
「使わないんだったら、返してくれよ。」
「いや、使うよ。写真また撮りたいもん。」
「じゃあ、今日から早速使え。」
健吾ってやっぱり強引だよね…。
仕方なくカメラを持って、健吾の車に乗り込む美桜だった。
村田が体育館に着くと、見覚えのある女の子がみんなに囲まれている。
あれ、美桜だ。笑って駆け寄る村田。
美桜も村田に気づいて手を振った。
「健吾に連れてこられた。写真撮れって。」
「そうなんだ。」
今日も会えて嬉しい、と目で言いながら見つめる。
美桜も答えるように微笑んでいる。
「…はーい。見つめ合ってないで、写真撮ってねー。」
間に割り込んで健吾が言う。
「さっきまで普通に話してたのにー。
雅巳をいじめたら怒るからね。」
「いじめてないだろ。村田が来るのが遅いのが悪い。
はやく着替えて用意して来い。」
村田に蹴りを入れながら言う健吾。
村田は笑って更衣室に行ったが、美桜は健吾を睨んでいる。
「美桜さん。健吾さんと喧嘩してないで、撮ってくださいよー。」
後輩の修也が笑って言う。
「りょうかーい。…健吾は今日は撮らないからねーだ。」
「おい。それ親父のカメラだぞ。」
美桜の背中に言うが、美桜は気にせず修也たちを撮る。
…やっぱり、人を撮るのは楽しいな。
バスケのみんなはカメラを向けると、無条件に笑顔になってくれるから嬉しい。
笑顔を撮っていると、私も元気をもらえる気がする。
写真研究会の卒展の写真を撮ってから、カメラには触っていなかった。
どうしても光の写真と比べてしまって、撮るのは楽しくなくなった。
どんなにがんばっても、光にはかなわないから。
でも光のせいじゃない。私が楽しんで撮るのを、やめてしまったからだ。
光が私の写真をどう見るかばかり、気にしてた。
誰が何を思っても、私が満足すればいいだけなのにね。
「アップすんぞー。」
健吾の声に、みんなが集まる。
美桜はベンチに座って、カメラを構えた。
…うーん、雅巳ばかり撮ってしまうなあ。
そう思っていると、こっそりこっちを見てピースをする雅巳。
ふふ、かわいい。まあいいか。雅巳ばっかりで。
他のみんなは、また今度撮ろう。
…健吾に強引に連れて来られて、良かったな。
じゃなかったら、こうして楽しく写真を撮ることを思い出すのも、
ずっと先だっただろう。
怖がりの私は、なかなかバスケに来る勇気が出なかっただろうし、
優しい雅巳は、美桜が来たくなったらおいで、なんて言って
きっといつまでたっても、来れなかったに違いない。
…健吾には、たくさん心配をかけたんだろうな。
なのにいつもと変わらない態度で、今日も話してくれた。
健吾はいつもそうだ。雅巳と別れた時も、光がいなくなった時も、
なんでもない顔で側にいてくれた。
だから私も、なんでもないことのような気がして、心が軽くなったんだ。
もしかしたら、本当に健吾は私の親友なのかもしれないな。
そんなことを考えていたら、何だか涙が出てきた。
私は正真正銘の泣き虫だな。
カメラで隠してこっそり涙を拭いたのに、すぐに雅巳にばれてしまった。
「美桜。大丈夫?悲しくなっちゃった?」
駆け寄ってきて、心配そうに聞く雅巳。
「うん。大丈夫。色々考えちゃって。」
答える美桜。雅巳の優しい手で撫でてもらったら、涙は止まった。
「美桜は村田の前だと泣くよなー。泣き虫。」
呆れた顔で健吾が言う。
むっとする美桜。健吾を思って泣いてたのに…。
健吾が親友なはずがなかった。いつも雅巳をいじめるし。
「健吾の前では、もう絶対に泣かないから。」
「おお。そうしてくれ。泣く女は嫌いだ。…じゃ、試合始めるかー。」
そう言って、健吾はコートに戻って行った。
健吾を睨んでいる美桜の頭を撫で、笑って雅巳も戻る。
…健吾は親友なんて、甘いもんじゃないな。私を鍛えるライバルだ。
また雅巳にちょっかいを出している健吾の背中を見て、思う美桜だった。




