表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/31

遅刻

美桜に追い出されるように家を出たおかげで、

遅刻は30分で済んだ。

「おはようございます…。」

控えめにデスクに座る村田だったが、課長が目ざとくやってきた。

「おはよう、村田。彼女と喧嘩でもしたか?」

喧嘩じゃないけど…とにかく謝っておこう。

「すみません。」

「早く仲直りしてな。今日くらいの遅刻ならまだいいけど

 もう10時まで寝てるとかやめてな。」

課長、根に持ってるなあ…。

「はい、申し訳ありません。」

とにかく謝るしかないので、頭を下げる。

「でさ。村田、竹中産業の製番行って。」

「え、トラブル対応はいいんですか?」

「うん。あれはもう大丈夫。現場対応だけでいける。

 彼女と仲直りして、ゆっくりしてな。」

よく見ると、課長もいつもの余裕がある笑顔に戻っていた。

ああ、やっと人並みの生活ができるんだ。

美桜にメールしよう…。

…していいよな。

家政婦の回数を減らすって言ってたけど、月曜来ないとは言ってないし。

あ、でも会えないんだ。もう泊まらなくていいんだから。

昼間に家事やって、帰っちゃう…。

そして、家政婦の回数減らすねってメールが来て、

忙しくてもう行けないってメールが来たら、終わりだ。

このまま会えなくなる可能性は、十分あるんだ。

そんなの嫌だ。美桜に会えなくなるなんて。

…美桜の気持ちが聞きたい。

また振られるのは怖い。でも、このままで終わるのは嫌だ。

『仕事は落ち着いたので、明日会えませんか』

うーん、我ながら重い文章…。

もうちょっと楽しげな文章を足したい。

『野菜をたくさん食べたいので、助けてください』

いつものお願い口調でいいか。

すぐに返信が来た。

『休日出勤しなくていいんだ。よかったね。

 明日午後行くね。鍋でもしよう』

よかったー。とりあえず普通に会えるんだ…。

俺、幸せだなあ…。やっぱり単純な村田だった。


美桜は、村田の家から帰ってすぐに、光に電話をした。

半年前、何度か電話したけど、つながらなかった。それから電話していない。

ムリだろうな、と思いつつも、まずは電話しないと、と思った。

何度鳴らしただろうか。わからないくらい鳴らした。

決意の固さを試されているような気がした。

呼び出し音が諦めたかのように途切れて、なつかしい低い声が聞こえた。

「…はい。」

「光?」

「うん。」

「美桜です。」

「うん。」

「久しぶり。」

「うん。」

うん、しか言わない、と思って笑ってしまう美桜。

不審がられているみたい。

「…美桜は、エスパーだな。

 連絡しないと、と思ってたら、電話がかかってきた。」

美桜の笑い声で、やっと本物だと信じたかのように光が言う。

「来週、そっちに帰る。」

「そうなんだ。」

すごいタイミングだな。私、本当にエスパーなのかも。

「光に会って、話したいことがあるんだ。」

「うん。」

「帰ってきたら、電話ください。」

「うん。」

相変わらず「うん」しか言わない。

考えてみれば、光はいつもそうだったな。

私が話してばかりで、うん、とか、そう、しか言わない光。

写真で表現するために、言葉をとっておいているんだと思ってた。

「待ってるね。」

光の、うん、を聞きながら美桜は電話を切った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ