ふらふら
昨日は早めに寝たのに、結局眠くなった美桜は、村田のベッドにいた。
この家にいると眠くなるなあ。不思議だ。まあいいや。
昨日はママにこき使われたから、今日はのんびりしよう…。
村田に似ている熊を抱いて、村田のベッドでごろごろする。
すると、電話が鳴った。またママかな…。
うんざりして見ると、健吾からだった。電話してくるなんて珍しい。
あ。ママから村田の家にいることを聞いて、かけてきたのかもしれない…。
出るか迷って電話を見つめるが、どうせいつかは話さないといけないんだ。
腹をくくって、電話に出る。
「…もしもし。」
「美桜、村田んち泊まってるんだって?」
案の定、健吾の不機嫌そうな声。むっつり顔の健吾が目の前にいるみたい。
「…うん、そう。朝起きられないから、起こしてあげてる。」
「ふーん。で、えっちした?」
「してないよ。」
ママと同じこと聞くなあ。なんでだろ。
「じゃあ行くなよ。訳のわからないことすんな。」
「だって、疲れてて寝坊しちゃうのに、怒られるんだよ。かわいそうじゃん。」
「そんなの村田が選んだ仕事だろ。嫌なら辞めればいい。」
「…健吾って冷たいよね。」
「仕事なんてそんなもんだ。ふらふらしてる美桜にはわかんねーよ。」
「なにそれ。」
むっとする美桜。
「仕事だけじゃなくて、恋愛もふらふらじゃねーか。
自分の気持ちごまかして、うやむやにするなよ。
…光の時に後悔しただろ。」
「健吾にはわかんないよ。」
全部わかったような言い方でむかつく。
「じゃあ、お前は自分でどうしたいのかわかってるのかよ。
わかってて村田の側にいるのか?」
「…」
「ちゃんと自分の気持ちを、村田に言えるのか?どうせ言えないんだろ。
仕事にかこつけて、村田の未練に甘えてるだけじゃねーか。」
ぶちっ。電話を切って、ベッドの上に投げ捨てる美桜。
そんなことわかってる。
もういい加減、光のことも雅巳のことも、ちゃんとしないといけない。
わかってるけど、怖い。また誰かを悲しませるのは嫌だ。
もう誰も傷つけたくない。傷つきたくもない。
誰も泣かせたくないし、泣きたくもない。
どうしたらいいか、わからないんだよ…。
好きでふらふらしてるわけじゃない…。
雅巳の枕に顔を埋めて泣く。
…何で涙は、枯れてくれないんだろう。
無くなるってわかっていれば、無くなるまで泣くのに。
泣いても泣いても止まらないから、泣くのは我慢した。
泣くだけで何もできない自分なんて、大嫌いだ。
振られて傷ついたのは雅巳なのに、私が泣くなんてずるい。
結局、光も傷つけた。だからいなくなっちゃったんだ。
全部私が悪いってわかってるのに、何で涙は出るんだろう。
雅巳の枕を抱いて、ただ泣いた。
濡れた雅巳の枕からは、雅巳の匂いがした。
…帰りたくない。ずっとここにいたい。
雅巳が守ってくれてるみたい。
頭を撫でて、よしよしってしてくれてるみたい。
私はいつも雅巳に甘えて、守ってもらっていた。
けんかしてもいつも謝ってくれたし、すぐ泣く私を許してくれた。
別れた時も私が強く言えば、絶対別れてくれるってわかってた。
雅巳の優しさに、当たり前のように甘えてた。
今でもそうだ。
健吾の言うとおり、忙しい雅巳を助けているつもりで、助けられているのは私だ。
雅巳といると安心して、怖さを忘れられる。
私の全部を見ても、受け入れてくれるから甘えてしまう。
…もう彼女じゃないんだから、甘えるのはやめよう。
これ以上、雅巳を傷つけたくない。
雅巳の悲しい顔は、もう見たくない。




