熊
まだ10時だというのに、美桜はもう布団に入っていた。
今日の昼間、眠かったから早めに寝よう。
どうせ村田のことを待っていられずに、寝ちゃうんだし。
…この家は好きだけど、一人ぼっちで寝るのはさみしい。
カーテンを開けて、月を見ながら寝る。村田、はやく帰ってこないかな。
明日どうやって起こそう。疲れている時ほど、えっちしたいんだっけ。
あまり体に触らないようにしよう…。
村田は今日も、終電で帰ってきた。美桜は布団で寝ている。
部屋の隅で寝るからテーブルで食べて、と言われたので
月明かりの中、美桜の寝息を聞きながら弁当を食べる。
今日は起きないんだな。少し残念だ。
でも起きてきても、危なっかしいだけか。可愛いんだけど。
明日は早く起きよう。少しでも長く、美桜の顔を見ていたい。
できれば触りたい…ああ、変なところが元気になってきた。とっとと寝よ。
そうだ、と思い出して、美桜の枕の隣にぬいぐるみを置く。
寂しがらずに、朝まで眠れますように。
「村田ー朝だよー。」
美桜がカーテンを開けると、村田は布団で顔を隠す。
昨日と同じ動きで笑ってしまう。
作戦を考えた美桜は、悩まずに次の行動に移る。
足の裏をくすぐって起こそうと、村田の足を持つ。
…くすぐってみるが、全く効かない。
村田って不感症?こんなに鈍感だったっけ?
仕方ないので、適当に足の裏のツボを押す。
ママに頼まれて、足の指の付け根あたりを押したことがあるけど、
ものすごく痛がっていたな。確か目のツボだって言ってた。
村田の足の同じ場所を、思いっきり押してみる。
「…いたい。」
村田が反応した。
足を引っ込めようとするが、美桜は離さず、さらにグイグイ押してくる。
「いったーい!」
足をかばうように抱えて、村田は起き上がった。
何かに怯えるような目で、美桜を見る。
「おはよう。目の疲れが溜まってるみたいだよ。」
それを気にせず、爽やかな笑顔で美桜が言う。
「…うん。おはよう。」
「早起きしたから、ご飯食べれるね。」
と言って、美桜はキッチンへ行ってしまった。
うう…昨日は手を握れたのに、今日は何もできなかった…。
すっかり目が覚めてしまったから、もう起きるしかない。
「そういえば、昨日ぬいぐるみ置いてくれた?」
キッチンから美桜の声。
渋々寝室を出ながら、村田が答える。
「うん。課長がかの…」
彼女にあげてって言ってたんだけど、美桜に言ったら嘘がバレるじゃん。
「いや、えーと…、一人で寝るの寂しいかと思って。」
「ん?課長がくれたの?」
美桜は真面目にちゃんと話を聞いていて、とても偉いと思う。
でも聞かなくていいこともあるんだよ…。仕方ない。
「う、うん。課長って変な人なんだよね。俺にぬいぐるみくれるなんてさあ。」
課長、ごめんなさい…。
「そうだね。でも、わかる。村田に似てる。」
「え。そう?」
畳まれた布団の上に、ちょこんと座っている熊を見る。
この情けない顔と似てるのか…ちょっとショック。
「村田がいるみたいで、今日は寂しくなく眠れそう。」
笑って美桜が言う。
じゃあ、いいか。俺のかわりに抱いて寝るのかな…。
またニヤニヤをマスクで隠して、出社する村田だった。




