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美桜に、何て言ってお願いしたらいいんだろうか。

うちに泊まって俺を起こしてくれ、なんて無茶なお願いを

どう伝えたらいいのか、さっぱり思いつかない…。

課長は昼休み中、ずっとちらちら見てくるし…。

もういいや。怒らせないことを第一に考えて、とりあえず電話しよう。

電話は美桜を呼び出している。

美桜とせっかく話せるのに、

呼び出し音がこんなにも憂鬱に聞こえるなんて…。

「もしもしー。」

「もしもし、美桜?」

「うん。村田は昼休み中?お疲れ様。」

「ありがとう。」

美桜の優しい声。これが鬼の声になりませんように…。

「えーと…あのね。今日寝坊して、会社遅刻しちゃったんだ。」

「そっかあ。疲れてるから仕方ないよね。」

「それでね…、課長が怒っちゃってね。」

「え、そうなんだ…。」

「課長がね、起きられないなら、誰かに起こしてもらえって

 言うんだよね…。」

「ふーん…。」

ああ、これじゃわからないよな。伝われー、と念を送る村田。

それとも怒ってるかな…?

どんな言葉を足したらいいか考えていると、

「あ、私が起こせばいいってこと?」

美桜は言った。普通の声だ。多分、怒ってないよな…。

「…はい。お願いします。」

「村田のお願いは、いつも無謀だよね。」

笑っている美桜。よかったー。とりあえず、一安心してしまう。

「村田、朝弱いもんね。電話しても起きないよね…。」

「うん。前に電話してくれたけど、結局起きれなくて

 罰としてレポートを書かされた授業があった。」

「そうだよね。…泊まるしかないか。毎日?」

「うん…。できれば、今週いっぱい…。」

「いいよ。旅行だと思って行くよ。」

やった…。さすが美桜。

俺と付き合っていただけあって、心が広い…。

ああ、こんなに簡単に引き受けてくれるなんて、信じられない。

嬉しくて涙が出そうだ。

嬉しさに浸りたいけど、現実的な話をしておかないと。

「あの、申し訳ないんだけど、今日からお願いします…。」

「うん。うちのことをやってから行くね。」

「俺も帰り遅いかもしれないから、先に寝てて。

 布団は押入れに入ってるから。

 かび臭かったら、俺のベッドで寝ててもいいよ。」

言ってて顔が赤くなるのがわかる。

どうしよう、俺のベッドで美桜が寝てたら。

いや、ちょっとまずいよな…。うん。寝室に入らないようにしよう。

「ありがとう。でもソファで寝るから大丈夫だよ。」

「そっか。」

自分の置かれている立場をわきまえず、ちょっと残念に思ってしまう。

「忙しい村田のために何かできることがないかなと

 思ってたから、ちょうどよかったよ。」

「そうなんだ…。」

そんなふうに思っていてくれたんだ。

美桜は、いてくれるだけでいいのに。

何もしないで、そこにいるだけで充分なのに。

…でも、そう言ったら重荷になるかもしれない。

美桜と縮まったこの距離を、元に戻したくない。

うん。本当にそうだ。寝てる美桜を、絶対に襲わないようにしよう。

ふと、顔を上げると、課長がドアの隙間から顔を出して見ている。

やっぱり、暇なんだろうなあ…。

「じゃ、気をつけて来て。」

「うん。村田もお仕事がんばってね。」

課長に背中を向けて電話を切る。

「どうやった?村田。どうやった?」

相変わらず妙なテンションの課長。

「大丈夫でした。今日から泊まってくれます。」

「よかったな~。心置きなく、遅く帰れるな!」

いや、できるだけ早く帰りたいですけど…。

まあ、課長が無茶言わなければ、美桜が泊まることもなかったし。

そもそも、俺が遅刻しなければこうならなかったのか。

寝坊してよかったな…。

「じゃ、夕方までにさっきのプログラムの修正頼むな。

 現場でテストしたいから。」

「え?あ、はい…。」

夕方までか。結構、大きいプログラムだったよな…。

でも、終わったら帰れるかも。そしたら、美桜に早く会える。

気合を入れて、デスクに戻る村田だった。

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