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よく寝た

トラブルが少し落ち着いたからだろうか、

よく眠れたなあ、と思って村田は目を覚ました。

はあ、また会社か、と思いながらも、

ベッドでぼーっとしていると、携帯電話が鳴った。

課長から電話だ。嫌な予感。

「もしもし、村田です。」

「村田、いまどこ?」

「家です。今起きました。」

「えーと。もう10時なんだけど。」

「え?」

はっとして時計を見ると、本当に10時だった。よく眠れたわけだ…。

「あのー、急いで来てもらっていいでしょうかー。」

ああ、いつもの下手に出て、お願いする言い方じゃない。

課長は久しぶりに怒っている…。

「はい。すみません。急いでいきます。」

すっかり立場が逆転してしまった。

昨日脱いだスーツをそのまま着て、村田は家を飛び出した。


「うん。疲れているのはわかる。寝坊もするよな。

 でも、午前中に対応したい修正があったんだわ。」

「はい。」

「こういうふうに、何かあったらすぐに対応しないといけないから

 昼間は会社にいていただきたい。」

「はい。」

「あと一週間でいいから、がんばってもらえませんか。」

「はい。」

課長の言葉は丁寧だが、威圧感が感じられる。

課長も、現場にいる係長も、限界点に達しながら、

何とかこらえて仕事しているんだよな。

なのに俺は、寝坊してしまった…。

せっかく帰れたのに、こうなってしまうと帰り辛い。

課長も帰ってないみたいだし。

すっかり疲れが取れて、頭がすっきりしている分、色々考えてしまう。

ため息をつきながら仕事をしていると、美桜からメールが来た。

『今日ご飯無いけど大丈夫?作りに行こうか』

美桜は優しいなあ。

『大丈夫だよ。今日も帰れるかわからないから』

寝坊したから帰れないかも、とは言えない。

あーあ、美桜のご飯、今日は食べられないんだな…。

せつない気持ちになっていると、課長が横に立っていた。

びくっとしてスマホから顔を上げると、課長が言った。

「村田。彼女に起こしてもらえば?」

「え、そんな…。無理です。」

「なんで?ご飯作ってもらって、そのまま泊まってもらえばええやん。」

無茶振り過ぎる…。仕方ないので、村田は正直に答える。

「えーと…興奮して、寝れないです。」

「寝ろや。」

うわ、キレてる。課長、限界突破してる…。

「わ、わかりました…。」

とりあえず、ここは穏便にすまそう。課長はキレると怖いから…。

不機嫌な顔のまま、立ち去る課長を見送る。

さて、どうしよう。

今更、実は彼女じゃないです、なんて言えない。

これ以上課長がキレたら、俺、もう会社に来れないかも。

仕方ない、やっぱり毎日会社に泊まるか。一週間の我慢だ。

美桜にそんなお願いできないし。

家政婦やってもらってるのだって、かなり無茶なお願いなんだし。

泊まってくれたらうれしいけどさ…。

俺を起こしてくれるのも、得意だし。

付き合っているときは、ちょっとえっちに起こしてくれたし…。

…やばい、美桜がうちに泊まるのを想像して、どきどきしてきた。

無駄にどきどきするの、やめようよ。

心臓と戦っていると、また課長がやってきた。

「村田。俺、彼女に電話したるわ。」

「は?」

「村田を朝、起こすようにお願いする。」

疲れすぎて、変なテンションになっているんだな…。

すげー、迷惑…。

それを顔に出さないようにしながら、村田は言う。

「あの、僕、会社に泊まります。」

「なんで?」

「え、えーと…、彼女も仕事があるから、迷惑だと思うんで…。」

美桜は無職だけど、とりあえずここは嘘をついておこう。

「…やっぱ俺、電話するわ。携帯貸して。」

うわ。全然聞いてない。もうー。

「だめです。彼女びっくりしちゃいます。

 また振られたら、立ち直れないです。」

焦りのあまり、本心が出てしまった。

でも二回も振られたら、本当に立ち直れないと思う。

「大丈夫やって。俺は営業の鬼と言われた男やぞ。

 彼女に、うん、と絶対言わす。ほれ、貸して。」

半笑いで課長が言う。

もう、何を言っても、だめなんだな…。

「…自分で、お願いしてみます。」

いきなり変な人から電話がかかってくるより、

俺に変なお願いをされるほうが、まだマシだろう。

「えー、そう?…じゃ、ダメだったら俺、電話するから。」

課長は立ち去らない。

「…昼休みになったら、かけますから。」

「んー、じゃ待ってるねー。」

やっと課長は行ってくれた。

実は暇なんじゃないだろうか、と思う村田だった。

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