二徹
美桜が村田の家の冷蔵庫を開けると、弁当が二つ残っていた。
…昨日も帰れなかったのかな。疲れて食べられなかったんだろうか。
連絡がないなんて珍しいな、と思って洗濯機を見ると、洗濯物が何もない。
ベッドも綺麗なままだ。やっぱり帰れなかったんだ…。
冷蔵庫に残った弁当の中身を捨てる。これ、辛いなあ…。
やっぱりプロの家政婦にはなれそうもない。
今日のご飯はどうしよう。また捨てるのは辛いから、
聞いてみようと思って、村田にメールをする。
…いつもすぐ返ってくるのに、メールが来ない。あ。本当に忙しいんだ…。
いつも好きなときにメールしちゃってたけど、仕事中だもんね。
あー、削除したい。たいした内容じゃないのにー。
スマホを見つめて悶々としていると、村田から電話がかかってきた。
「もしもし。村田?」
「うん。ごめんね、美桜。連絡できなくて。」
「いや、こっちこそ仕事中にごめんね。忙しいよね。」
「ううん。仮眠中だったから大丈夫。」
「もしかして、起こしちゃった?」
「大丈夫だよ。ご飯は…一食分だけ作ってもらっていいかな。」
「うん。何か食べたいものある?」
「…何でもいいよ。…ごめん、全然食べられなくて。」
「ううん。それは平気。二日帰れなかったんだよね。
体は大丈夫?少しは寝れるの?着替えとかは?」
矢継ぎ早に質問され、答える隙がなく笑ってしまう村田。
「大丈夫だよ。徹夜は慣れてるから。」
二日連続で帰れないのはさすがに初めてだけど、それは伏せておこう。
これ以上、美桜に心配をかけたくない。
「美桜の声を聞いて、元気が出たよ。」
「…うん。」
「花を飾ってくれてありがとう。綺麗で嬉しかった。また飾って。」
「あ、うん。」
もうお花は止めようと思ったけど、村田が喜ぶなら買ってこよう。
「何か他にできることある?」
美桜の優しい声。
美桜に会いたい。…でも今、会ったら襲ってしまいそうだ。
理性がふっとんでる気がする。
「…うん。何か思いついたら連絡する。…また電話してもいい?」
「いいよ。いつでも電話して。」
ああ、もうその言葉だけでいいような気がする。
ぼーっとした頭に、美桜の声が沁みる。
もう話すことはないのに、何となく電話を切れないでいると
「村田ー。急ぎで画面直してー。」
課長がまたいきなり入ってきた。
電話を持った迷惑そうな顔の村田を見ると、
課長はハッとして応接室のドアを閉めた。
村田は仕方なく美桜に言う。
「じゃ、仕事に戻るね。」
「うん。何かあったら電話してね。」
美桜の声の名残を耳に残して、村田は応接室を出た。




