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徹夜

納期が終わったからといって、平穏な生活に戻れるとは限らない。

今回の仕事で村田は、その現実を嫌というほど突きつけられた。

トラブル製番に当たったのは二度目だ。

前回は新人研修が終わってすぐだったから、徹夜は二度で済んだ。

今回は何度になるのだろうか…考えたくない。

「村田…その帳票、今日中に頼む…。」

そう言う課長の顔は疲れきっているが

村田もそれを気遣える余裕など無い。

「今日はあと一時間しかありません。」

課長を見ずに答える。

「朝まででお願いします…。」

うなだれたように頭を下げる課長。

「…はい。」

客先の現場では、係長がずっと徹夜で対応しているらしい。

家に帰れなくても、現場に飛ばされるよりはいいんだ。

そう言い聞かせて、仕事をすすめる。しかし、空腹で集中力が持たない。

美桜の弁当が食べたくて我慢していたけど、どうせ食べられないんだよな。

仕方なく、コンビニに買出しに行くことにする。


「村田、朝飯、おにぎりでいいか?」

「…はい。」

課長が差し出したおにぎりを受け取る。

コンビニのおにぎりを、いくつ食べれば俺は帰れるのだろうか。

課長に頼まれた帳票の作成は終わったんだから、帰りたい。

もう電車は動いているんだし。おにぎりを食べながら、ぼーっと思う。

「村田。帳票オッケーやって。仮眠して。」

え。帰れないのかな…村田の心の声は課長に届いたようだ。

「現場動くから、会社にいて。ほんま、すまんな。」

村田はがっくりと肩を落とし、返事もせずに仮眠のために立ち上がる。

「応接室使っていいからー。」

課長が大きな声で言う。最初からそのつもりです、と背中で答える村田だった。


仮眠中、夢を見た。美桜が家のソファに座って外を見ている。

声をかけたいけど、声が出ない。隣に座りたいけど、体が動かなくて近づけない。

それどころか、どんどん美桜から遠ざかっていく気がする。

美桜…みお!と思って、目が覚めた。

村田の目に映ったのは、見慣れた応接室の天井だった。

…美桜に会いたい。

先週、美桜に会ったのが遠い昔のように感じる。

今日は何曜日なんだろうか。スマホで確認する。木曜日だ。

美桜に会ってから、一週間しか経っていない。

…俺、よく一年も美桜に会わずにいられたな。

また会えなくなったら、俺はどうなってしまうんだろう。

疲れていると、どうしようもないことを考えてしまう。

…美桜にメールしよう。

『また帰れなくて弁当食べられなかった。ごめんね』

美桜はいつも二つ弁当を作ってくれるから

今日帰って一個食べて、明日もう一個を食べれば無駄にならないな。

だから、明日美桜には一個だけ作ってもらえばいいな…。

ぼーっと考えていると美桜からメールが来た。

『お仕事お疲れ様~。大変だねえ…

 お弁当は明日作り直すからね』

美桜の言葉が胸にしみる。美桜とメールできるだけで幸せだな…。

何度も読み直して幸せを噛みしめていると、課長がいきなり入ってきた。

「村田~頼む~プログラム止まってもうた~。」

情けない顔で情けない声を出す。しかたなく起き上がった村田に課長が言った。

「昼飯、京樽のねぎとろ丼買ってくるからな。頼むな。」

課長は励ましているつもりなんだろうけど、

昼も外に出るなと言われているようで、心が折れそうだった。


止まってしまったプログラムの修正は、夜までかかった。

何とか帰りたい一心で取り組んだが、早めに諦めて一旦家に帰ればよかった、と

気づいた時にはもう遅く、家から会社に戻る電車がなかった。

「村田…朝までには何とかなるやろか…。」

「何とかしないといけないんですよね。」

「はい…。」

二日連続で徹夜するのは初めての経験だ。

こんなに、何もかもがどうでもよくなるものなんだな。

課長の顔色とかどうでもいい。早く終わらせて帰りたい。

でも適当に直して、またプログラムが止まると困るから、集中はしないと。

課長が、すまん、今日は帰らせてもらうわ、と言っていたのも

いつのことだかよくわからない。

とにかく、修正してテスト、を繰り返し、これでいいだろう、と思ったら、外は明るかった。

リモートで現場のプログラムをのせかえて、係長にその旨をメールする。

課長がいないうちに、家に帰っちゃおうかと思ったが、

このまま電車に乗ったら、どこまで行ってしまうかわからない。

とりあえず応接室で寝ることにする村田だった。

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