健吾の家
美桜は母の運転手をして、健吾の家にいた。
健吾の父のカウンセリングをする母のために
一ヶ月に一度はここへ来る。
健吾は議員の父の手伝いをしていて、忙しいはずなのだが、
美桜が来る日は必ず家にいた。
カウンセリングは短ければ30分、長ければ2時間、と時間が読めず、
どこかに出かけて、時間をつぶすことができないので
健吾が話相手になってくれるのは、美桜にとって好都合だった。
それに、健吾は美桜に気を使わずに何でも話すし、
話すことが無ければ黙っているので、一緒にいて楽な相手だ。
しかし、美桜は何度か健吾の部屋で押し倒されたので、
二人はたいだい庭か、リビングで話をしていた。
今日は暖かいので、庭のベンチに二人で座る。
「美桜、暇ならうちの仕事手伝えよ。
パソコン使えるやつがほしいんだよなー。」
「え。忙しそうでやだ。」
それに議員事務所の仕事なんて、何だか荷が重い。
「仕事無くて毎日暇なんだろ。ちょっとでいいからさ。」
「…そこそこ暇だけど、暇じゃない。」
「なにそれ。」
健吾はじっと美桜を見る。心を読まれそうで目をそらす美桜。
…健吾には言いたくないなあ。村田の家のこと。
何か痛いところを、突かれる気がする…。
「村田の家に行ってるんだろ。お前は何も俺に言わないな。
お前のママから聞いてるんだぞ。全部。」
健吾が一瞥を投げながら言う。
えー。ママのおしゃべり…。口止めしておけばよかった。
「俺は美桜のこと親友だと思っているのに、美桜は違うんだもんな。」
確かに、親友って感じではないよなあ…友達ではあるけど。
親友はえっちなことしようとしないし。
そう思うが、言っても聞かなさそうなので黙っておく。
「俺は光がいなくなったことも知ってるけど、
村田に言わなかったぞ。親友だからな。」
「え、そうなんだ。」
意外に思って健吾を見る。きっと、光のこともママに聞いたんだろう。
それは言うタイミングを逃してただけだからいいけど、
村田に言わないでいてくれてよかった。
悲しい顔の村田を思い出す美桜。
「黙っててくれてありがとう。
…でも、もっと早く言えばよかったのかなあ。」
村田を悲しがらせずに、すんだのだろうか。
「お前は元カレを気にしすぎだ。
もう終わったんだから、気にするなよ。」
健吾の言葉に頷く美桜。
浮かない顔の美桜にため息をつきながら、健吾は続ける。
「そんなんで、村田の家に行って大丈夫なのかよ。
光のことだって、気になってるんだろ。不器用なくせに。」
確かに、光とちゃんと話をしないと、とは思ってる。でも踏み出せない。
それを村田に言うのは、気が引ける。
…だったらそばにいちゃ、いけないよなあ。
思いつめたような顔の美桜に、健吾が言う。
「無理するなよ。ちゃんと親友の俺に頼れよ。」
しつこく”親友”を強調する健吾に、思わず笑ってしまう。
健吾は健吾なりに、私のこと心配してくれてるんだよね。
「うん。ありがとう。」
そう答えて、庭に咲く花を見つめる美桜だった。




