緑
美桜は村田の家を掃除をしながら考えていた。
村田、大丈夫かなあ…。
この前会った日は木曜で、会社に戻って徹夜で仕事して、
土曜は休めず仕事で、しかもまた徹夜。
昨日の日曜も朝帰りなんだから、休んだようで休んでないよね。
プログラマーって本当に大変なんだなあ。楽しいって言ってたけど、体が心配。
昨日何食べたんだろう。作りに来ればよかったかなあ。
…頼まれていないのに、できないか。
彼女じゃなくて、ただの家政婦なんだから。家政婦って無力だなあ…。
結局、私にできることなんて、たいして無いんだ。胸がちくりと痛む。
それをソファでじっと感じていると、ふと思いつく。
…花を買ってこよう。
落ち着く家だけど、何となく殺風景だと思ってた。
緑が何も無いんだ。村田の前の家も、そうだった。
だから、うちの庭のローズマリーを株分けして持っていって、窓際に置いた。
村田も気に入ってくれたから、調子に乗ってベランダでミニ農園を始めた。
夏にはプチトマトが大豊作で、村田は食べ飽きたって嘆いてたな。
またやろうかな。…村田にメールしてみよう。
『ベランダに植物を置いてもいいかな?』
嫌がるかもしれないから、プチトマトは内緒。すぐに返信が来る。
『いいよ。またプチトマト食べたいな』
村田、覚えてたんだ。あんなにうんざりしてたのに、また食べたいだって。思わず笑ってしまう。
早速、美桜は近所のホームセンターで、苗とプランターと土と花を買ってきた。
土が重いので小さめのプランターにして、苗は開花して投売りされてたノースポールとビオラを買った。
どっちも小さくて可愛い花。
プチトマトは季節はずれだったので、またの機会にしよう。
ガーベラとかすみ草は花瓶に入れて、テーブルの上に置く。
ソファから花たちを眺めて、満足気な美桜。
いい感じ…。村田も少しは和めるといいな。
村田が家に帰ったとき、すでに日付は変わっていた。
何も食べずに寝てしまいたいけど、美桜のご飯は食べたい。
重い体を引きずって、冷蔵庫から電子レンジに弁当を移す。
弁当を持ってテーブルに置くと、花が飾ってあることに気づく。
…いいなあ。美桜がいた証だ。
美桜の弁当を食べながら、美桜が飾った花を見る。
…ここに美桜がいてくれれば、もっといいのに。
疲れているから、簡単に本音が出てしまう。
『何かできることがあったら言って』
という美桜のメールを見て、すぐに思った。
ずっとここにいてほしい。
何もしなくてもいいから、ここにいてほしい。
テーブルの上の花のように、そこにいるだけでいい。
いつか美桜に言える日が、来るんだろうか。




