彼女
会社に戻った村田は、ひたすら仕事をした。心が元気だと集中力も増す。
愛の力だなあ、と思って、にやにやしてしまう。
それを通りすがりの課長に見られてしまった。
「何笑ってるんだよ、村田。気持ち悪いな。
忙しくておかしくなった?早めに言えよ?」
「いえ、大丈夫です。」
冷静を装って村田は答える。
「じゃいいけど。…さては彼女でもできた?」
はっとして課長を見てしまう村田。
「わかりやすいな、お前は…そそくさと帰って
彼女の飯でも食べてきたんだろ。」
今度は動揺を隠すために目をそらす。
しかし、その行動が、逆に怪しまれるとは気づかない。
「…良かったじゃん。仕事ばかりで女気がないから
心配してたんだぞ。」
隣の席に座りながら課長は言った。
座らないで、仕事して欲しいんだけど…。
徹夜すると決めると、のんびりし始めるよなあ課長は。
そう思うが、言えるはずはない村田。
「で、どんな子?」
彼女じゃないけど、説明がめんどくさいな…。
もういいか、彼女ってことで。美桜にバレることはないだろう。
「可愛い子です。」
自分で言って笑ってしまう。
「写真は?」
「ありますけど…。」
大学の時の写真しかないけど、ほとんど変わってないからいいよな。
二年前に行った花見の写真が、一番最後の美桜との写真だ。
辛くなるので見ていなかったけど、大事に取ってある。
やっぱり美桜は可愛い。
ヘラヘラしてる自分の顔が嫌なので、さっさと課長にスマホを渡す。
「わー、かわいいやん。」
あ、関西弁が出てる。本当にそう思ったんだな。
美桜、かわいいもんな。誇らしげに笑う村田。
「でも、この村田、なんか若くない?」
ぎくっ。急いで課長からスマホを奪い返す。
「画像が粗いせいじゃないですか?」
「…そうかなー。まあいいけど。
いいなー。彼女の飯。…俺も帰って、嫁の飯食べよ。」
「え、課長帰るんですか?」
「ああ。明日の午前中、打ち合わせがあるから、
徹夜したらもたない。悪いな。じゃ、お先ー。」
何だよ、自分は仕事しないくせに、人の邪魔するなよ…。
いいよなー、管理職は…。嫁のご飯も、いいなあ。
俺もいつか言えるんだろうか。なんか、無理な気がする。
もう彼女じゃないのに、彼女ですって
変な嘘をついて満足してる時点で終わってる…。
はあ。仕事しよ。このトラブルが続いて、もっと帰れなくなったら困るからなあ。




