第十五話
これはわたし、篠原藍樹の処女作になります。混乱部分がほんのすこーしありますが、どうかお気になさらずに。
よければ、感想欄にてお知らせください。
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『展示中。自作ラノベ&詩!!』
是非のぞいてみてください
「着いた」
来たのは私達が住んでいる場所から少し離れた喫茶店。私は家も金もない哀れな『みなしご』のため、黒羽が交通費と食費を奢ってくれるらしい。
中に入り、奥の部屋に入っていく。個室を取っているらしく、黒羽が店員さんに名前を告げるだけで奥の部屋を使う了解が出てしまった。
「こんにちは。ハナウタさん」
畳のある部屋に入ると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。顔を見てみると、
「マロン!?」
「はい」
声の正体はインベンションでフレンドリストに登録してあるマロンだった。
見た目はアバターと一緒で短い茶髪の外ハネに元気そうな血気のいい顔立ちの彼女がいた。とてもじゃないが心の傷持ちに見えない。
「こ、こんにちは」
動揺を隠せない。どういうことかと思い、視線を黒羽に向けた。
「今からインベンション支持派でお茶会」
呑気な事を言っているが、これが企みの内容そのものらしい。いつの間に招集をかけたんだろう。
「あと何人来るの?」
「ん? さぁ?」
「さぁって……知らないの?」
「ついでにいうと、私はすぺーどだけしか誘っていません」
マロンが口を挟んで黒羽に言った。
「すぺーどって、五位だった人だっけ?」
「そうだ。俺の唯一の……フレンド」
会ったのは一回だけだと聞いたが、寂しいのだろうか。なぜか遠い目をしている。
話の区切りもよかったので、和室に上がって座布団の上に座った。
「何時集合?」
「三時」
壁にかかっている時計を見てもまだあと三〇分ある。
「何か頼まないと腹が空いて死にそうです。おごって」
可愛らしい仕草と共におねだりしたら「……高いの以外どうぞ」と言われたので遠慮なく頼むことにした。メニュー表が近くにあったのでそれを取る。
「なんでこんな渋いの!?」
お茶会というだけあるのか、和菓子系統が豊富な喫茶店みたいで一ページ目から饅頭や米のお菓子などがズラリと書かれていた。
お菓子を食べる気はないので、食事の欄までページを飛ばす。
「茶碗蒸し!?」
大きな写真には茶碗蒸しが写っていた。一体ここはどこの和風料理屋さんだ。喫茶店なのに軽食といった感じがしない。値段もよく見たらどれも値が張るものばかりだ。
オムライスなどの定番もあるが、隅っこに小さく書かれているだけだった。
「ガーリックライスと肉じゃが下さい」
若いお姉さんの声で「はーい」と聞こえてきたので私はメニュー表を閉じて、机の上に置いてあった緑茶を飲んだ。
「肉じゃがなんてあったの?」
マロンが不思議そうに聞いてきた。至極真っ当な意見だと思う。
――黒羽の店選びはどうなっているんだろう
頭がこういうところではパーらしい。彼はおかしいか、という顔をしている。
頼んだものは五分もしないうちにお姉さんが届けてくれた。見た目も全く問題ないのでよしとした。
「黒羽はお腹空かないの? これ、いる?」
「主催者たる俺がニンニク臭くなってどうする」
あまり気にしなかったが、今頃になって気付いた。
――どうして、ガーリックライス頼んだのかな?
女子だったらそういうところに目配り出来てもいいはずだが私の頭はどうなっているのか、何も感知しなかった。不覚。
「マロンは?」
話をマロンに振る。
「とっくに食べてきたんで……太っちゃ嫌ですし」
うむ。私が女らしさをなくしただけらしい。泣きそうだ。
「黒羽! 私って女らしさないかな?」
「いきなりどうした」
だらけきっている彼は畳の上に転がってごろ寝している。小屋の時の真面目さが微塵もないただの中年おっさんだった。
「いいから答える!」
「……見た目いいから問題なし。女らしさがどうかって聞かれたら、ない!」
「一言多い!」
寝転っても頭が痛くない場所を探している黒羽の頭を即座にはたいた。それほど痛くはなさそうだが、頭を押さえている。だが、すぐに手を引っ込めて元のごろ寝体制に戻る。
私は溜め息を出し、ガーリックライスに手を付けた。
肉じゃがを食べ終わった頃にすぺーどさんがやってきた。
髪はロングでバンダナをしている。服は薄めでうっすらと割れた腹筋が見えた。ガリマッチョというやつだろうか。細身なのに鍛えられている感じがあった。
「久しぶりだね、クロ。君が『マスター』だなんて驚いたよ」
「……そうか。今日はそのことも含めて話すからあとにしてくれ。眠い」
主催者とか言っていたが、それはどこに行ったのだろう。
「上がらせてもらうよ」
ギロッとマロンがすぺーどを睨んだが、彼のほうは微塵も気にせず、すみませんといった顔で会釈してくれた。
残り五分。
あと何人来るか誰も知らないため、不安が募る。静寂なひと時が流れた。
「二年後……やっとお茶会は開かれた」
「あの……ハナウタさん? あと二分の間違いですよ?」
知ってる。ボケたかっただけです。マロンは意外に冗談が通じないタイプだということを今日改めて知らされたような気がした。
「モノローグ……――」
「しなくていいからな」
今度は黒羽に念押しされる。私はガックリと項垂れ、机の角に頭をぶつけた。
「っ~~!」
「どうかしましたか」
すぺーどさんは好青年らしく気を窺ってくれた。一方、中年オジサンはというと、寝たまんまだ。この違いは育ちの違いだろうか。
三時のアラームが鳴った。途端、二人入ってきた。
「遅くなりました」
「悪い、遅刻した」
入ってきたのは、金髪パッツンの綺麗なお姉さんとロックバンドでもしてそうなアクセサリーだらけの中学生だった。
「もう、これくらいかな? そろそろ始めようか」
「何を? お茶会って何するの?」
「主に、自己紹介、意見交換、お菓子、α版の賛否、お菓子、『マスター』の情報流出についてかな。あと雑談」
二回もお菓子タイムが入っているのはどういうことだろう。
「甘いもの好きなの?」
「甘納豆好きの近頃見ない和風少年です」
ここにティエも一緒にいたら黒羽をいくらでも罵るのに、と思ってしまうが彼女はお留守番だ。残念。
「では、自己紹介から……俺は黒羽 雄介。――あ、リアルネーム言うのは個人に任せる。で、戻ってと。――チャット名はクロだが、同時に『マスター』だ。よろしく」
パチパチと小さな拍手が起こる。鳴りやむと次はマロンの番だった。
「こんにちは。加澄 久里です。チャット名はマロンです。インベンションが無くなるまでは皆勤賞並みにログインしていました。よろしくお願いします」
拍手喝采。主に私が大きく手を鳴らした。
次は、私の番だった。何も考えていなかったが、リアルネームとチャット名とアピール的なことと挨拶をしたらいいはずなので、
「ごっ!?」
噛んだ。気を取り直して――
「こんにちは。綾切 繍花です。チャット名はハナウタ。前、『発表会』で一位を取りました。よろしく」
拍手。緊張しながらだったが上手く言えたようだ。
「では僕ですね。僕は羽瀬 駿一と言います。チャット名はすぺーど。インベンションにはあまり積極参加ではありませんが、存在自体には賛成です。よろしくお願いします」
一人を除いて拍手。一人というのはマロンだ。頬を膨らませて怒っている。何か腹の立つようなことがあったらしい。
「ああ、私は松原 荊と申します。チャット名はシダ―・ローズ。『発表会』で二位。そして、インベンションプログラムを手伝った者です。以後お見知りおきを」
拍手はするものの、ぎこちない。インベンションは黒羽一人で作ったはずなのにどういうことだろうと思う。黒羽に視線を向けると親指をグッと立て、私だけが見える角度で出してきた。
――アホか! 何が言いたいか分からないよ!
「最後か。アタシは宇志 梨穂。チャット名はSUM。TAIに興味があったから今日参加しただけだ。ヨロシク」
拍手。
これで今来ている全員の自己紹介が終わった。
「次ね。今のインベンションについての意見、疑問をどうぞ」
「はい!」
「綾切以外な」
「どうしてっ!?」
何か悪い事でもしたのかな? 私の意見は/聞いてくれないらしい。
「とりあえず現状のインベンションはどうなったんですか?」
マロンが手を挙げて質問した。こちらの質問は許可されるらしい。
黒羽が腕を組んで、答えた。
「消えました」
「全員知っている!」
私は余計な事は省けと黒羽に目で伝えた。
ただ、こちらを見むきもせず、彼はそのまま続けようとした。
「――バックアップもありますが、なにせ容量が大きすぎて、β版の期間が終わるころにサルベージ完了となってしまいます」
「では、どうされるおつもりで?」
口を開いたのはシダ―・ローズ。愛想笑いも浮かべず、真剣そのものだった。
「犯人が奪い取ったデータを根こそぎ返してもらいます」
「犯人が分からないんじゃ、それもできないでしょう」
「分かったので大丈夫です」
小屋にいた時もそんなことを言っていたが、本当に大丈夫なんだろうか。
「すぺーど、返せ」
「………」
すぺーどさんが犯人なのだろうか。彼は目を閉じ、だんまりを続け、じっとしている。
だが、口だけはすぐに動いた。
「いいよ」
「えっ!? 本当にインベンションを壊したのは貴方なの?」
すぺーどは苦笑して「はい」と言った。
「俺の唯一のフレンドは最初から裏切り者だったのさ。俺のゲームが他とは違うということをいち早く気付いて、参考のために奪ったんだろう?」
「なんでわかったんですか?」
「手段か? 簡単だ。今聞いて、初めて知った」
一気に沈黙した。私は半ば呆然とし、軽蔑を込めて黒羽を見た。
――ずるい!
勘で犯人当てをするとは、とんだ肝の据わり方だ。もし違ったらどうするつもりだったのか気になるところである。
「目星はつけていたが、半分は勘だ。残りの半分も素性を調べて、マロンの話を聞いたら、何となく違和感があったっていうだけだ」
「違和感、か。細工がばれたのかな?」
「細工か。工作じゃないか? 細工って言ったら、お前が本物の感情を隠していたことくらいだろ」
「どういうこと?」
話があまりにも急展開すぎて、ついていけなくなりそうだったから思わず口を挟んでしまった。
「こいつ、俺の作った輪に細工して、偽物の感情でもアバターに反映されるようにしたんだ。嘘をついても怪しまれないようにな」
唖然とした。すぺーどの技術力についてもそうだが、黒羽の言い切り方もすごい。ブラフのはずなのに妙に説得力があるというのか、本当の事にしか聞こえない。
話術が得意なのだろうか。
――あっ。そうか。黒羽はこうやって昔に人を騙して金を奪い取ってたのか
黒羽の過去は黒歴史ともいえる犯罪だらけのものだった。だから、詐欺みたいに人を騙すことには慣れているのかもしれない。
そうなると、彼は小屋で私を騙したという可能性も自然と浮上するわけだが、今は目先の事に集中する。
「よくわかりましたね。どうやって調べたのか気になりますが褒めておくよ」
「そうか。じゃあ、元に戻せよ」
「いいですよ。コピーも取りましたし。我が社の参考のためだけですから」
「あと、妨害工作な。裁判ものだぞ。勝手にコピーしたり、盗ったりしやがって」
「いいじゃないですか。どうせ世界中に公開する予定だったんでしょ」
私は目を見開いた。まさか、インベンションが世界レベルの技術だったとは。よく考えれば、偉人にでもなれるほど革新的なものだ。TAIにしても同様だろう。全部、歴史ものの技術、発明だったということだ。
私は誇らしい気持ちになった。自分の事ではないが、それでも誇れるものだ。
黒羽の近くにいることが出来て、彼の夢を手伝い、世界に名を轟かせるような仕事をする。何も知らずに決めた私だが、胸を張れる。
「だが、妨害と先取りは言い訳にならないぞ」
「こうしましょう。情報操作で貴方の個人情報を守り、なおかつ僕が犯人だという告白をする」
「賠償くらいしろ」
「それは後ほどです」
犯人探しはあっという間に終わってしまった。私は混乱のしすぎで頭から煙が出そうだ。
他の人も私と同様かと思いきや、見渡すと誰も動揺していない。
マロンさえもだ。なぜか私以外の全員、大物の器を持っているような気がした。
「ほか~」
黒羽が話を進めた。簡単に片付けているような気がするが、いいのだろうか。
本人は全く気にした様子もないが、私は心配でしょうがない。
――おばさんくさいかな?
今まで私は他人がどう思っていようがどうでもよかったはずだが、今は違った。
「ハイ。TAIも公開すンのか?」
次の質問はSUMさんの口からだった。
「ああ。この夏が終わったら、歴史レベルのビッグニュースがでているだろうよ。流石に理屈や作り方は当分先の話になるがな。支援金でTAIを延命するためにも必ず公開する」
「そうか。今のTAIは短命だったな。……アタシに一人譲ってくれないか? どうにかしたい。アタシはこう見えてもシステム設計に強いからな」
黒羽が「ほ~」と感嘆の声をあげた。彼でさえも知らなかったことらしい。
「一応聞いておこう。誰がいいんだ?」
「『クリス』」
「いいよ。クリスが承諾するなら」
二つ返事で重大なことを決めてしまった。
黒羽はあの歪な携帯電話をとりだしすと、ボタンを押して耳の近くに持っていった。クリスにコールをするらしい。
「ワシだ。主人か?」
「そうだ。クリス。SUMっていうユーザー知ってるか?」
「おお、知ってるも何も仲のいいユーザーの一人ぞ」
「そいつがお前を預かりたいのだとよ」
「主人はいいのか? 管理も大変なはずだから信用できる人にしか託せないはずじゃが?」
「ああ。信用うんぬんは抜きだ。お前がいいなら別にいい」
「そうじゃな………いいぞよ」
快諾したみたいだ。クリスというTAIは話したことも見たこともないが、話の分かるおじいさん? らしい。声は女の声のような気がするのだが、話し方がジジイだ。
話が終わると、黒羽は携帯の電源を切って懐にしまいこむ。
「ということだ。プラグを郵送で送っておくから準備しておけよ」
「なめんなよ? 金もPCの容量もたんまりあるからな」
口の端をにっとあげて笑っている。ヤンキーみたいで怖い。
どうやったらクリスと彼女が意気投合できるのだろうか。気になるところだ。どちらかというとキルトのほうが合いそう。
「他は~?」
「はーい」
私は元気よく手を挙げた。
「……他の人はどうだ?」
ガン無視された。いつでも聞いてやるから後にしろということなのだろうか。それにしても、あまりにも扱いが雑のような気がする。
「和菓子をお持ちに上がりました」
私がガーリックライスを頼んでいた時とは違うお姉さんがきた。ここでお菓子タイム到来。タイミングを窺っていたのではないだろうかと思ってしまう。
黒羽は目を輝かせて喜んでいるし、マロンは「ちょうど糖分がほしかったの」と言ってる。他三人は休憩がてらいいかな、みたいな顔をしている。
私はお腹が満たされているので食べれない。残すのも私のもったいない精神にはんするので、黒羽に半分譲っておく。
「さっき食べたからいらないってか?」
「そうよ。文句ある?」
「いや」
彼は優しく微笑んで、受け取ってくれた。なぜそんな顔をするのか分からない。
彼のそんな顔を見ると落ち着かなくなるのでやめてほしい。
「キモイ」
「酷いな。せっかくもらってやったのに。返却するぞ」
「返却期間は二秒前に終了致しました。つきましては自己責任でお願いします。ピー」
機械音声の真似をして言ってやった。
「ん? みんなどうした」
視線が私に集中し始めていたので尋ねてみた。
「いや~。仲いいんですね?」
マロンがにやにやしている。よくみると、他の人も意地悪く笑っていた。
「仲いいっていうか、コイツの唯一の協力者たる私はいじめるのも殴るのも自由なだけよ? 特別じゃないわ」
シダ―・ローズの目が細くなった。なめまわすように私を見ている。
「どうかしたの? シダ―・ローズ」
「いや……協力者って……ユースケ。どういうことですか? 私の時は断ったのに」
「どうもない。俺が決めただけだ」
シダ―・ローズは唸り声をあげて威嚇している。犬みたいだ。
「断ったって?」
「お前に話してないが……松原は俺の研究仲間だった時がある。利害が一致しただけの仲間だったがな」
研究ということは製作自体は手伝っていないらしい。黒羽はどうでもよさそうに和菓子を食べている。和菓子と言っても甘納豆のみだが。
「なんか思いのほか話が決まったな」
黒羽が独り言を呟いた。予想外だったらしい。てっきり予測の範疇だみたいな感じかと思っていたが、そうじゃないようだ。
「意外?」
「そうだな。話すこと話したし」
『マスター』の個人情報流出の犯人は分からなかったが、すぺーどがどうにかしてくれるらしいので議論まで持っていくつもりはないようだ。
こうしてインベンション支持派による短いお茶会は閉会した。
私は別れ際、マロンと連絡先や住所を交換して黒羽と一緒に立ち去った。




