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魔導具溢れる職人・商人の街。工房で働く人達はクセが強い

食材探しはしばらくできなくなりました。

代わりにこんな日があってもいいかなと。

ミストヴェイルの森での一件は、勇斗の日常に大きな影を落とした。

外出許可は一時的に取り消され、訓練場での地道な基礎訓練が彼の日課となった。


セレス率いる第二中隊が森の調査に赴いており、同行したミーナが不在のため、真理も自主訓練か座学に専念している。


そんなある日、ミュリエルが「見せたいものがある」と、ぽつりと呟いた。

場所は王都の南地区――職人と商人の街だという。


絶好の機会だと、勇斗は壊れたナイフを布に包んで鞄に忍ばせた。

街では勇者としての身元を隠すため、例の騒動を逆手にとって“ボウズ”の愛称で通すことになっていた。


「ボウズ様、見てください! すごい、露店がいっぱいです! あの鍋、中に仕切りが……なるほど、一度に二種類作れるんですね! こっちの道具は……!」


石畳の大通りに出た途端、リアナが目を輝かせた。

店頭に並ぶ目新しい調理器具に心を奪われ、まるで初めて遊園地に来た子供のように駆け回る。


その熱気に反して、ミュリエルは人波を気にも留めず、通りの真ん中を淡々と目的地へ向かって歩いていた。


大通りには、伝統工芸と魔道具が融合した品々が所狭しと並び、活気に満ちている。

店員たちの威勢の良い声、客の喧騒、そしてどこかの工房から響くリズミカルな槌の音。


人族だけでなく、屈強な獣人や、背に翼を持つ翼人の姿も珍しくない。

異世界ならではの光景に、勇斗は「やっぱり、ここは違う世界なんだな」と呟き、その全てを目に焼き付けた。


目移りするリアナをなだめすかし、一行はミュリエルが指し示した一軒の店の前にたどり着く。

看板には“アークフレイム工房”と刻まれていた。


木材と魔導金属を組み合わせた二階建ての立派な建物で、煙突から立ち上る煙や、外装の焦げ跡が、職人たちの息遣いを伝えているようだった。


店内は整理整頓されており、カウンター周りにはここで作られたであろう魔導調理器具が、精巧な設計図と共に展示されている。

数人の客に、一人の女性店員がにこやかに対応していた。


「リゼ」


ミュリエルの呼びかけに、女性がぱっと顔を上げた。


「ミュリ!」


リゼと呼ばれた女性は接客を中断すると、満面の笑みでミュリエルに駆け寄り、力いっぱい抱きしめた。

露骨に嫌がるミュリエルと、追いすがるリゼ。


微笑ましい再会をしばらく見守っていると、リゼは息を切らしながら「ちょっと待っててね!」と言い残し、二回へ駆け上がると少年を連れて戻ってきた。

女性の接客を少年に任せると、彼女は改めてこちらにやって来た。


「リゼット・ファルマ。この工房で設計士をやってます。ミュリとは技術講習で知り合って以来の仲なの。以後、お見知りおきを!」


リゼットは優雅にお辞儀をすると、一行を二階の工房へと案内した。

工房にはもう一人、中年男性が黙々と作業に打ち込んでいる。


「彼はエルド。無口だけど腕は確かなの。あ、下にいたのは見習いのテオ。あの子、物覚えが良いから、すぐ戦力になると思う」


リゼットが「エルド、お得意様よ!」と声をかけると、男は一度こちらを振り、無言で会釈してすぐに作業へ戻った。

「いつもあんな感じ」とリゼットは笑う。


工房の一角に、大きな布で覆われたテーブルがあった。

リゼットとミュリエルはリアナの両腕を掴み、半ば強引にその前へと連れて行く。


「ジャジャーン!」


リゼットが勢いよく布を剥がすと、三つの真新しい調理器具が姿を現した。


「えっ……何ですかコレ! すごく立派な……!」


リアナが驚きの声を上げる。

リゼットは満足げに頷き、一つずつ誇らしげに説明を始めた。


「こっちは魔物や野草から旨味だけを抽出する“魔導抽出器”。こっちは精密な温度管理ができる“魔導温調鍋”。そして、素材を繊維や油分ごとに分離できる“魔導分離盤”よ!」


目を輝かせるリアナの前で、リゼットはミュリエルの手を引き、器具の上にそっとかざした。


「これ全部、ミュリのアイデアから生まれたの! はい、拍手!」


リゼットが笑顔で手を叩くと、つられて勇斗たち、そしてエルドまでもが拍手を送った。

ミュリエルは照れくさそうに小さく頷き、リアナに向き直る。


「これで、リアナ……美味しい料理、たくさん作れる」


その言葉に、リアナの瞳に涙が浮かぶ。

彼女は感極まったようにミュリエルを力強く抱きしめた。


リアナの胸の中で、ミュリエルは安らかな笑みを浮かべていた。


◇


リアナとミュリエルがリゼットと調理器具談議に花を咲かせる中、勇斗は黙々と作業を続けるエルドに声をかけた。


「お騒がせしてすみません。それと、少しご相談が……武器の修繕は可能でしょうか?」


エルドは手を止め、勇斗を一瞥する。


「うちは専門外だ。武器なら“エルディア工房”をあたるといい。値は張るが、腕は確かだ。ここより更に奥まった場所にある」


勇斗は礼を言うと、真理とエリスを伴って工房を後にした。


教えられた通り職人街の奥へ進むと、ひときわ目を引く建物が見えてきた。

白銀の金属と黒檀の木材が織りなすシックな外装に、王国の紋章が掲げられている。


貴族の屋敷のような威厳に気圧されながらも、勇斗は重厚な扉を押し開いた。


店内は静寂に包まれ、ショーケースに武具や工具が美術品のように並んでいた。

場違いな空気に足がすくんだその時、奥から金髪おかっぱ頭の男が現れ、追い払うように手を振った。


「おいおい、庶民が来る店じゃねぇんだよ。とっとと帰りな」


その侮蔑的な態度に、真理が眉を吊り上げ、エリスの腕から微かな金属音が響く。


(まずいな、ここは穏便に済ませないと)


勇斗は二人を制し、一歩前に出た。

「武器の修繕をお願いしたくて」と丁寧に告げ、金貨を一枚差し出す。


男――レオンは金貨をひったくると、値踏みするような視線を向けた。


「ふん、修繕する価値のある武器を持ってるのかねぇ?」


勇斗が鞄からナイフを取り出すと、レオンは腹を抱えて笑い出した。


「なんだこりゃ、ただの鉄くずじゃねぇか! 捨てて新しいのを買えよ。例えばこれだ、“ダスク・ファング”。特別に金貨三枚で譲ってやる」


レオンが突き出した漆黒のナイフに、真理が目を輝かせる。

だが、勇斗が購入を決めようとした、その瞬間だった。


「お待ちください、ボウズ様」


エリスが勇斗の手を掴み、レオンを鋭く睨みつけた。


「そのナイフはダスク・ファングではありません」


「はあ? 何言ってやがる!」


逆上したレオンがナイフを突きつける。

しかしエリスは動じず、一歩踏み出すと、こともなげにその刃を素手で握りしめた。


「ピピッ……魔力波形解析、開始。波長、ブルー。この魔光石は緑色に偽装された青石。魔力伝導率、二十パーセント未満。刃の素材も黒鋼ではありません」


淡々と告げられる診断結果に、レオンの顔がみるみる赤く染まっていく。


「ふざけるな! 出て行け!」


レオンがナイフを引いた瞬間、エリスが手を離す。

バランスを崩して尻餅をついた拍子に、ナイフが床を滑っていった。


その時、二階から白髪の老人と若い女性が降りてくる。


「レオン、一体何の騒ぎだ」


老人の低い声に、レオンの肩が震えた。


◇


言い訳も虚しく、レオンの不正はすぐに暴かれた。

彼が客に売りつけようとしたのは、銀貨五枚程度の量産品を偽装したものだったのだ。


工房の主であるゼルヴァ・エルディアは、レオンに即刻解雇を言い渡した。


「覚えてろよ、ボウズ! この屈辱、絶対に忘れねぇ!」


捨て台詞を吐いて去っていこうとするレオンに真理が「金貨を返しなさい!」と叫び、投げ返された金貨をエリスがノールックでキャッチする一幕もあったが、店内にはようやく静けさが戻った。


ゼルヴァと助手のカリナに二階の工房へ案内された勇斗は、改めてナイフの修繕を依頼する。

グラントモグラとの戦闘でぐにゃりと曲がったナイフを見て、二人は驚愕の表情を浮かべた。


「信じられん……あの硬質な外皮の魔獣を……」


「ボウズ殿は相当な腕前と見た。これは久々に腕が鳴る仕事だ」


ゼルヴァは嬉そうに言い、修繕を快く引き受けてくれた。

さらに、カリナは勇斗の魔力を詳しく調べるため、巨大な“魔力波形解析”装置の前に彼を導いた。


「ここに手をかざして」


言われるがまま水晶に手を置くと、装置の魔光石が明滅を始める。

しばらくして光が収まると、カリナが困ったような顔で結果を告げた。


「不規則な波形ね。最大値が乱れて正確に測れない。ランク三から四の間……あなたの戦い方に合わせて、最適な素材を検討してみるわ」


◇


エルディア工房を後にし、一行はアークフレイム工房へと戻った。

店内では見習いのテオが一人で店番をしている。


リアナたちはまだ二階で話し込んでいるらしい。


勇斗たちが待っている間、テオは自身の過去を語ってくれた。

貧しい家族を助けたくて料理人を目指したが挫折し、リゼットに拾われたこと。


そして今は、彼女への恩返しも込めて「魔導調理器具技師」になるのが目標だと、彼は明るい笑顔で締めくくった。


ちょうどその時、階段からリアナたちの楽しげな声が聞こえてくる。

別れの挨拶を済ませ、一行が工房を出た直後のことだった。


「きゃっ!?」


「おっと、すまない!」


角から飛び出してきた軽装の男とリアナが、危うく衝突しかけた。

男が素早く身をかわしたおかげで、大事には至らなかった。


「怪我はねぇかい、お嬢さん?」


男が心配そうに声をかける。

その足元に、赤い宝石の耳飾りが落ちているのを勇斗が見つけた。


「ああ、そいつはあっしの作った商品でして、すいやせんねぇ旦那」


男が帽子を取ると、尖った耳が覗く。

彼はグレイヴと名乗り、この辺りで露店を出している商人だと言った。


「ああ、そいつはお嬢さんに差し上げやす。あっしの不注意で怖い思いをさせちまったお詫びでさ」


グレイヴはそう言って、耳飾りをリアナの手に乗せた。

困惑するリアナに、彼は悪戯っぽく笑いかける。


「実はもっと高価な物もあるんでね。もし興味がおありなら、今度、寄っていってくださればそれで十分でさ、ねぇ旦那」


グレイヴの視線が、すっと勇斗に向けられる。

その目に宿る、単なる商人ではない鋭い光を、勇斗は見逃さなかった。


「……ああ、必ず寄らせてもらうよ」


「お待ちしておりやす」と言い残し、グレイヴは人混みの中へ素早く消えていった。


「勇斗様、本当に良かったのでしょうか……」


不安げなリアナに、勇斗は微笑みかける。


「きっと、客引きの手口なんだろ。さっそくつけてみたらどう?」


促され、リアナははにかみながら耳飾りをそっと右耳にあてる。

夕暮れの光が彼女の栗色の髪を照らし、赤い宝石がきらりと輝いた。


「……どう、ですか?」


「ああ、よく似合ってる」


勇斗の言葉に、リアナは満面の笑みを浮かべた。


その後ろでは、勇斗の両袖をミュリエルと真理がふくれっ面で引っ張っている。

夕日に伸びる三人の影が、まるで鬼に捕まった小人のように揺れていた。


少し離れた場所からその光景を眺めていたエリスが、誰にともなく静かに呟く。


「記憶保存……転送、完了」


エリスの目にはこの光景がどのように映っているのだろう。

リアナ、エリスの話をしたので、ミュリエルの活躍の場も考え中なんですが、なにかやらかすと思うんですよね、彼女は。そういう抜けた部分がイザベルを怒らせるんだと思います。

そうなると、旅に出てからの方が面白そうだな。例えば、盗賊団のアジトとかで。森の中にアジト作るか。


次回は、勇斗、死んだ魚のような目で現実逃避の術式発動!です。お楽しみに。

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