偽りの平和の終焉。魔族が乱入し荒れる五国会談でクラウスがまさかの発言!
リアナとマジョルカの無事が気になると思いますが、話を先に進めます。
セントリア連合の招集が告げられたのは、先代魔王バル・ザグルが討伐され、停戦協定が結ばれてから実に四百八十年後のこと。それは、誰もが予想し得なかった異例の出来事であった。
ある国の王は玉座で眉間に深い皺を刻み、別の国の代表は決意を宿した鋭い眼差しを放つ。商機を嗅ぎ取り口角を上げる者もいれば、ただ静かに時の到来を待つ者もいた。
様々な思惑が渦巻き、アストラル大陸の均衡は確かに揺らぎ始めていた。
天上の玉座では、神々が黙してその行く末を見つめる。均衡が崩れぬようにと祈る女神がいる一方で、ただ一柱、戦の神ヴァル=ゼルスのみが腕を組み、僅かに口角を吊り上げていた。その笑みは、戦乱の匂いを嗅ぎ取った獣のようでもあった。そして、そこにあるべき好奇心の神の姿はなかった。
◇
「これより、五国会談を開催することを宣言いたします」
荘厳な会議室に、クラウスの静かな声が響き渡った。磨き抜かれた大理石の床には五国の紋章が刻まれ、天井から吊るされた巨大な魔導シャンデリアが柔らかな光を落としている。一瞬で静まり返った場内にて、各国の重鎮たちの視線が一斉に前方へと注がれた。
「本会談の議長は、ルミナ王国国王、ルシアス陛下であられる」
紹介を受け、ルシアス王はゆるやかに立ち上がる。会場を見渡すその眼差しは静かでありながら、確かな威厳を帯びていた。
「諸君、よくぞ集ってくれた。感謝する」
王は軽く頭を下げ、言葉を紡ぐ。
「我らがこうして一堂に会するのは、実に四百八十年ぶりのことだ。歴史を遡れば、五百年前、我らは魔人戦争という未曾有の災厄を経験した。大陸を焼き、国を滅ぼし、数え切れぬ命を奪ったあの戦争は、我々に“二度と繰り返してはならぬ”という教訓を残した。平和とは、ただ与えられるものではない。守り続け、選び続けねばならぬ“意志”なのだ」
ルシアス王は拳を強く握りしめる。
「しかし今、その平和が揺らぎつつある。各地で魔獣の異常発生が報告され、不穏な影が差している。――ミストヴェイルの森で発見された“魔道具”。その符紋は、我らの知るどの体系にも属さぬものだ。何者かが、裏で平和を脅かそうとしている可能性がある」
王はエルダリア公国の代表へ視線を向けた。
「ゆえに、エルダリア公国に正式に依頼したい。魔道具に刻まれた符紋の鑑定を。古代魔術に最も精通する貴国の知識なくして、この謎は解けぬ。我らは今、歴史の岐路に立っている。共に、この大陸の平和を守ろうではないか」
ルシアス王が静かに腰を下ろすと、会議室には誰もが王の言葉の重さを噛みしめるような深い沈黙が落ちた。
その静寂を破り、重厚な扉がゆっくりと開く。現れたのは、深紅の外套を翻すアルヴェリオだ。彼の腕には、青布に包まれた細長い包みが抱えられている。彼は王の脇にある飾り棚へそれをそっと置くと、布をめくった。金属片を寄せ集めて復元された筒状の魔道具が姿を現す。焦げた符紋が浮かび上がり、時折、淡い光が脈打つように瞬いた。
「――できうる限り復元いたしました。実物は三十センチほどの長さで、地面へ“くさび”のように打ち込まれていたとの報告です」
アルヴェリオの静かな説明に、場がざわつく。その中で、ドワーフ族の鍛冶卿トルヴィンが真っ先に進み出て、拡大鏡をかざした。だが、その前にエルフの一人が影を落とす。
「あなたでは解読できぬでしょう。下がりなさい」
冷ややかな声にトルヴィンは唸るが、反論はしない。代わって進み出たのは、エルダリア公国の大賢者、レノ・ウィズリ。長い白髪を三つ編みにした老エルフだ。彼女が焦げた符紋に指先をかざすと、会議室は再び静寂に包まれた。
「……これは、古代語〈ヴェル=アーク〉だな」
レノは符紋の一部をなぞり、低く重々しい声で読み上げた。
「――《ガル・ヴォル=ラグナ》。意味は“力を呼び起こせ”。地中に眠る魔力を増幅し、周囲へ放つための起動句だ。そしてこちらは――《ドレア・ヴァル=グロス》。“破壊へ向かえ”。魔獣のような低位存在に対し、単純な命令を送るための符文。魔族の術式に似ているが……これはもっと古い。原初の符紋体系だ」
ざわめきが広がる。
「この魔道具は、地中に打ち込むことで魔力を増幅させ、周囲の魔獣に“目覚めよ、破壊せよ”と命じる。……各地で起きている魔獣騒動の原因は、これだろう」
「つまり、魔族の仕業では……無いのか?」
ルシアス王の戸惑いを帯びた問いに、レノは迷いなく頷いた。
「真の術者は、もっと別の……古き影。これは魔族の仕業に“見せかける”ために作られている」
その言葉は、会議室に火種を投げ込んだ。喧騒が広がる中、ドンッ!と重い音が響く。ドワーフのグラント皇帝が分厚い拳をテーブルに叩きつけたのだ。
「誰が仕掛けたかは問題じゃねぇ! 結果、この世界の均衡を乱す元凶を断つしかねぇだろうが!」
「その“元凶”が不明だと言うのです。牙を剥く前に、どう対応すべきかを議論するのが先でしょう」
ティアナ公女が静かに異を唱える。一触即発の空気が流れるが、ルシアス王の鋭い声と、水の精霊がもたらした冷水によって、かろうじて場の秩序は保たれた。
議論は難航を極めた。各国がそれぞれの立場から意見を述べるが、収束する気配はない。
その時、会議室の扉が音もなく開いた。
「これは皆様、ご機嫌よう。勝手に失礼いたしますよ」
柔らかい口調とは裏腹に、空気を凍らせるような威圧感を纏い、三人の魔族が姿を現した。バルザム卿、ドレイヴァス、そしてベルグラント。魔族の強行派として知られる者たちだった。
「いやはや、実に興味深い議題が進んでいると聞きましてね。我らも“魔族の代表”として、ぜひ参加させていただこうかと」
予告なき乱入に、重鎮たちの表情が一斉に強張る。急遽設けられた席にバルザム卿が腰を下ろすと、ルシアス王は慎重に口を開いた。
「遠路はるばるご苦労。……ところで、セドリック殿やフェルミナ殿の姿が見えぬようだが」
穏健派として知られる二人の名を挙げた王に、バルザム卿は卑屈に笑う。
「色々ありましてな。今日のところはこの者たちでご満足を。さて……」
グラント皇帝が椅子を軋ませて立ち上がった。
「単刀直入に聞く。そこにある魔道具は貴殿らの仕業か?」
「いいえ。それは先ほど結論が出たはずでは?」
バルザム卿が肩をすくめると、皇帝は今度はティアナ公女を指差した。
「貴殿が魔族と結託しているかもしれんぞ! なぜそこまで奴らに加担する!」
その無礼な言葉に、ティアナ公女は静かに立ち上がった。
「私たちは常に中立。ですが、その発言は看過できません。我々は失礼させていただきます。もし会合を続けたいのであれば、まずその方をどうにかしてくださらないと」
凜とした声で言い放ち、ティアナ公女は側近を従え、エルダリア公国の誇りを背に会議室を後にした。
その機を逃さず、バルザム卿が口を開く。
「いやはや、残念ですな。しかし、我らの領地でも由々しき事態が起きておりまして。どうやらドワーフが魔族の子供を拉致したらしいのです。これは一体、どういう事でしょうか?」
視線が一斉にグラント皇帝へ注がれる。皇帝は「知らん!」と叫ぶが、その時、ギルガメッシュ総督が静かに訂正した。
「それは魔人の仕業であった。ルミナ王国のボウズ殿と、ノルディア帝国のレジーヌ殿が解決したそうだ」
「ボウズ殿が……?」「レジーヌだと?」とルシアス王とグラント皇帝が驚きの声を上げる。総督が事の顛末を説明すると、バルザム卿は一度目を閉じ、やがてゆっくりと頭を下げた。
「そうでしたか。これは皇帝にあらぬ疑いをかけてしまい、申し訳なかった」
張り詰めた空気が交錯する中、ルシアス王はクラウスへ視線を送った。合図を受け、クラウスは場に響く声を上げる。
「我らルミナ王国では勇者召喚の儀を行い、召喚に応じられた御方こそが、総督の仰る者――ボウズとは仮の名、正式にはユウト様であります」
「な……!」
その場にいた誰もが虚を突かれたように固まる中、ルシアス王と宰相ガルディアスだけが、露骨な驚愕の表情を浮かべていた。
「き、急に何を言い出すのだ、クラウス!」
慌てふためく王とは対照的に、クラウスは冷静に事実を並べ立てる。そして、こう締めくくった。
「責任者として、この事実を皆様にご報告する義務があると考えました」
「それはつまり――停戦協定違反という解釈でよろしいですかな?」
バルザム卿が歓喜を隠しきれない笑みで問う。クラウスは無表情のまま、静かに肯定した。
会議室は凍りついたように沈黙した。誰もが言葉を失い、ただ事態の重さだけが空気を押し潰す。
その静寂を破ったのは、黒衣の参謀ドレイヴァスだった。
「では――我ら魔族は、停戦協定より離脱させていただきましょう」
その一言は、宣告というより“処刑”に近かった。バルザム卿は満足げに微笑み、ベルグラントは冷たい視線を残し、魔族の一団は音もなく会議室を去っていく。
残されたルシアス王は、ただ愕然と立ち尽くすしかなかった。秘密裏にしていた勇者召喚が、最も信頼していたはずの側近によって暴露され、魔族に戦争再開の絶好の口実を与えてしまったのだから。
思わぬ刺客が現れました。勇斗の立場が一気に苦しくなります。しかし魔族が戦争を仕掛けてくる今、勇斗の力は必須です。この状況下に勇斗はどう対応するべきか。いずれその決断を迫られる日が来るでしょう。玲奈の話も続きを考えねばなりません。どこでどうやって再開するのか。それは果たされるのか。そこが悩んでいるポイントでもあります。
どう転がすべきか、AIに何度も問い掛けています。意外な発想、意外な展開、何かあるかなぁ。




