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幻鋼の真実と伝説の鍛冶師。ドワーフは職人て相場が決まってるんだよ!

戦いが終わり、復興に動き出す街。意外な人物が勇斗の前に現れます。

ゼファンからの要請により、リアナの付き添いのもとマジョルカがギルドで事情聴取を受けることになり、勇斗たちはしばらく街に足止めされることになった。


滞在中の宿は、初日に騒ぎを起こした『星影(ほしかげ)』へと移された。恐縮する勇斗に対し、店主のスイ・レンブラントは嫌な顔ひとつせず、「街の英雄」として一行を温かく迎え入れてくれた。その裏でゼファンは、闇市問題とも絡み合う冒険者たちの身辺調査に奔走していたが、作業は難航を極めているようだった。


数日後、勇斗、真理、ミュリエル、そしてレジーヌに魔人討伐の功績が認められ、特別なギルドカードを授与されるため連邦議事堂へと招かれた。


通された<蒼穹(そうきゅう)の間>は、その名の通り、高い天井に嵌め込まれた青と銀のモザイクガラスから光が降り注ぎ、まるで空の下にいるかのような錯覚を覚える空間だった。黒曜石と白大理石の床には連邦の紋章が刻まれ、壁には各小国の旗が飾られている。荘厳でありながらどこか張り詰めた空気は、ここが外交という名の戦場であることを肌で感じさせた。


玉座に腰掛けていたのは、鷹を思わせる鋭い眼光の鳥型亜人――イーストバニア連邦総督、ギルガメッシュその人だった。銀糸を織り込んだ黒い軍服を纏い、背にした漆黒の翼が威厳を放っている。


「ボウズ殿。この度は街を魔人の脅威から救っていただき、心から感謝する」


厳かに始まった式典で、総督は勇斗たちの功績を称えた。


「我らはルミナ王国とも縁が深い。貴殿の活躍は、両国の良き架け橋となるだろう。このギルガメッシュの名において、連邦全土が貴殿の旅に助力することを約束する。益々の活躍を期待している」


総督の言葉に、勇斗たちは静かに頭を下げた。


その後、晩餐の席へと案内されると、色彩豊かな料理が次々と運ばれてくる。その傍らには、狐型、獅子型、鳥型の亜人である三人の側近たちが静かに控えていた。


「レジーヌ殿はノルディア帝国の勇者であったか。それは頼もしい。しかし、ゼファンからは魔人を討ったのはボウズ殿と聞いているが……」


黒羽鶏のローストを味わいながら、総督が首を傾げる。その横では獅子型亜人のクレオが獅子肉のグリルに豪快にかぶりつき、狐型亜人のフォクスは狐豆腐の包み焼きを上品に口へ運んでいた。

その光景を見ていたミュリエルが、ぽつりと呟く。


「――共食い」


「「ぶっ!」」


勇斗とレジーヌは、飲んでいたスープを盛大に吹き出した。クレオの豪胆な笑い声が響き、フォクスはすまし顔で口元を拭う。側近のチトセはくすくすと笑いをこらえ、総督だけは気にする素振りも見せず、淡々と食事を続けていた。


「こら、ミュリエル!」


勇斗が小声で諭すが、当の本人はどこ吹く風で銀葡萄を頬張っている。

その時、レジーヌがすっくと立ち上がり、輝く頭を深々と下げて宣言した。


「総督のおっしゃる通り! 私はボウズ様に比べればまだ若輩者。今後は弟子として師をお支えし、この世界の平和を守り抜く所存です!」


その答えに、総督は満足げに甲高い声で鳴いた。勇斗は顔を引きつらせながらも、なんとかその場を乗り切ったのだった。


◇


その夜、宿の部屋で寛いでいると、従業員のフィリーナが来訪を告げた。普段の快活な彼女から笑顔が消えていることに、勇斗はいぶかしんだ。


ホールへ降りると、そこに立っていたのは背の低い二人のドワーフだった。ひとりは黒鉄の鎧に身を包み、憔悴しきった様子のムスカ。そしてもうひとりは――。


杖を突き、編み込まれた長い白髪。煤に焼かれたように黒ずんだ肌。片目だけが鉄の義眼だろうか、鈍い光沢を放っている。その鋭い眼差しに、場の空気がぴりりと引き締まった。


「私がムスカの祖父、ムアールと申す。この度は愚孫が大変なご迷惑をおかけした。代わってお詫びいたす」


ソファに腰を下ろすなり、老ドワーフは深く頭を下げた。隣のムスカも、一層体を小さくして頭を垂れる。


「いえ、顔を上げてください! ムスカさんのせいじゃ……」


勇斗が慌てて否定するが、ムアールは「一族の恥だ」と吐き捨て、杖でムスカの頭を軽く小突いた。


「我らの一族は、代々鉄と共に生きてきた鍛冶師。孫は別の道を選んだが……その果てがこの騒ぎ。ボウズ様が真実を暴いてくださらねば、一族は永劫の汚名を背負うところだった」


杖を握る手に力がこもる。幾多の古傷が刻まれたその手は、彼が生きてきた歴史そのものだった。


「今回の事件は、ヴァルターという魔人が起こした卑劣なものです。ムスカさんは何も悪くない。それに、もし俺がいなくても、誰も彼を犯人だとは信じなかったでしょう。仲間から信頼される、立派な冒険者ですから。……鍛冶師にはなれなかったかもしれない。ですが、お孫さんを連邦一の冒険者として、胸を張ってやってください」


勇斗は穏やかな眼差しをムスカへ向けた。ムスカはそっと瞼を閉じ、手で顔を覆う。その肩が、かすかに震えていた。ムアールもまた、天を仰いでぐっと涙をこらえているようだった。


「ボウズ様……このご恩、命に代えても。……ところで一つ、伺いたい。幻鋼の情報をお探しだとか。その理由、お聞かせ願えんだろうか」


ムアールの眼光が変わる。それは孫を想う祖父のものではなく、素材の本質を見極めんとする、職人の目だった。


勇斗は、ごくりと息を呑んだ。クラウスからは他言無用と釘を刺されている。だが、この男の目を見ればわかる。この人に嘘はつけない。そして、この人ならば――。


覚悟を決め、勇斗は短く息を吐いた。そして、自分がルミナ王国に召喚された勇者であること、そして損傷した武器を修復するために、伝説の金属「幻鋼(ファンタズマイト)」を求めていることを、静かに語り始めた。


話を聞き終えたムアールとムスカは、目を見開いたまま絶句していた。やがてムアールは、まるで魂を打ち込むかのように、ムスカの背を力強く叩いた。

目の覚めるような音が響き、ムスカの体がびくりと震える。それは衝撃ではなく、内から湧き上がる武者震いのようだった。


「あ、あの……このことは他言無用でお願いします。色々事情があるみたいなので」


重い空気を払うように勇斗が笑うと、二人はこわばった表情で深く頷いた。

ムアールは胸の内を鎮めるように息を吐き、一族に伝わる古の物語を紡ぎ始める。


それは、初代勇者の剣を鍛えた鍛冶師の話。彼は大量の魔鋼を用い、この世で最も優れた剣を生み出した。その製法は一子相伝の秘伝として、今も受け継がれているのだという。


「じゃあ、その鍛冶師なら幻鋼を……!」


「素材、場所、そして技術……すべてが揃えば、恐らくは」


その言葉に、勇斗の胸からすっと重荷が降りていくのを感じた。張りつめていた肩の力が抜け、自然と頬がゆるむ。暗闇の中に、確かな光が見えた瞬間だった。


ムアールはその変化を見逃さず、ムスカへ目で合図を送る。ムスカは一度視線を落とし、覚悟を決めるように息を吸い込むと、顔を上げた。


「俺が……俺に、やらせてください」


静かだが、鋼のような意志のこもった声だった。思わぬ申し出に、勇斗は目を丸くする。


「え? でもムスカさん、鍛冶師は諦めたんじゃ……」


「基礎は父から叩き込まれました。このご恩、鉄を打つことで返させてください」


その真剣な眼差しに、勇斗はムアールへと視線を移した。


「この孫には素質がある。ただ、幻鋼作りは途方もない根気と時間を要する。もはや私にその体力はなく、工房を継いだ息子にも余裕はない。ならば、この孫に託すのが最善と判断したまで」


ムアールは、再び力強くムスカの肩を叩いた。

その力強い眼差しと覚悟を前に、勇斗は圧倒されていた。だが、ただ頷くだけでは足りない。彼らの決意に応えなければ。


「……ありがとうございます。ムスカさん、ムアールさん。俺の武器を、お願いします」


勇斗は二人の目を見て、深く、深く頭を下げた。

幻鋼の話が続きますが、素材を集める話です。ムスカの頑張りの部分は……書かないと思います。

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