山の恵みと山賊「赤牙団」、錬金術師たちとの出会い
話は魔剣作りへと予定より斜めに進んできてます。
勇斗は秘めた思いを心に刻み、エルディア工房の門を叩く。
ゼルヴァに素材のことを相談すると、以前見せてくれた試作品が手渡された。
その名は“ヴェイル・リフォージ”。
“再鍛された帳”――静寂の刃が新たな力を得て蘇る、という意味が込められているという。
「よいか! 剣を振る時は慎重に。決して全力で振ってはならんぞ!」
「魔法の力を剣に込めれば強度も切れ味も増す。安定型を付けてあるから、多少力みすぎても耐えられる……はずだ」
ゼルヴァの忠告と、どこか不安げなカリナの言葉。
勇斗は力なく笑い、真理はそんな彼に「大丈夫!」とガッツポーズを送った。
リアナたちも誇らしげに頷き、仲間の新たな一歩を喜んでいる。
ルミナリアに戻り、クラウスにイーストバロニア連邦へ向かう旨を伝えると、彼は「ぜひ同行させてほしい」と申し出た。
他国との交渉役を担うつもりらしい。
そこまで大げさなことではないと説明したが、クラウスは「これもユウト様のため、ひいては王国のためです!」と頭を床にこすりつけて懇願され、断りきれなかった。
出発の朝。
幌馬車に荷物を積んでいると、大きな旅行鞄を抱えたイザベルが駆け寄ってきた。
「わたくしも行きますわ! 貴方たちにはきっと想像も出来ない困難が待ち構えているでしょう。楽しみですわ。オホホホ」
「イザベル様……」
「でもまあ……クラウス様一人では心配ですもの。わたくしが護衛してさしあげますわ!」
突然の申し出にクラウスは目を丸くしたが、イザベルはにやりと笑うと、いの一番に馬車へ乗り込んでプイッと横を向いてしまった。
結局、勇斗、真理、リアナ、ミュリエル、エリス、そしてイザベルとクラウスという大所帯での旅が始まった。
御者台で手綱を握るクラウスの横にぴたりと張り付いたイザベルの帽子が、揺れるたびに彼の顔をつつく。
その理不尽な攻撃に耐える執事の姿を馬車の中から覗き、勇斗は思わず苦笑した。
数時間後、一行の前に”ミストヴェイルの森”がその姿を現した。
今回は真理もリアナたちと談笑しており、馬車の揺れも気にならなかったようだ。
「ユウト様、今夜はあの湖畔にある監視小屋で野営となります」
クラウスが指差す先、森と湖の狭間に、木と石で組まれた櫓のような建屋が見えた。
先の一件を受け、ルミナ王国とグレイフォードが共同で築いた監視小屋だという。
到着すると、すでに数台の馬車が停まっており、旅人たちが野営の準備をしていた。
小屋の中に入ると見知った顔がこちらに気づく。
「ロルフさん、先日はお世話になりました」
勇斗が軽くお辞儀をすると、ロルフは笑顔で握手を返してくれた。
初めて顔を合わせるリアナたちを紹介し、彼からも常駐している兵士――大楯を背負う寡黙なダリウスと、気さくな偵察兵のシルヴィアを紹介される。
「ダリウス=ディレスです。ボウズ様のお噂は兼々」
「シルヴィア=ロレーヌです! グラントモグラをやっつけたって聞いて、どんな大男かと思ってました!」
どうやら勇斗の名前は“ボウズ”として、こちらにもしっかり共有されているらしい。
苦笑しつつ挨拶を済ませ、勇斗たちは他の人々から少し離れた場所にテントを張り始めた。
「勇斗さん、この前のリベンジ、しましょうよ!」
真理がミストヴェイルの森を指差し、目を輝かせる。
前回叶わなかった食材探しだ。
「そうだな。でも、深入りは禁物だ。真理は安全な食材の採取を。ミュリエルとエリスは俺の援護を頼む。危険を感じたらすぐに合図を出して」
「了解です!」
「ん」
「ピピッ。承知しました」
三人の頼もしい返事を受け、勇斗は麻袋を一つ手に、森へと足を踏み入れた。
ひんやりとした霧が肌を撫でる。
真理はまるで庭を散歩するかのように、次々とキノコや薬草を見つけていく。
「ルミナ茸にカリカリ草、これは……ミントリーファですね!」
異世界知識を遺憾なく発揮する彼女の後ろで、勇斗は周囲への警戒をしながら、採取したものを麻袋へ詰めていった。
袋が半分ほど膨らんだ頃、不意にエリスが警告を発した。
「警告。前方から大型の生体反応……高速で接近中」
ミュリエルが即座に杖を構える。
真理は集めた食材をそっと地面に置くと、信じられない速さで木を駆け登った。
森の奥から地響きが近づいてくる。
草木を薙ぎ倒し、甲高い咆哮を上げる巨体――ブロントボアだ。
「ブロントボアと確認。真っ直ぐ突進してきます」
「ユウト、私がやる」
周囲に青いオーラが漂い始め、詠唱を始めるミュリエル。
だが、ブロントボアの巨体が迫る。
(危ない!)
勇斗は咄嗟に前に躍り出て、ミュリエルを庇うようにヴェイル・リフォージを構えた。
ゼルヴァの言葉が脳裏をよぎる――『決して全力で振ってはならんぞ!』
(全力じゃない。受け止めるだけだ!)
剣に意識を集中させると、魔光石が青い光を放つ。
柄を通して、温かい力が腕に流れ込んできた。
ドンッ!という鈍い衝撃。
ブロントボアの牙が、光を纏った剣によって弾かれる。
巨体は体勢を崩し、その動きが一瞬止まった。
「よし!」
「“静眠の紋”!」
勇斗が稼いだ好機を逃さず、ミュリエルの魔法が展開する。
青く光る三重の魔方陣がブロントボアを包み込み、巨体は白目をむいて地面に倒れ込んだ。
そこへ、木の上から真理が音も無く舞い降りる。
両手で握ったナイフが、ブロントボアの急所に深く突き刺さり、森に静寂が戻った。
麻袋いっぱいの食材と、丸々一頭の獲物。
野営地に戻ると、リアナとクラウスが感嘆の声を上げた。
「野蛮ですわね」
イザベルは丸太の椅子に腰掛けたままキセルをふかすが、その口元から笑みがこぼれる。
その夜は、ブロントボアの肉を使った滋養たっぷりの猪鍋を囲んだ。
シルヴィアやダリウス、旅人たちにもお裾分けし、焚き火の周りには賑やかな輪ができる。
満腹になった勇斗は、仲間の笑い声を聞きながら、心地よい眠りについた。
翌朝、一行は古の湖、エルダレイクのほとりを進んでいた。
湖上には渡し船がいくつも浮かんでいる。
「あれ? 向こうからすごい勢いで船が来ますよ!」
真理が指差した先、二隻の船が水柱を上げながら一隻の渡し船に突進していく。
船尾にはためく旗には、赤く塗られた虎が鋭い牙を剥いた横顔。
「赤牙団……山賊です!」
クラウスが叫ぶのと同時に、山賊の船から火球が放たれる。
襲撃だ。
「クラウスさん、馬車を寄せて! みんな、行くぞ!」
勇斗が駆け出すと、真理も続く。
「ミュリエル、イザベルさん! 山賊の攻撃を止めてください!」
不服を漏らすイザベルに、クラウスの冷たい視線が貫く。
「何で私が……ま、まぁ、仕方ありませんわね! ミュリエル、やっておしまいなさい! エリス、援護を!」
エリスが距離を算出している間に、イザベルが指先から小さな光の矢を放ち、次弾の火球を打ち消してみせる。
「敵船、距離0.25マイル。渡し船は0.3マイル外縁。半径0.06マイル以下なら安全圏に押し出せます」
幌馬車の上に登ったミュリエルは頷くと“蒼穹の水紋”を展開する。
魔方陣が湖面を深く押し込み巨大な滝を作り出した。
そこに吸い込まれるように山賊の船が飲み込まれる。
渡し船は巧みに波に乗せられ、岸辺へと押し出された。
勇斗と真理は、岸に着いた渡し船から怯える人々を降ろし、続けて湖に投げ出された山賊たちを引き上げて縛り上げた。
監視小屋へ戻り、山賊たちをロルフに引き渡すと、助けた船客から礼を言われる。
彼らはオルフェン、ダリオン、セラフィナと名乗る錬金術師の三人組だった。
「いやぁ、助かりました。祠で魔光石の仕上げをする予定だったのです」
「魔光石、ですか?」
勇斗の問いに、オルフェンが彼の腰の剣に目を留める。
「よろしければ、その剣を拝見しても?……ほう、これは見事な。青い魔光石ですが、ランク三とは。立派な魔剣です」
オルフェンの説明によれば、魔光石は魔力量によって青から緑、赤、紫へと色が変化し、大きさでランクが決まるという。
「じゃあ、ランク四で紫の魔光石にするには……」
「大きさ、密度、興して強い魔力に耐えうる、より強靭な触媒が必要です。一流の錬金術師でも滅多にお目にかかれない幻の石ですね」
「幻の魔光石に幻の鋼……どっちも幻ってことか」
その言葉に、ダリオンが猪鍋の器を持ったまま勇斗へ詰め寄った。
「あんた、ファンタズマイトを探しているのか!?」
その剣幕に押されながらも、勇斗は頷いた。
「もっと強い武器を作ってもらうために、幻鋼の情報を求めてイーストバロニア連邦に行くところです」
まっすぐな勇斗の瞳に、三人は何かを感じたようだった。
セラフィナが静かに告げる。
「私達も鋼との関係性に着目して素材を集めたんですが、幻鋼は見つかりませんでした。……三年くらい前の話なので今は違うかもしれません」
その声には、長い苦労の末の諦めが滲んでいた。
しかし、ダリオンは違った。
「もし、もし幻鋼が見つかったら……少しでいい、分けてくれないか。もちろん金は払う。分割でだが……」
その目は、誰よりも幻鋼を渇望していたが弱々しく口ごもる。
幻鋼がいかに高価で手の届かぬ存在かを物語っていた。
しかし真剣な眼差しに勇斗は頷いた。
「わかりました。その時は検討します」
錬金術師たちに別れを告げ、一行は再び幌馬車に乗り込む。
幻鋼探しの道は、想像以上に険しいものになりそうだ。
だが、勇斗の胸には、新たな出会いによって灯された決意の炎が燃えていた。
うっかりミュリエルじゃなくてごめんなさい。赤牙団が山賊なのに船で登場した理由はあとで考えます。




