力を持つ者の責任
学園で派手なパフォーマンスと解体を終えたレティシアは、現在部屋のソファーでぐったりと横になっていた。
「マジで疲れた……」
『姉上の熱量はすさまじかったの。妾も溶けるかと思うたわ』
「マジでそれな」
お行儀悪く足を投げ出すレティシアは、帰りの馬車の中で友人から借りたという『四枚目のハンカチ』をびしょ濡れにさせた姉、イーラに『どれほど感動したか』を延々と語られていた。
そして迎えのために同乗していた兄、フィーディスも驚きを隠せず、レティシアに「本当にそんなことをしたのか?」と確認してきて大変だったのだ。
今は『晩餐の前に少し休みますわ』と口にしたため一人になれているが、その実、精神的な疲れは随一だった。
『それにしても、流石は創造主じゃの! 斯様な演出を思いつくとは、妾は本当に感動したぞ!』
「お前さんもよくやったよ。初めてにしては本当に上手だった。おかげで成功したんだ。ありがとな」
『ムフフフ。もっと褒めてもよいぞ?』
「はいはい。ありがとさん」
未だに興奮冷めやまない雪は楽しげだが、レティシアとしても現状『精霊士の卵』達がどの程度の実力を有しているのかは確認出来た。
(火の精霊はやっぱり扱いに気を付けねえと、契約者側に危険が及ぶな。あれは契約者だから効かない、なんて便利なもんじゃねえから。火は等しく『火』だ。ただ、水は思ったよりうまく連携取れている生徒が多かったな。風はあっちが自由だから何とも言えねえが、それでも中には指示がうまい奴もいた。土は言わずもがな、だな。あいつらは愚直だから、まじめな奴ほど相性がいい)
それと同時に、思い出したくない顔も浮かんできて顔を顰めてしまう。
「大司祭達に目ぇつけられたのはいいことなのか悪いことなのか……」
氷のパフォーマンスでむせび泣いていた大司祭は勿論、その後の解体作業含め、初めて大規模な『他属性の協力』を目にした司祭達の熱量はすごかった。それこそ「後世に残すべく、努力します!」とまで言われたのだ。レティシアは必死に「壁画や銅像にはしてくれるな!」と頼み込んだが、どうなるかは分からない。
むしろ何かしらの形に残されそうで、今のうちから恐怖しかなかった。
「教師陣のこっちを見てくる目も変わったしなぁ。最初は『どうしてくれよう、この問題児』みたいだったのが、解体が終わる頃には『精霊の専門家』みたいな目で見てたし……。いや、あながち間違ってはいねえんだけど……」
事実『精霊を作った張本人』だ。誰よりも特性や協力関係、相互作用については詳しい。だからこそ今回も速やかに撤収作業を行えたのだが、その姿が教師にどう映るのか。正直考えていなかった。
「ま、俺からすればガキに主導権握らせたまま何もしなかった時点で不合格だけどな。精霊たちを何だと思ってやがるんだ? もしも便利な道具扱いしてたら許さねえ」
生みの親として、我が子の名誉を守るのは当然だ。レティシアはそう考えながらも起き上がり、そっと晩餐の用意が出来たと告げに来たメイドに返事をした。
◇ ◇ ◇
そんなレティシアが色んな意味で注目される中、ようやく迎えた休日。さて何をしようか、と考えた瞬間にドアがノックされ、母と姉、兄が揃って顔を出す。
「どうしたのです? そのように集まって」
この三人はモロー家の中でも『精霊と契約していない』人たちだ。妹もそうだが、おそらくまだ眠っているから不在なのだろう。あるいは今回の目的に関係ないからか。火の上級精霊と契約している父親がこの場にいないことに不安を抱きつつ、尋ねたレティシアに、母親であるフローラが口火を切る。
「それが……あなたに、大切な話があるの」
「大切な話、ですか?」
「ええ。今、そのことでお父様が王宮に行っているのだけど……」
「レティ。ごめんね。お前のことは僕たちが守ると言ったのに、今回ばかりは、無理かもしれない」
母と姉にそれぞれ手を取られたかと思えば、兄からは謝罪される。まったく意味が分からないレティシアであったが、沈鬱な表情と、伯爵家当主である父親、そして『王宮』という単語が出てきたことで察した。
「ああ……。精霊王との契約者ですからね。きっと王宮から『魔獣の調査』もしくは『討伐隊』に名を連ねるよう、指示でもありましたか?」
「!!」
「レティ、やはりあなたは賢い子ね」
「でも、今回ばかりはもう少し鈍い子でいてほしかったよ」
ギュッと兄に抱きしめられ、レティシアは「やっぱりそうか」と判断する。
世界でも類を見ない、むしろ歴史上『初めて』と言ってもいいほど珍しい『精霊士』なのだ。ならばこの力を腐らせるなど、国が許すはずもない。
様々な世界で働いてきたからこそ察したレティシアは「ま、当然の判断だな」と冷静だったが、家族は違う。
つい先日まで小さく、体が冷たくて眠りっぱなしの妹だったのだ。そんな娘、妹に危険なことをさせたいはずがない。
だが王家の意思を覆せる材料も多くない。現在のレティシアは『氷のパフォーマンス』を行えるほどの実力と体力があると示したばかりなのだ。『病弱だからできません』は通用しない。
「大丈夫ですよ。むしろ私も外の世界に興味がございましたから」
「レティ! あなたはこの間までこんなに小さかったのよ?!」
「そうだよ! 起きていられた時間も長くない。日によっては十時間もなかったじゃないか!」
「そんなに眠っていましたのね、私……」
睡眠学習改め、肉体が成長を留めている間も、精神世界では雪と会話をしたり、外の世界の会話を聞いていた身だ。だからこそ「そんなに寝てたのか?」と改めて頬をひきつらせたレティシアに対し、家族は力強く頷く。
「あなたが生まれた時も、お医者様から『もしかしたら長くは生きられないかもしれない』と言われていたのよ?」
「今が元気だからって、これからもそうだという保証はないじゃない!」
「そうだよ。幾ら精霊王と契約したからって、あまりにも横暴だ。むしろ『王』と契約したからこそ、お前に負担がかかるかもしれないじゃないか」
兄、フィーディスの言うことはもっともだ。むしろそう考えるのが『普通』とさえ言える。
だが元とはいえ『創造主』であった身だ。体内に溢れる魔力は他の人より多く、また精霊達との親和性も高い。だから意外と低燃費で活動出来るのだが、精霊と契約していない三人には分からないことだろう。
レティシアは「本当に心配性だなあ」と思いながらも、首を横に振った。
「ご心配いただき、ありがとうございます。本当に、心から嬉しいですわ。私は、こんなにも家族に『愛されている』と分かりましたもの」
これは紛れもなく本心だ。色んな世界を見てきたからこそ言える。ここまで自分を大切にし、愛情を注いでくれた家族はめったにいないと。だからこそ、レティシアは『死なせたくない』と思う。
「強い力を持った者には、相応の試練と責任が伴うものですわ。ですから、私は逃げずに背負いたいと思うのです」
この世界を作った責任者の一人として──。
そう心中で続けたレティシアを、家族は泣きそうな顔で抱きしめるだけだった。




