創造主、現場監督になる
この国で初めてとも言える『アイスリンクショー』を見せたレティシアだったが、鳴りやまない拍手喝采を宥めるようにパンパン! と手を叩く。そしてすっと静まった皆に聞こえるよう、声を張った。
「雪の精霊王との連携はここまでです! ここからは、皆さまの力をお貸しください!」
レティシアの発言に、生徒も教師も「何をするつもりなのか」と顔を合わせる。だが続けられた言葉に、教師たちは目を見開いた。
「ここで私が作った『氷の建造物』を、各自が精霊と手を合わせて解体し、元の中庭に戻すこと──それにより、各自の精霊との『コミュニケーション』と『連携』が行えると思うのです。クラス関係なく、精霊との契約者は中庭に集合し、手を貸してください!」
実際、レティシアと雪が作り上げた『氷の建造物』は中々に壮大だ。実際の建物規模とは言わないが、高さだけは相応にある。だからこそ「火や水、風、土、それぞれの力を見せる場所があるのではないか」と考えたことに、教師たちは肌を震わせ、精霊士の卵たちはこぞって走り出し、中庭に集まってくる。
「はい! 俺は火の精霊と契約しています!」「私は水よ!」「風の精霊に出来ることってある?!」「土は?!」
新入生、上級生、性別問わず集まった面々の目や表情は非常に生き生きとしており、「精霊に好かれる奴らって基本的に『楽しいこと好き』だよな」とレティシアは苦笑いする。
「ではまず、火の精霊と契約している方はこちらに。水の精霊の契約者はこちら。風と土は……」
本来なら教師が指示を出す場面だが、今はすっかりレティシアの独壇場だ。そして誰もが文句を述べることなく彼女の指示に従い、精霊たちに指示を出す。
また精霊たちも、雪の精霊王が作った建造物だと分かるのだろう。ギョッとしたり、はしゃいで飛び回ったり、触ったり叩いたりと反応は様々だ。
大司祭と、それに追従してきた司祭達はその姿にも驚き、必死にスケッチを残したり、状況を書き起こしていく。
『フフフ。こうして見ると、なかなか面白い光景ではないか』
「だろ? 精霊ってのは、上級だから偉いんじゃねえ。下級だから弱いってこともねえ。皆それぞれ、力を発揮できる場所があるんだよ」
現に畑や花壇を整え、栄養を与えたり、実り豊かにすることが得意な土の精霊たちも、溶けた水が泥とならないよう、乾いた土に水を吸わせている。
そして水の精霊たちも溶けた雪が大量の水となって大地や契約者を濡らさないよう宙に浮かせ、風の精霊たちは更にそのサポートをする。
火の精霊たちは各々の方法で雪を溶かし、自身の力を最大限ぶつけても壊れない雪の城に大はしゃぎであった。
当然雪も少しずつ力を流して解体しているが、一気に破壊して地面に突き刺さないよう、緻密な作業をしている。それでもレティシアと会話できる余裕があるのは、流石『王』と言うべきであった。
イーラはそんな妹の姿を教室から眺めていたが、握りしめていたハンカチは既にびしょぬれになっており、二枚目のハンカチを友人から借りる羽目になっていた。
「レ、レティが、わたくしの可愛いレティが、あ、あんなに、げんきに、氷の上を、おどって……!」
「ええ、そうね。よかったわね、イーラ」
「とっても感動したわ。素敵だったわ、イーラ」
日中眠ってばかりで、ダンスの授業すらまともに受けたことがなかった。そんな妹が、氷の上であれだけ活動したのだ。イーラにとっては『奇跡の瞬間』の連続でしかなく、涙腺は決壊していた。
「お、おがあさまにも、おどうさまにも、みんなに、見せて、あげたい、うぐっ、ひっ、うぅ~」
「ええ、そうね。レティシア様がお元気になられたと、ご家族に教えてあげましょうね」
「きっと皆さまお喜びになりますわね」
「私からも、今度お祝いの品を贈らせていただきますわ」
「あ、ありがとう、ございます……レ、レティも、家族も、よろこび、ますわ」
グズグズと泣き続けるイーラに寄り添う友人たちは、イーラがどれほど“レティ”を愛しているかを知っている。お茶会でもパーティーでも、彼女の口から出てくる話題は『妹が可愛くてたまらない』というものだったからだ。
だからこそ、彼女たちも氷上のパフォーマンスを行ったレティシアをあたたかい目で見つめていた。
「本当に……お元気になられてよかったわ」
微笑みあう彼女たちの目下では、各精霊と生徒に指示を出し、駆け回るレティシアの活発な姿があった。




