親子会議
母親からドレスを拝借し、改めて制服を製作するために採寸を行った数時間後。ようやくレティシアは自由時間を得ることが出来た。
「雪、闇に亜空間を作るように言ってくれ。光源は光がいれば十分だろう。ついでに全員そこに集合だ」
『まとめて会うのかえ?』
「ああ。制服が出来れば学校に行かなきゃいけねえし、ホイホイ出かけて行方不明扱いされてもたまらねえからな。今日は『精霊王との契約』と『体の変化』でキツイ、って言って寝かせてもらえることになったから問題ねえ。むしろ自由時間が確保出来るのが今日しかねえんだよ」
『なるほど。仮病を使いたくないということか。あい分かった。ではそう伝えよう』
雪の精霊王は同じ精霊王である『闇の精霊王』に下級精霊を使って伝令を飛ばす。
精霊にも下級、中級、上級と種類があり、能力がそれぞれ異なっている。下級だから弱い、上級だから偉い、ということもない。単に能力値の『規模の差』による違いとか、そんなものだ。
『主よ。闇から返答が来たぞ。準備が整ったらしい。他の王も妾以外揃っておるとのことじゃ』
「あ? 思ったより早えな」
『それほどそなたに会いたかったということよ』
考えてみれば、自分がここの生物を創ってから何年経ったのかも分からない。ましてや『世界』が自分を再度この世界に派遣した理由もだ。
それを確認するためにも、この世の秩序を守る精霊王たちに会うのが手っ取り早い。
雪と共に『闇の精霊王』が作り出した亜空間──本来であれば真っ暗な闇だけが広がるそこに入れば、眩く輝く『光』が存在した。
「よお。お前ら。元気だったか?」
『お久しぶりね。あなたも元気だったかしら』
『うむ。久しいな、我らが創造主よ』
真っ先に口を開いたのは、この亜空間を照らす存在──最初に生み出した精霊王こと『光の精霊王』だ。
彼女の淡い、白に近い金色の髪は毛先に向かって桃色に変わっていき、シンプルなエンパイア風のドレスに包まれた肉体からは地母神のような柔らかな雰囲気が感じ取れる。
その隣に立つのが、光の精霊王と対を成す『双子の精霊王』として生み出した『闇の精霊王』だ。
夜空を閉じ込めたようなVネックの裳裾の長いドレスに、花嫁のような、けれど漆黒のベールで顔を覆っている。その髪も顔も、幾重にも重ねられたベールのせいで見ることは叶わない。
だが雰囲気が異なっていても、背丈も顔立ちもそっくりに作ってある。そしてその大きさは二階建ての建物とほぼ同じであり、人間からすると非常に大きい。
そんな二人を見上げる中、左右から他の声も飛んでくる。
『フン! 今更帰ってきて何の用なのよ。しかも人間の姿で現れるなんて、意味が分からないわ』
『細かいことは分からんが、また会えて嬉しいぞ! 創造主!』
『久しぶり~、創造主。元気にしてた~? オレは元気だったよ~』
『そなたが舞い戻ってきたのには理由があるのだろう。それを共有するために、此度は我らを呼んだのだろう?』
ツンとした態度で話しかけてきたのは、少女の姿をした『水の精霊王』だ。
膝丈の白いドレスは横に広がり、水を現す青い髪はショートボブで活発的な印象を与える。そんな彼女はレティシアが戻ってきたことなど嬉しくないかのように振る舞っているが、その実真っ先に確認しようと動いた精霊王である。
そしてその隣に立っていたのが、がっしりとした分厚い肉体を持つ『火の精霊王』だ。
火とはいえ、戦闘よりも鍛冶仕事の方が気に入っている王である。そのためドワーフとの親和性が高く、本人もおおらかで豪快な気質をしている。
そんな二人の周りを自由気ままに飛んでいるのが『風の精霊王』だ。
妖精かと見間違うほどその姿は小さく、手のひらサイズほどしかない。また、その背には半透明な羽があり、姿形はまさに『妖精』である。とはいえ彼も自身の領域では青年の姿になれるため、今は自由な風らしく好きなサイズで飛んでいた。
最後に地面を揺らすような低い声で語りかけてきたのは、二メートル程の身長を誇る老人であった。
これは『土の精霊王』が人の姿を取ったものであり、本来は巨大な亀の姿で生活している。甲羅には木々が育って森となっており、巨体を動かさなくてもいいように尾は蛇になっている。
その蛇は人型の時は杖となっており、持ち手部分の蛇頭がじっとレティシアを見ていた。
「集まってもらって悪いな。俺もまだ『何故この世界に再度呼び戻されたのか』は分かってねえんだ。だから現状、この世界がどう変わっていったのかをお前たちに確認する必要があった」
『そうだったの。では、何から話そうかしら』
「一先ず、俺が去ってからどれほど月日が経ったのか確認したい。それから──……」
最初に生み出した光の精霊王を代表とし、レティシアは幾つか質問する。そして分かったことは──
「嘘だろ……。あのダメ神、俺が去ってからの“一万年”の間、一度もお前たちに顔を見せなかったのか?!」
『ええ。あなたから“創造神は別にいる”と教えてもらったことは覚えているけれど、お会いしたことはないわ』
『うむ。我らが覚えているのは、生命を創造したそなただけだ』
「あんのクソボケエエエエ!! 俺が生み出した子供たちに全部押し付けて遊んでやがんのか!」
レティシアは母親から借りたドレスを破らないよう注意しながら、頭を抱えて叫ぶ。
(まさか一万年も時が経っていたとは……。幾ら世界ごとに時間の流れが違うとはいえ、俺の体感じゃ千年程度だぞ。……だが、それだけありゃ文明も進むか。ってことはだ)
ダメ神こと本来の創造神に腹を立てつつ、レティシアは顔を上げる。
「なあ、今の『世界の人口比率』はどうなってる?」
『人口比率?』
「ああ。魔界と人類種の比率だ」
創造神が仕事を放棄しているのであれば、レティシアを『この世界』に再び送り出したのは『世界そのもの』だ。そして様々な世界、神々の下で働いてきたレティシアは、その経験則でとある仮説を立てた。
同時に『最も的中してほしくない見解』でもあり、祈るような気持ちで返答を待っていたのだが──
『そうね。今は人類種と魔界の生物の比率は、八対二、というところかしら』
光の精霊王からもたらされた“事実”に、今度こそレティシアは白目をむきそうになった。




