生まれ変わった創造主
──この世界には『精霊王』と呼ばれる、秩序を守る存在がいる。
光・闇・土・水・火・風、そして、雪。七柱の精霊王がこの世界の均衡を守っている。
また、この惑星には細かく分類して四つの『世界』がある。
一つが『神界』だ。
これは言わずもがな、神々が住まう世界だ。とはいえ、これは“一つの銀河・惑星”と繋がっているため、一柱だけが住んでいるわけではない。数多の世界の神がそれぞれの領域で暮らしている。
次に『人間界』だ。
こちらは『人類種』と呼ばれる人型の生き物が棲息している。普通種を始めとした、森人兼耳長族のエルフ、土人の小人であるドワーフなどだ。彼らの生息地は森の中や穴倉と分かれているが、概ねそれぞれの地域で暮らしている。
三つめが『精霊界』だ。
ここでは七つの属性に分かれた精霊たちの領域があり、各精霊はそこで過ごし、人間界に顔を出す。
人間との『契約』は精霊の了承がないと行えず、時には『王』の手により強制的に破棄することが可能だ。そうじゃないと一方的に使役されて傷つけあうことになるからな。
最後に『魔界』だ。
こちらは魔物と魔獣が棲息する土地だ。この世界特有の生き物のみが棲息しており、魔獣は知能が低いが、魔物は知能が高く、敵に回すと厄介である。同時に、彼らは人類の敵であり、常に一進一退の攻防を繰り広げている。
……何故こんなに詳しいかって?
それは“俺”がこの世界の大半を作った存在だからだよ。
◇ ◇ ◇
レティシア・モローはかつて、この世界を『創造神』と共に製作した側だ。だが悲しいかな、本来の管理者である『創造神』がまったくもってダメな神であったため、その殆どを丸投げされた身である。
その結果生まれたのが『精霊王』『人類』『魔界の生物』だ。
レティシアは改めて思う。
俺、働きすぎじゃね? と──。
◇ ◇ ◇
昨日、学園の聖堂で歴史的快挙を達成した当人、レティシアは、現在ベッドの上で頭を抱えていた。
「こうなるよなぁ……分かってたんだよ。こうなることは。だから予めお母様のドレスを一着拝借したかったのに」
そう呟く体には、無残にも切り裂かれた布の残骸がまとわりついている。
何せ昨夜までは百二十センチしかなかった体が、本来の姿である百六十センチまでに大きくなっていたからだ。
だがこうなると分かっていたレティシアと違い、モロー伯爵家の人間は「奥様のドレスをお召しになることは出来かねるかと……」と言って取り合わなかった。
結果的に真っ裸で寝たような格好になっており、レティシアは「変態かよ……」と呟きながらシーツを体に巻き付ける。
それからサイドテーブルの上に置いていた呼び鈴を鳴らし、現れたメイドが悲鳴を上げる中、もう一度命令した。
「お母様のドレスを一着お借りしてきてちょうだい。こんな姿では表に出られないわ」
「か、かかかかしこまりました! 今すぐに!」
転びそうになりながら飛び出したメイドに「ドアぐらい閉めて行けえ!」と内心で叫びながら、代わりにそっと閉める。
「はあ。昨日は学校でも家でも大変だったってえのに、今日もこんな感じなのかよ」
思わずぼやいたレティシアに、白銀の着物を纏った“雪の精霊王”こと“雪”が『ほほ』と楽し気に笑う。
『主はどこに行っても人気者だのう』
「だぁれのせいだと思ってんだ! あとなあ、お前が顕現したと同時に俺にかけてた『ベール』が剥がれたんだぞ。他の精霊王たちにも顔出しに行かなきゃならなくなったし……。本当、どうしてくれんだ」
あちこちで『神々』の手助けをしていたため、男でも女でも生きていける身ではある。それでも意識が男寄りなのは本人の性格の問題だ。
見た目は金髪に赤い瞳をした気だるげな美少女なのに、口を開けば残念なほど男勝りな性格が露わになる。
そんなレティシアでも、雪は自らを創造した『創造主』であると本能的に理解しているため、おおらかに笑うだけだった。
『契約するにはそなたの体から一度“出る”必要があったからの。許してたもう』
「はあ……。まあ、昨日まではお前の能力で俺の力を覆い隠していたから、平和に生きてこられたからな。だが、ただでさえ『世界初の精霊王の契約者』になっちまったんだ。他の精霊王とも会う予定だ、なんてバレたらとんでもないことになるぞ」
この世界に住まうあらゆる種族を創り上げたのがレティシアだ。精霊王も例外ではない。
だからこそ雪の『氷のベール』が解けたことにより、レティシアは本来の姿が露わになり──同時に、自身が『創造主』であるという事実さえ精霊たちに知れ渡ってしまった。
『とはいえ、今は妾と契約した身。ベールが剥がれていようとも現状は妾の魔力で覆われておる。よほどのことがなければ気づく者はおらぬぞ』
「慢心した時こそやべえことが起きるんだよ。……とにかく、精霊王たちに会うことは必要だと分かっている。極秘で行うがな」
『うむ。それがよかろうの』
これまでは雪がレティシアの“体内”に住み着いていたため、魂に刻み込まれた『創造主』としての存在感が覆い隠されていた。だが契約時に体内から離れたことにより、この世界すべてに『自らの創造主』が戻ってきたことが知れ渡ってしまったのだ。
おかげでレティシアは雪を通して精霊王たちに「全員待機! 俺が声をかけるまで絶対に近づいてくるな!」と命令を下す羽目になり、現在に至る。
「今日は学校に行けそうにねえな。制服入らねえもん」
『母上殿のドレスを着て行けばよかろう』
「どこの誰が学校にドレス着ていくんだよ! 俺はそこまで目立ちたがり屋じゃねえ!」
そう叫んだ直後にノックの音が響き渡り、レティシアは現れた母親と姉に再度悲鳴を上げられ、うんざりとした様子で肩を落とした。




