プロローグ
新連載です。お仕事コメディ、時々シリアス。世界のためにひた走る中間管理職系主人公のお話です。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
コツ、コツ、と音を立てながら、一人の少女が中央の道を歩く。
白銀の髪はステンドグラスから差し込む光に照らされ煌めき、雪のように淡い水色の瞳はまっすぐ前を見据えている。
学園に併設された聖堂に集うのは、今年入学したばかりの少年少女だ。
今日はこの場で自身の魔力を計測し、同時に『精霊』と契約をする。
魔力の計測、また精霊との『契約』に必要とされる道具は大きな丸い水晶であり、それに手を翳して光れば魔力があることが分かる。そのうえで精霊側が『契約したい』と思えば姿を現す仕組みだ。
既にこの場に集う何名かは精霊との契約を済ませている。とはいえ、全体的に見てもその割合は少なく、誰もが『精霊士』になれるわけではない。
それでも少女──レティシア・モローは、自身が『精霊士』になることを確信していた。
「それではモロー伯爵令嬢。水晶に手を当ててください。……必要であれば踏み台をご用意いたしますが」
「お気遣いありがとうございます。ですが、必要ございませんわ。大司祭様」
精霊との契約は名誉であり、稀有なことだ。だからこそわざわざ神殿から大司祭が訪れ、契約を確認する。
そんな彼がレティシアに困惑した目を向けるのも無理はない。何せその身長は、十五歳にして僅か百二十センチほどしかなかったからだ。
だがレティシアは気にせず水晶に向かって手を伸ばす。
本来であれば、水晶に手が触れなければ発動しない。魔力測定然り、精霊との契約然り、それが『世界の常識』だからだ。
だというのに、レティシアの手が触れる前に水晶の中には『雪の結晶』が現れ始める。同時に聖堂の室温が急激に下がり、ピキピキと音を立てて水晶を凍らせ始めた。
「こ、これは一体……!」
困惑する大司祭が一歩退いた瞬間、水晶を置いていた台座や机、椅子、壁、ガラスといった様々なものが氷漬けになっていく。
「大司祭様! これはどういうことですか!」
「わ、分からぬ! こんなことは生まれて初めてだ!」
神殿の者達が騒ぐ中、どこからともなく漂う冷気が渦を巻き始める。まるで風の精霊が強風を起こしているかのように激しく窓ガラスを揺らし、一か所に集まっていく。
方々から悲鳴が上がる中、契約を済ませた生徒たちを守るように、様々な精霊たちが飛び出しては小さな背に庇う。
だが水晶の前に立つ白銀の少女、レティシアだけは動揺することなく、凍り付いたまつ毛を鬱陶しそうに上下させる。そして白い吐息を零しながら、周りに聞こえない声で囁いた。
「もったいぶらずにいい加減出てこい。──雪」
その声を待っていたのだろう。そう思わずにはいられないほど、突如地面から巨大な水晶が天に向かって突き出てくる。司祭、教師、生徒、誰もが悲鳴を上げて見守る中、その水晶──に見せかけた花から、一羽の鳥が姿を現した。
『ほほっ。待たせてすまなんだのう、主よ』
「はあ……。ったく、ここは劇場じゃねえんだぞ。誰がここまで派手な演出しろって言ったよ」
目立ちたがり屋な『鶴』のような見た目をした鳥に対し、レティシアは腰に手を当てながら呆れたように言葉を返す。
だがその出で立ちは『氷のベール』を取ったかのように、髪も目の色も正反対のもの──金髪に赤い瞳へと変わっていた。
『では、改めて挨拶をしよう。我は“雪の精霊王”。此度、そなたと契約するために顕現した。末永くよろしく頼むぞ、我が主よ』
「はいはい。よろしく頼むよ。雪」
地面どころか聖堂のあらゆるものが凍り付く中、誰もが呼吸さえ忘れてその姿に見入る。
何せ今この瞬間まで『幻』と言われていた“雪の精霊王”が目の前に現れたのだ。心を奪われない方が無理な話だろう。
そんな中、レティシアだけが小さな手を伸ばし、世界初の『精霊王』との契約を結ぶ。
途端に細身の鶴の姿をしていた“雪の精霊王”は、白銀の髪を持つ着物姿の美女へと姿を変えた。
そこで多くの人間がハッとする。
日頃から見ていたレティシアの髪も、瞳も、すべてこの“雪の精霊王”と同じであったことに。
「ふぅー……。で? お前、この惨状を元に戻せる算段があるんだろうな?」
『……ほほほ。火の精霊でもおればよかったの』
「お前なあ!」
こうしてレティシア・モローは、世界的にも歴史的にも、異例中の異例としてその名を刻むことになった。
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